涼風文庫堂の「文庫おでっせい」340 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<三浦綾子、

原田康子>

 

1033「 氷 点 」 (上)

三浦綾子
長編       朝日文庫
 
 

1034「 氷 点 」 (下)

三浦綾子
長編   水谷昭夫:解説  朝日文庫
 
 
無垢な魂が直面した
戦慄すべき運命を描く永遠のベストセラー!
 
                 <朝日文庫:解説目録>
 
朝日新聞1000万円懸賞小説当選作品。
1964年のことだから、凄まじい金額。
 
で、久々に 『名作への招待』 を丸写しにさせていただきます。
 
 
 
『細雪』 以来かな。
……ただ今回は倍の四ページ。
 
 
「いけません」
心とは反対のことばだった。
村井は無言で夏枝の肩を抱いた。
……夏枝の頬を上に向かせようとしている
村井に三度拒むと、
村井は身をかがめて夏枝の頬に
唇をふれようとした。
彼女はかたくなに身をよじって村井をさけた。
村井の唇は夏枝の頬を
かすめただけであった。
「わかりました。そんなにぼくをきらっていられたのですか」
村井は夏枝の拒絶にはずかしめられた思いで、
さっとドアを開けて玄関に出た。
夏枝はぼうぜんとして立ち上がった。
(きらいなのじゃない)
拒絶は媚態であり、遊びであった。
次に来るものをいつの間にか夏枝は待っていたのだった。
二十八歳の村井にはそれがわからなかったのだ。
夏枝は村井を送りに出なかった。
引きとめてしまいそうな自分が恐ろしかった。
 
                     ー(巻頭の一部)ー
 
旭川市内に病院を開いている辻口啓造のもとで、
眼科医を担当している村井は、
辻口の妻の夏枝に自分の愛を
告白せずにはいられなかった。
 
妻であり、徹とルリ子のふたりの子どもの母である夏枝もまた、
そうした村井の胸にたおれこみそうな自分を感じていた。
 
しかし、村井が訪ねて来ているあいだ、
娘のルリ子を家の外に遊ばせておいたことから
ルリ子は誘拐され、
川原で死体となって発見されるという事態がおこった。
 
夏枝は強度のノイローゼとなり、
精神病院に入院したが、まもなく帰宅してからは、
もらい子でいいから女の子をほしいといいだした。
 
啓造は友人の医師高木に相談して、
夏枝の意志にしたがおうとした。
 
結核にかかり、
急に悪化して洞爺の療養所に行くことになった村井は、
もう一度夏枝に会いたいと訪ねてきて、
夏枝のうなじにキスマークを残して立ち去った。
 
うつくしい夏枝を妻にしてからというもの
啓造の生来の嫉妬ぶかさは助長され、
夏枝のうなじのキスマークを見つけると、
口には出さなかったが、
村井と夏枝との関係が動かしがたいものだと
信じこんでしまった。
 
啓造は報復を思いついた。
 
ルリ子を殺し、自分も留置場で自殺した犯人佐石には、
内縁の妻があり、女児出産とともに死亡していた。
 
この女児を、夏枝には秘密で養子にしようというのである。
高木に「子どもを愛すること、出生の秘密を守ること」
を約束して、犯人の残した子を引き取った。
 
それが陽子である。
 
徹は兄として、陽子は妹として、
すくすくと育っていった。
いつのまにか夏枝は将来、
徹と陽子とを結婚させたいとまで思いはじめていた。
 
これを知った啓造は、かたくなに反対した。
なぜ?
迫る夏枝に啓造はたじろいだ。
しかも夏枝は、
「おっしゃる通りですわ。
まさか、ルリ子が陽子の父親に殺されたとは、
夢にも夢にも……思いませんでしたから……」
夏枝は秘密を知っていたのだった。
ふたたび十一年前の啓造の思いがいっそう強くよみがえり、
夏枝を追究した。
関係のなかったことを語る夏枝に、
啓造は何度も念をおした。
 
しかし、この話を、徹がとなりの部屋で聞いてしまっていた。
徹はまた、陽子のことを単なる妹としてよりも
いっそう愛していたのだ。
高校入試まえの徹であったが、
「ぼくは陽子と結婚する」
とまでいった。
 
やがて、北大生になった徹には、
北原という友人ができた。
北原は陽子に親しみをおぼえ、
ふたりの交際がはじまった。
徹は、それとなく、
陽子が北原とは結婚できないのだといったりした。
 
夏枝もまた、陽子に嫉妬していた。
北原が陽子を訪ねてくると、深い屈辱さえ感じ、
ねたましい思いで、
出生の秘密を北原に告げてやろうかという考えさえ
浮かんでくる……。
 
そして、ついに北原と陽子を前にして、
冷酷なことばをたたきつける日がやってきた。
夏枝は変色した古新聞や日記帳まで持ちだしてきた。
「陽子には殺人犯人の血が流れているから」
とまでいった。
 
たとえどんな事実があったにせよ、
北原の気持ちにかわりはなく、
北原はこのまま陽子をおいて帰るのが不安だった。
 
陽子は、その夜、
育ての両親、北原、徹にあてて遺書を書いた。
翌朝早く、ひそかに雪の川原に来た陽子は、
カルモチンを飲んで雪の上に横たわった。
 
発見されて回復治療をうけたまま
眠りつづける陽子の病床のまえで、
夏枝は自分の立場を考え、
啓造は己れの悩むことの浅かったことを思っていたが、
高木がとびこんできて一枚の写真を示した。
陽子は、犯人佐石の子ではなかったのだ。
 
                  <名作への招待から>
 
ああ、しんど。
 
このあと、
『レ・ミゼラブル』
『風と共に去りぬ』
『静かなるドン』
『大地』
でも同じやり方を採用する予定です。
 
日本のものでは、
芹沢光治良の 『人間の運命』。
 
それはともかく。
 
かつて、私の親世代(昭和一ケタ生れ)の
女性たちを夢中にさせたという、
この小説およびテレビドラマ。
 
映画では描き切れない内容を
連続テレビドラマとして提供し、
スクリーンと一線を画すブラウン管の威力を、
存分に発揮した作品。
 
陽子を演じたのは内藤洋子。
夏枝を演じたのは新珠三千代。
 
 
お二人とも馴染み深い女優さんですが、
実はあまりこの作品の印象、
ってのが残ってないんだなあ……。
 
 
新珠三千代さんに関しては、
この後の 『細うで繫盛記』 で
いじめられる印象が強烈過ぎて……。
当然、『氷点』 では真逆の ”イジメ役” ですよね。
 
内藤洋子さんは映画 『赤ひげ』 と、
若手有望女優の定番の一つ、『伊豆の踊子』。
 
ただ、”デコちゃん” のイメージが強かったので、
この 『氷点』 でのヘアスタイルは今さらながらに新鮮でした。
 
あと――
 
唯一覚えているのが、
陽子が憧れの人(徹だか北原だか)が
水を飲んだコップを洗わずに、
そのまま水を入れて飲むシーン。
いわゆる、”間接キッス” ですね。
 
ここだけを白黒映像とともに記憶しています。
 
まあ、いずれにせよ
自発的に観ていたテレビドラマではないので……。
 
自分で、”これッ” と思って観始めた大人のドラマは、
この二、三年後の 『キイハンター』 ぐらいからですので。
 
<本編>
さて、内容はこんな感じで、
よろめきあり、嫉妬あり、犯罪あり、イジメあり、……
……と盛り沢山。
ラストは貴種流離譚風の予定調和を内包する、
ゴシック・ロマン調。
 
新聞小説としても、読む者を飽きさせない。
 
最初のあたりを女性目線ではなく、
男性目線で描いたとしたら、
立原正秋風の、”ドロッドロッした” 
男女関係の話を彷彿させてくれそうです。
 
(三浦綾子さんと言えば有名なクリスチャンですが、
立原正秋にもユダを扱った短編があったなあ……。
ここにも<原罪><贖罪>の観念があるんでしょうか)
 
 
<余談>
これは、母か叔母が言ってたことなんですが、
”『氷点』 の <陽子> を演じる女優は、
名前が <ようこ> という女性に限られる”
とかなんとか。
 
『続・氷点』 では島田陽子さんが演じてたので、
”そうなのか” と思っていましたが、
調べてみると、
映画・テレビで十本近く映像化されているうち、
<ようこ> という女優さんは四人でした。
 

当時の主婦たちの<都市伝説>か。

 
 
 
 

1035「 挽 歌 」

原田康子
長編       角川文庫
 
”私が桂木さんに魅かれたのは
桂木夫人の不貞を知ったからである。
彼女のものうげな微笑をたたえた眼差に
私の心はいつしか捉えられ
彼を愛すると共に夫人をも愛してしまう。
それが死へ結びつくとは知らずに。”
 
白鳥の羽根のそよぎにも似た
若い女性の微妙な心の動きを追って
北国の風景の中に展開する愛と死のロマン。
 
                        <ウラスジ>
 
 
原田康子さん初出は、
こちらの短編集。
 

 

 
 
一組の夫婦の中に、誰かが紛れ込んで、話が動き出す。
 
それは何故か表面化しなかった
<タナトス>を加速させることになる……。
 
小池真理子 『恋』
スタイロン 『ソフィーの選択』
 
夫が死ぬ。
妻が死ぬ。
夫婦で死ぬ。
……殺される。
 
そもそも ”挽歌” とは死者を弔う歌のことだから、
誰かしらが命を絶つことになるのでしょう。
 
ちょうど、
『サビタの記憶』 を読んでいた頃は、
人気絶頂だったチャールズ・ブロンソンの
『狼の挽歌』 が封切られた頃でした。
 
 
故に、”挽歌” という言葉が 
”身近” に感じられたんじゃないかと思われます。
 
<まとめ>
『氷点』 と 『挽歌』。
奇しくも北国・北海道が舞台で、
人間関係がもぞもぞと沸点を待ちながら、
物語は推移してゆきます。
 
シチュエーションは若干異なりますが、
いずれも若い女性がキーマンとなる……。
 
こじつけかな。