女に甘えた仕事 | 水底の月

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恋の時は30年になりました 

時折、仕事の後で無言で向かうホテル。剥ぎ取られるように抱き合うSEXは、様々にくぐもった思いを溶かしきるにはもう不十分になってきていて。

 

 

私は、次を欲した。

 

自らの発言や振る舞いが徐々に私を追いつめていることを事務局長は気づいていて。

そして事務局長がそれに気づいていることに、私は気づいていて。

 

事務局長と衝突して、切り刻まれるような気持ちの痛みを抱えながらも、その事務局長の心の隙間に斬りこむ。私は貪欲になりつつあった。

 

 

 

「女がつく普通の仕事ではないかもしれませんが、女に甘えた仕事はしてないつもりです」

 

 

2年ほど前に、事務局長に放った言葉を私は忘れてしまっていた。

女に甘えた仕事、もっと言えば「事務局長の女」がゆえの仕事の振る舞いかたをいつの間にか覚え身につけてしまっていた。できるだけ他人の目はごまかそうとしたけれど、事務局長に対しては「私の男」という視点が抜けなくなってきていた。

 

ある種冷ややかに事務局長を見つめながら、「私の男」という視点が揺らぐことは耐え難くて。

対抗するつもりはなくても、姿の見えぬ彼女に対する嫉妬、事務局長に対する納得のいかない思いと同時にそれも理解してしまえる部分から沸き起こる愛おしさ。

自分との比較の対象は目に見えぬものにまで及び、簡単に疑心暗鬼を生む。私の思考はどこに主軸を置いていいかわからなくなっていく。

 

 

「私達はどんな関係なんですか。私は、あなたの仕事を円滑に運ぶための道具ですか。そんな私を黙らせようとこうやって抱く。そうなんでしょう?事務局長の気持ちはどこにあるんです?」

 

 

 

一緒に仕事を動かせばその息遣いがつかめる。必要とするものがすぐにわかる。

それなのに、ただ男と女で向かい合うには見えてこなくなったものがだんだん増えてくる。

見えていたはずのものが見えなくなる。

 

近ければ近いほど淋しい。知れば知るほど苦しい。傍にいない時の不安は身体をかきむしる。

否定されたい。そうじゃない、何を言っていると唇を塞がれたくて

 

 

この頃からだろうか、

事務局長の傍にいることが恐いような気持ちになったのは。事務局長との待ち合わせ、隣に座り顔を見ればホッとするのに、待つ間の時間で軽い過呼吸のような症状が現れるようになってきていた。

 

 

 

 


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