豪雨の夜 | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

職場では話せない、というわけじゃないけど。

教えられた電話番号はその後の毎日を潤すことになった。

 

 

電話口で交わされる、とろけるような話・・

 

にはならずてへぺろ

夜中まで白熱するのは新しく立ち上げた委員会の話。職場の人間の動向、新しいプロジェクトの内容、そして次に起こしていく新しい物事の数々、話しても話しても話が途切れることがなかった。
 

でも、それらはどんな甘い言葉よりも私を潤した。

 

 

「どう思う?この件に関して。どういう風に見る?」

 

 

勿論全て事務局長の意見に添うとは言えない。「意見」として反映されないどころか噛み合わずに口論になりかける。

それでも向き合い、検討し、一つ一つ積み上げていく。形になって見えていく様子はやりがいを生み、やりとりが頻繁であればあるほど加速度的に事務局長への信頼と思慕の温度は上がっていった。

 

 

先生の時と同じ。

 

事務局長は先生よりも動き方が派手で、どちらかというと一人で確実にこなすタイプの先生とは仕事の進め方が違ったけれど、でもそれは業種の違いというだけの話で。
その裏で先生と同じようにきっちりと裏打ちされた仕事運びをし結果を残して次に進む。そんな確実さは同じだった。

 

仕事をするって、そう、アンテナを張って相手の動きを注視して、こういうピリッとした気配。

右目の端で先生の動きを見、先生の靴の動きを見て側に駆け寄る、そんなあの頃に似ていた。

 

事務局長にも、まだそちらを強く求めていた、そう思っていた。

 

 

そんなある日の夕暮れ。

 

 

 

「今日は・・・帰ろうかもう」

 

夕方から降り始めた雨は1階のフロアでもたたきつける雨の音が響き渡るほどだった。
続けざまに雷の影響かパソコンが続けて3回落ちた。

「いつもより雨が強いね。台風でもないのに風も雷もひどい。これ以上やっても危ないか」

 

 

 

その雨は帰宅してからも滝のように降り続き、雷が光り続け、何度も瞬停が起きた。

そうして20時を回ったころだったろうか。

 

 

事務局長から電話がかかってきた。

 

 

「どうしたんですか?いつもより早いですね」

 

 

「今から老健施設に行ってくる」

 

 

「はあ?この雨の中を今から?」

 

 

「施設が浸水する可能性がある、それと後ろの山からの土砂崩れと。あそこは地盤が緩い」

 

 

「え、ちょっと待って、事務局長は病院の事務局長ですよ。もう関係ないじゃないですか」

 

 

「同じ法人で私の手掛けた施設だ。どうしましょうってさっき向こうの職員から連絡があった」

 

 

こうなると行くなというのは不可能だった。止まる人じゃない。

 

「どんな状態なんですか」

 

 

 

「わからない。ただ、おそらくあの周囲はこの雨の勢いだと危ない」

 

 

 

 

 

 

 


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