セルフ・エクスポージャー | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

「いまから、こちらを出ます。ナビによれば到着はこのくらいの時間になりそう」

 

「気をつけて、安全運転で」

 

反射するようなタイミングで返信が返ってくる

 

 

 

「僕を待たせるとか思わなくていいから。事故のないように」

 

この数日の間、何度も何度も言われた

わかってる でも

 

雅治はいつも、待ち合わせ場所には先に来ている

 

背の高い後姿を思い出す

足元に伸びる長い影も

 

 

 

コーヒーと、お茶と

眠気覚ましのガムは持った

 

 

もう、少し呼吸が浅い

 

「大丈夫。何度も通った道」

 

ひとりごとをつぶやき、ハンドルを握る

 

 

 

 

 

 

何か良くないことが絶対起こりそうな気がする

 

根拠なく心の奥から聞こえてくる言葉を真に受けると

動けなくなる

立ち止まってしまえば

この先ずっと、さらに長く動けなくなる

 

歪んだ思考を、断ち切らないと

 

 

大学で学んだ認知行動療法のひとつに、暴露療法(エクスポージャー療法)というのがあって

・・・食物アレルギーの強い患者さんに、あえてその食物を少しずつ口にさせて平衡点を探り、徐々にアレルギーが出なくなるように身体を慣れさせる「アレルゲン免疫療法」に似た、と言えばわかりやすいかな

 

怖いと感じる行動を小さくレベル分解して、徐々にクリアしていき、感じている「怖さ」は怖くないと認識させる、自分の間違った思い込み(認知のゆがみ)を修正していくというもので

 

例えば

 

電車に乗れないという状況の人に

①家から出てみる

②駅の近くまで行ってみる

③改札を通ってみる

④乗るための列に並んでみる

⑤車両に乗って、すぐ降りる

⑥車両に乗って、次の駅まで行ってみる

 

みたいに小さなステップで経験させ、克服に導くというもの

 

三歩すすんで二歩下がるみたいなことは当たりまえ、もっと恐怖感が増す場合もあるだろうし、セラピスト(治療者)とクライエント(患者)の信頼関係のもとでひとつひとつクリアしていく、とあったけれど

 

治療者は患者にとって神にもなりゃ鬼にもなる状況じゃないかと、想像しドキドキした。

でも、間違った思い込みを是正していく手段のひとつ、というところはとても興味深く印象に残っていて

 

 

ふと、これをやってみようか、と

 

そして

 

 

 

セラピストとクライエント

両方の役割を、自分一人で行なうことは可能だろうか

 

 

 

言わば、セルフ・エクスポージャー法 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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