そんなヤツはいない | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

「でも、アイツだって男だよ」

 

「男!思ったことないわ」

 

「sanaが思ってなくても!相手がそう思う場合もある、だからそういう振る舞いをしないで。胸が当たったりすれば、その気になる男はいくらでもいる」

 

「・・・・」

(いや、そんな奇特なヤツはいない。何かおかしくなってるぞ見え方があせる ←sana心の声)

 

いったい、私をいくつの娘だと・・・

こんなにはっきりと独占欲じみたことを言われたのは初めてで

 

そう飲んでいるわけじゃない、のに


雅治は、まっすぐ見つめてくる


この目は、見たことがあって

 

 

ずいぶん昔

 

「彼氏できた?」
 

「・・・別れました」

 

そう話した後

雅治に、先生に初めて抱かれた時の目

 

 

 

 

まるで罰を与えるかのように力づくで服を剥ぎ

乞うように抱え「まだ僕のことが好き?」と問うた

 

身体に遺る別の男の影を探す目は

何か怒りのような悲しみのような


記憶にある限り、それまでに私の前ではっきりとした感情を見せてくれるような振る舞いは無い。

だから、その感情の揺れがどこから来るのか解らず怖くもあって


やがて熱が冷め、いつもの静かな顔に戻ったけれど

その時の目を、思い出す

 

雅治は

私の否定がまだ腑に落ちない顔で私を見ていた

そういう時はいつにもまして筋道の立った答えを雅治は欲しがる

「sanaは・・sanaの身体はエロいから」


「もう」


困ったな・・・重症だと思いつつ、私が追いかけてばかりの、何を考えているのかさっぱり見えない巨神兵の時代とは、雅治は随分変わったと思う

 

たぶん、この恋の精神年齢はあえての昔のままで。
そこをふたりで行ったり来たりして戯れている、きっと



 

私たちの恋は水底の恋

外からの波は届かぬ

 

目隠しな私を腕の中から離さず抱えておきながら
何をいまさらにリアルみたいな嫉妬など

 

 

「ごめんなさい、今度写真を撮る時は気をつけます。隣の人に胸が当たらないように」

 

そう言って

喋る以上に感情が出るようになった雅治の目を、見つめ返した

 

 

 

どうやら

心の中を吐露させる、そんな媚薬いりに違いない今夜の中華料理は

 

とても、美味しく

 

杏仁豆腐は

小さな器の中で、まだ少し残ってる

 

 

「さ、仕上げて、もうホテルに帰りましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

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