「僕を見て」
見透かされてはいけない本音。
でも、約束が成立した時点で先生には完全に見透かされている。
それを私に見えるように、先生はあえて言葉であぶりだしていく。
「ねぇ、答えて。もう忘れてしまった?僕のことなんて」
覗き込んでくる目は逢いたかった笑みを湛える。
その微笑みは私の答えを知っているのにごまかすことを許さない。
逢うことになるなんて思ってもいなかった。
かの地を訪れた懐かしさでたまたま投げたメールと、返ってこないはずだったメールが繋いだタイミング。
でもこれは、外さなきゃいけないタイミング。
指定された日付を引き合いに出し「その日はちょっと」と書けばいい。
他の人に言うように「主人以外の男性と、外で食事はしません」と断ればいい。
だけど、外せなくて
それにきっともう先生は、逢えないという答えはないと思ってる。
逢いたいなんて一言もないメールに巧みに隠した、先生の気持ちが見える
見てはいけないのに。
「あのメール、うれしかったよ。ちょうど、何度かこっちに来ているという事もあったし」
「・・・・」
「・・・まだこれからも仕事が片付くまでは何回か来るとは思う」
「どうしてもっと早く連絡してくれなかったんですか?だったら・・・」
もっと早くから、もっと何度も、と口走りそうになって慌てて飲み込む。
「ん?・・・だったら、何て?」
「い、いや、えっと・・・」
「だったら?僕に逢いに来た?もっと早く僕から連絡したほうが良かったかな?いや、連絡しようかなと思ったりはしたんだけどね」
ためらい、は確実を好む先生の本音。
確実を、私のメールから先生は読み取った。
それが判ればいい。その後それをメールで語り、今日に向け盛り上げる様な風情も無い。
あるのは言葉にしない水面下の互いの感情
日常に見えてはいけない水面下の非日常
種火を消して無かったか。
水底でも消えぬ火は水をも燃料にし、じわりと舐めるように広がっていく
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