卒業10(謝恩会) | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

隣の部屋にも、先生はいなかった。

その隣の部屋にもいない。

 

改めて見てみると、賑やかに楽しんでいた担任も、他の先生方の姿も無く

騒いでいるのは学生だけになっていた。

 

「先生たちはー?」

「えっ?何ぃ?」

 

カラオケの大音量のせいで隣の声もまともに聞こえない。

 

「先生たちは?」

「帰っていったよ、さっき。後は若い者で楽しみなさいだって。会計もお終い!」

「ええっ?帰った?」

「だって、もう夜中2時だもん。オジサンたちは眠いから帰るってー」

 

 

噓?

 

ズルイ。

帰るなら、何で声かけてくれなかったの?

何で?最後なのに。最後の最後に、何で何も言わずに置いて行くの?

 

 

「先生たち、どこから帰るって?」

「え? えーと、まっすぐ行ったら西口だから、そのあたりでタクシー捕まえるんじゃない?」

 

急いで友人たちのもとへ引き返した。

「あれ、sana、どこ行ってたー?カラオケ・・・」

 

「ごめん!!、ちょっと、出てきていい?」

 

「どこへ?外?暗いよ?オールナイトで・・・」

 

「先生帰ったって!今さっき出ていったって。 私、まだ居ると思ってて、最後に話をしたかったのに。帰ったって!」

 

 

 

「どうするの、どうしたいの?」

 

「わかんない。でも、追いかける。どこにいるかわかんないけど。それで、もし、帰ってこなかったら・・・」

 

 

「わかった。荷物は持って帰っておく」

「行っといでー。納得できるように話してきたら。 大丈夫、私たちはまだいるから」

 

「ごめん」

 

 

 

 

街灯も無い、真っ暗い外へ、私は走り出た。