その日は
何度も何度も、身体を重ねた
目が合えば唇を求め
手を伸ばせば、雅治の身体がそこにある
スイッチはどこにでも転がっていた
手当たり次第に押すかのように、求めた
触れていたい
添うように触れ、次第に誘導し、私を開いて
私は雅治にずっと酔い続け
でも
抱かれれば抱かれるほどに、私はクリアになっていく
体の中に、寒々しい覚悟が出来つつあった
「眼鏡、今日はしないのね」
「・・・してたほうがいい?」
「見たいから外さないって。外してって言ってもあんまり外さないのに」
「ふふ・・・」
「でも、今日してた眼鏡のほうが、別のよりも好き」
「そう?」
「うん・・・濃い色の縁がある眼鏡のほうが好き」
イマドキのおしゃれ眼鏡、よりも
少し昭和な
だって、私の記憶にあるのは、黒縁の眼鏡だもの
ネクタイも、眼鏡も
キュッと締まる濃い色が、存在感があって似合う
昔はとても強く見えた眼鏡が、今は上手に時を捉えていて
昔よりもインテリ度は上がってる
「でも・・・」
「うん?」
「人前ではほとんど外さないんでしょ、眼鏡。だから、外した顔はいつもと雰囲気が違って見えてちょっとドキドキする、違う人みたいで」
「あれ、sanaはじゃあ僕じゃない違う誰に抱かれているの?」
「・・・まぁ!」
アラカンとアラフィフ、のいい大人の会話じゃない
昔を知っている相手、って、時がその時に戻ると言うから
逢っている時は、いつも私はハタチそこそこの、気分に戻ってる
「眼鏡があるのとないのと、sanaはどっちがいい?」
「・・・どっちも。だけど、他の人があまり見たことがない顔を至近距離で見られるのは、嬉しいかな、前は言っても外してくれなかった」
「ふふふふ・・・」
「雅治・・・あのね・・」
「うん?」
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