退職 | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

辞めることが正式に決まってからのことを思い出そうとしても、空洞のような感じでほとんど覚えてない。

 

電話で話すことも無くなっていたし。

 

 

家に帰ると、泥のようにまとわりつく疲れでベッドから起き上がれない虚無な毎日が続いていた。

 

家では家で、またやいやい言う母との泥仕合が待っていたし。

放っておくや見守るということは大事よね、うん。反面教師。

 

 

 

ただ、勤務最終日

院内有志50人ほどの寄せ書きと大きな花束を頂いた。

集まってくれた人たちは口々に「また帰っておいで」と言い拍手をし、肩を叩いてくれた。

 

 

 

頂いた寄せ書きには

 

  ドキドキsanaちゃんドキドキ
  あなたにはとても沢山のことを

  教えてもらいました。
  ありがとう
  そして色々おつかれさまでした。

  少し休んで、

  これからはもう少しゆっくり

  がんばってね。

 

  上手にパソコンで作れるようになったよドキドキ

 

 

 

こう書かれたカードが、沢山のハートマークに彩られて添えられていた。

 

 

たった数人の人たちの思考にがんじがらめになってしまって、いつの間にか見えなくなってしまっていたことが沢山あったのだと、それを忘れないようにこのカードは自責の念を込めて今も手元にある。

 

見えていなかった、上手に立ち回れなかった自分の不甲斐なさを忘れないために。

 

辞める日が決まってから、霞が晴れたように見えてきたもの。

それが辞めようというアクションの前に見えていたら良かったけど。それはそういうアクションを起こさないと見えないものだと思う。

 

 

 

疑心暗鬼も、嫉妬も、駆け引きも、恋情も

仕事をする上では抱えてはいけないものだということもわかった。

 

 

もう仕事の延長で恋はしない。

 

もう斜め上を見る追いかける恋でなく、年齢相応な相手と歩幅を合わせ、平行な目線の恋をする。

 

・・・次に誰かに恋するならね。

 

 

 

 

 

「君がやってきたことは法人に大きな風を起こした。大変だっただろうけどそれは間違いではなかった。この沢山の同僚が声をかけなくても集まってくれたことでそれが解る。これが君への皆の評価ですよ。お疲れ様、今までよく頑張った」

 

 

 

いつの間にか隣にいた事務局長がそう言った。

 

 

何日ぶりかに話す、たぶんもうこれで逢うことのない恋人の言葉は、様々な感情を引き起こしながら胸に響いた。

 

 

好きだった

と、まだとても過去にはできない愛おしい人。

 

 

 

別れよう

そんな言葉をかけあったわけじゃないし

 

 

あのメールの返信を貰っていたわけじゃないから事務局長の了承も何もあったわけじゃない。

 

 

 

 

 

でも私達の2年半あまりの関係は、病院の廊下で静かに終わりを迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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