話せたら | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

今、を話すには
謝恩会の夜から、さかのぼらなければならない
 
ひと息では話し尽くせない色々を
けれど日曜夕方の、母としても妻としても忙しいこんな束の間に
告げるわけにもいかない
 
 
 
「ふふふふ・・・」
 
言いきった、とでもいうような満足げな表情を浮かべ私をのぞきこむ。
 
私と同じように、ガサガサと手荒れのある指先がコーヒーのストローをつまむ。黒い液体が彼女の喉に吸い込まれているのを見、その視線に目を合わせた。
 
 
 
 
彼女は
 
私たちの時の経過を知ったとしても、ただそのまま受け止めるだろう。
 
良いとか悪いとか、
そんな、悩みつくしたことにわざわざ触れ、そこに自らの感情を挟み込み喜怒哀楽を表現するような、野暮はしない
 
 
彼女は、私の、恋のしかたや原点を知っている
 
 
生きるのに、
自らを奮い立たせるのに手を離すことの出来なかった1.5人称の恋を
 
彼女は、きっとわかってくれる
 
 
 
 
私は、弱っている
そう思った
 
どうして、どうして病が降りかかるのが私ではなく雅治なのか
 
この恋が赦されぬ罪であるなら
同じくらいに、それ以上に重い罰を
どうして私に与えてくれなかったのかと、思う
 
恋を、雅治の手に投げかけたのは私だ
 
 
どんなに想っても、私は何も出来ない
何かの折に、傍にいることもなく、手を握ることもできない
 
私は、遠くから
雅治が吐き出すことをしない、できない苦しみに
寄り添おうとする事しかできない
 
今までに考えたことの無い、感じたことの無い痛みを
どうしようもない手詰まりな、閉塞感を全身で感じていた
 
 
 
今ここで
彼女に、
 
話せたら
 
今、の思いだけでも話せたら
 
 
自分の思考が、歪み始めているのに気づいていた
その歪みを、
 
sana、そうじゃない そうじゃないって
 
そう言って貰いたくて
 
 
 
「あのね・・・どうせsanaのことだから、試験受ける準備して、私に連絡するつもりできっちりお土産持ってきたんでしょ。それで、当日に、ふって思いついたみたいに私に連絡をしてくる。これってさ、私にお土産の準備をさせないっていう計画的思考よね。・・・・日曜日に、幼稚園児つれてるお母さんが、突然の来訪者に対して準備できないだろうって」
 
 
「バレてたかてへぺろ・・・いいのよ、それで。小さい子供がいて忙しいのは経験済みだもの、今一番忙しい時じゃない。日曜日の時間は貴重よ、お土産準備する時間じゃない。お土産の交換に来たわけじゃないわ、顔を見に来たんだもの」
 
「あのね、準備させてよ、もう。遠くから来るんだから。・・・でもね」
 
 
 
 
そう言うと、彼女はローズクオーツのフラーレンを差し出した
 
 
 

 

 

 

 

 

ドキドキランキングに参加しています。ポチッとして頂くと励みになりますドキドキ

 

 


女の本音・女心ランキング


にほんブログ村