ハル・ウィルナー→ダグマー・クラウゼ | なるべく猟奇に走るなWHO'S WHO

なるべく猟奇に走るなWHO'S WHO

ジャンルは主に、映画・音楽・文藝・マンガです。
僕の好きな人物、作品をWHO'S WHO形式でご紹介します。


ハル・ウィルナー企画のトリビュート盤に参加したのち、ドイツの
女性シンガーダグマー・クラウゼは、あらためて彼女個人として
クルト・ワイル
へのトリビュート盤(正確にはブレヒト作詞による
ワイルおよびハンス・アイスラーへのトリビュート)を製作しました。
一聴、彼女こそワイルを歌うために生まれてきたひとではないのか、と
思ってしまったほどなのですが、とにかく一度聴いたら忘れられない
独特の声質の持ち主です。しかも、そのヴォーカルは変幻自在というか、
少女のように可憐に歌うかと思えば、次の瞬間にはおそろしいダミ声に
なるとか、テクニカルな部分でも相当なもんではないかと思われます。
ケイト・ブッシュ
の歌唱にショックを受けたことのある方には、ぜひ
一聴をお薦めしたいです。ちなみに、このアルバムや、後のアイスラー
への一枚丸ごとトリビュートのやつもそうなんですが、ギミックは少なめで、あんまりビビらずに(笑)聴けます。


僕がその歌声を初めて耳にしたのが、彼女のかつて在籍していた3人組の
バンドスラップ・ハッピーの、ヴァージンからリリースされた2枚目の
アルバム(厳密にいえば違うんだけどいろいろあってメンドいので省略)
「カサブランカ・ムーン」でした。演奏には、ドイツのプログレバンド
ファウストが深く関わっており、そのせいかレコードショップでは大体
プログレの棚に置かれがちなんですが、その音はというと、のっけから
バイオリンの音色に乗せたタンゴのリズム。で、それこそ彼女は可憐に
歌うわけです。他にもボサノヴァ風、カントリー風、ワルツ、怪しげな和風
などなど、なんでもありのゴタ混ぜポップ。風変わりながら佳曲も多くて、
これはプログレというよりは、良質なポップアルバムの大名盤と言っていい
と思います。今でも僕にとっては、彼女の参加したアルバム中で、これが
ベストです。その特異な声に魅せられたミュージシャンも多かったようで、
あちこちから引き合いがあったみたいなんですが、なんとイギリスのド左翼武闘派アヴァンギャルド集団である
ヘンリー・カウが彼らに目をつけ、共演アルバムを製作。さらには吸収合併されてしまうんですね。


吸収した方はもともと過激なバンドなんで、された方のなごみの雰囲気は
一掃され、彼女のヴォーカルも、政治的アジテーションを叫んだりとか、
次第にボイスパフォーマンス的になってくわけです。アヴァンギャルドな
プログレ好きなひとはいいかも知れないけど、わたしとしては体力に自信の
あるときでないと、これは聴けない。フリージャズなら平気なんですけどね。
ジャズ的なアプローチも随所にあるんですが、今あらためて虚心に聴いて
みると、やっぱり彼らはロックバンドだったなあって感じがします。
ちなみに彼女は、彼らの3作目(邦題の誤訳が噴飯もの)からの参加なの
ですが、ここまでそのアルバムジャケットはすべて全く同じフォルムの
ソックスをモチーフにしたもので、ちょっとかわいい。3枚まとめて部屋に
飾ってたこともあったなあ・・・。で結果的に、吸収された方のダグマー以外
のメンバーは脱退し、ヘンリー・カウは、素晴らしいヴォーカリストを手に
入れた、ということになったわけですね。
このあと、やはりド左翼だったロバート・ワイアットの参加したライブ盤が出たりとか、メンバーの出入りがあったり
とかいろいろなんですが、はっきり言って追っかけるのに疲れました。私はやっぱ普通にポップなのがいいの。
もともとプログレそんなに好きじゃないし。



そしてまたまた、というかグズグズでバンド解散、新しいユニットが派生して
いくんですが、このへんもあんまり面白い話でもないんで割愛しますね。
次にダグマーは、アート・ベアーズというバンドに参加します。牛から
熊かい、なんて言ってたもんです。メンバーがかなりダブってるんで、前の
バンドの音を引きずってる感じです。あと、ちょっと室内楽ぽいとこなんかも
あったりして。僕は2ndアルバム「ウィンター・ソングズ」が好き。
なにやら「中世」な雰囲気で。サウンドがよりタイトになって、シリアスすぎる
きらいもあり、ちょい取っ付きにくいんですけれども。で次のアルバムは
またもや政治的になったりで、いちおう購入はしたものの、ヘヴィーすぎて
ほとんど聴かなかったんですが、クリス・カトラーようやるなあ、と妙に
感心した記憶があります。迷走していた感もあり。今聴き直すとどんなもん
なのか・・・と言いつつ聴かない。このバンドも3作という短命でございます。




その後、彼女は、さまざまなコラボや企画物に参加していたのですが、
あるときスラップ・ハッピーのニューアルバム発売と聞いて、わが耳を
疑いました。なんと23年ぶりの奇跡の新作「サ・ヴァ」は、往年の
アヴァンギャルドさはかなり控えめながら、こちらも期待に違わぬ良質の
ポップアルバムなのでした。やー長生きはするもんだわなあ。そしてっ!
さらには、これまた奇跡の来日公演!つっても見逃したんですけどね(T_T)
もはや彼女の歌は、私の青春の淡い思い出。懐メロなんでございます。


さて次は、ある時期、彼女の伴走者であった「フリーな」ギタリスト・・・
うう・・・なんかいかん、こういう流れは・・・