恋の始まり3 | 水底の月

水底の月

恋の時は30年になりました 

最初に気になり始めたのは、他の先生方と違う、体に纏うスピードだった。

常に動いている。
患者さんのそばに行き、次のカルテをチェックし、学生に目を光らせる。

 

「学生さんがいるからね。手は抜けないでしょ。仕事中だし」

 

その積み重ね・・・なのか、部門ではNo2の「出世頭」ということらしく
その若さで!?という仕事をいくつも抱えていた。


当然忙しい。日常業務もてんこもり。

では、その中でいかに早く、的確に。患者さんには丁寧に。ではどう動くべきか。

それを考えている、それがこの人の動き方なのか。

そうか、現場ではこういう風に仕事をしないといけないのか。

では、私はどう動いたらいいのだろう。

まね、してみたらいいのかな。自分が出来ることで時間を精一杯使って。

 

すると、見えてくるものがある。
傍らで立つ松岡先生が時折ポイントを教えてくれることもでてきた。
「はぁ?何を言ってる、もう1度」

その言葉尻に、それまでに無かった、からかいじみたニュアンスを感じることも増えてきた。

 

「先生・・・笑うこと出来るんですね」

「あのね。鉄仮面みたいに言わないでくれる。キホンは優しい人間なんです」

「え・・・でも怖いです」

「それは言った事をちゃんと理解してないからでしょう。出来てれば怖いはずが無い」

 

「(まあ、そうなんですけど)。でも怖いって言ってます皆」

「そういう噂を広めないで。僕はおとめ座です。」

 

「・・・はぁ?おとめ座!?(ラピュタの巨人兵なのに?)」

 

 

照れた時には、眼鏡の奥の目が思っていたより柔らかく笑うのも知った。

 

 

 

「sanaちゃん、頑張るねー」

先生たちから少しずつ褒めてもらえるようになった頃、

でも、松岡先生から褒められることはほとんど無かったけれど。

 

 

 

松岡先生への尊敬の気持ちは日増しに大きくなっていった。

そして、尊敬の気持ちが大きくなればなるほど、もうひとつ

 

 

別のやっかいな感情がこみ上げてくるのを感じていた。

 

 

 



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