本音 | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

「僕を見て」

 

見透かされてはいけない本音。

でも、約束が成立した時点で先生には完全に見透かされている。

それを私に見えるように、先生はあえて言葉であぶりだしていく。

 

 

「ねぇ、答えて。もう忘れてしまった?僕のことなんて」

 

覗き込んでくる目は逢いたかった笑みを湛える。

その微笑みは私の答えを知っているのにごまかすことを許さない。

 

 

 

 

 

 

逢うことになるなんて思ってもいなかった。

 

かの地を訪れた懐かしさでたまたま投げたメールと、返ってこないはずだったメールが繋いだタイミング。

 

 

 

でもこれは、外さなきゃいけないタイミング。

 

指定された日付を引き合いに出し「その日はちょっと」と書けばいい。

他の人に言うように「主人以外の男性と、外で食事はしません」と断ればいい。

 

だけど、外せなくて

それにきっともう先生は、逢えないという答えはないと思ってる。

逢いたいなんて一言もないメールに巧みに隠した、先生の気持ちが見える

 

 見てはいけないのに。

 

 

「あのメール、うれしかったよ。ちょうど、何度かこっちに来ているという事もあったし」

 

「・・・・」

 

「・・・まだこれからも仕事が片付くまでは何回か来るとは思う」

 

 

「どうしてもっと早く連絡してくれなかったんですか?だったら・・・」

 

 

もっと早くから、もっと何度も、と口走りそうになって慌てて飲み込む。

 

 

 

 

「ん?・・・だったら、何て?」

 

「い、いや、えっと・・・」

 

 

「だったら?僕に逢いに来た?もっと早く僕から連絡したほうが良かったかな?いや、連絡しようかなと思ったりはしたんだけどね」

 

 

ためらい、は確実を好む先生の本音。

 確実を、私のメールから先生は読み取った。

それが判ればいい。その後それをメールで語り、今日に向け盛り上げる様な風情も無い。

 

あるのは言葉にしない水面下の互いの感情

 

 

日常に見えてはいけない水面下の非日常

 

種火を消して無かったか。

水底でも消えぬ火は水をも燃料にし、じわりと舐めるように広がっていく

 


 

 

 

 

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