ジワリと絡んだ腕は、私を抱きとめたまま
私はその腕の中に、いつの間にか身体を預けている
当たり前ではいけない当たり前を、もう身体が享受しようとしている。
テーブルの上のグラスは、空になって随分経つ
手をつけていないお料理が、冷たくなっている
何かを飲んだり食べたりを目的とはしていない
逢う理由さえ、向かいあっていても誤魔化そうとする。そんな誤魔化しの欠片が、テーブルの上に広がってる
欲しいのは言葉を交わす時間じゃない
「だったら僕に逢いに来た?もっと早く僕から連絡したほうが良かったかな?いや、連絡しようかなと思ったりはしたんだけどね」
私のメールの奥にある心を先生は読み取った。
私自身が忘れていた、だけど掘り起こせば確実に揺らぐ気持ちを。
抗えない。
先生は昔のままで私の傍にいる。
手が届くところに。
身体を預けたまま、先生の腕に触れてみる。指先を先生の指に重ねると、ゆっくりと手首を回して、私の手を恋人つなぎで握り返してきた。そんなささいな仕草が鳥肌が立つほどに私をかき乱し、さらに私の理性を失わせていく。
先生はいつもそうだ、昔からそう。だから忘れられずに引きずられてしまう。
絡んだ指先を見つめ、もう一方の手を重ねた
「・・・もっと早く連絡があれば、たぶん逢いに出てきたと思います」
「でもsanaはまだ新婚の人妻さんでしょ?・・・いいのかな?そんなの」
「ひどい」
「ひどい?僕が?・・・もう人妻です!って言ったのは誰だっけ?ねぇ」
Sっ気たっぷりな目が熱を帯びてくる。身体の密着が強くなる。
もうダメだ
見上げて
伏せていた目を先生に絡める
視線がかちりと噛み合ったとたん、先生の唇が下りてきた。
絶対に外さないタイミングは、こんな時も確実に外さない。こんな風に強引に、昔のように、また根っこから私を引きはがして持っていく。
背中に添えられていた指先はキスの間に背中の金具を外した。
過去に何度もされたその動きはその時の記憶を引きずり出し、次の段階を求めてしまう。
もういい
唇が喉を這う。
染み込むように懐かしい、先生の勢いに応えていく。
ランキングに参加しています。ポチッとして頂くと励みになります