茶道を習っている。
先生は86歳の大ベテランの方だ。
父も、30年以上前に同じ先生の弟子だった。

先生は一人暮らしだ。
ご主人は既に他界し、一人娘は結婚し二人の子供がいる。

最近は足も弱り、物忘れも時々表れるようになった。
しかし、お茶についてはさすがである。若いお弟子さんもうっかり間違えてしまうお点前もきちんと覚えている。
先生にとって、お茶は生き甲斐なのだ。

戦前から習っていらしたそうだ。
良い家柄なのは間違いないと思う。

最近、お庭で怪我をしたとのことで、お嬢さんも心配している。
同居を進めたがどうしても得心しないそうだ。

恐らく、自立を望んでいるのだ。

お茶を教えることを生き甲斐とする先生にとって、長年茶室を構えてお住まいになっていたご自宅を離れて生活することは、魂を取られてしまうに等しいことなのかも知れない。

そんな先生とお嬢さんの間の折衷案が、ご自宅近くのケアサービスホームだ。

お稽古の土日だけでも、歩いて通うことが出来る。

先生の物忘れは、日々少しずつ、進行しているように感じる。
先日お見舞いに訪ねたら、私が3年程教えて頂いていることを忘れてしまったらしい。

淋しい気持ちもありつつ、一方で不思議な感慨に襲われた。
「あぁ、先生の長い人生の中で、私の3年はこんなにも小さい。私は、そのたった3年の中で様々な経験を重ねたつもりでいた」と。
宇宙や、大自然に囲まれたような大きさだった。

先生は、いつも大切な事に気付かせてくれる。

先生、もっと沢山のことを教えて下さい。
その為に、これからもお元気でいて下さい。


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