涼風文庫堂の「文庫おでっせい」  179. | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<大藪春彦、

クラーク、

中原中也>

 
 

565.「野獣死すべし」

大藪春彦
中編   大坪直行:解説  新潮文庫
収録作品

1.野獣死すべし

2.野獣死すべし  復讐編

 
敗戦で満州から引揚げた伊達邦彦少年は、
大戦の惨害に人間性の根底まで蹂躙され、
大学生の頃には計算されつくした完全犯罪を夢見るようになる。
 
大学入学金の強奪に成功した彼は、戦時中父の会社を乗っ取った
京急コンツェルンに対し執拗な復讐を開始する。
 
怜悧な頭脳、端正な容貌と猛獣のような体軀を持つ非情の男
伊達邦彦を描くハードボイルド小説の傑作。
正編・復讐編を収める。
                               <ウラスジ>
 
大藪春彦とともに、<伊達邦彦>、初登場。
 
しかし、大藪春彦までは、江戸川乱歩が絡んでくるんだなあ。
星新一さんを含め、乱歩の先見の明、恐るべし。
 
 
大藪春彦の名を初めて聴いたのは、
たしか小学生時代。
 
テレビのクイズ番組の設問で、
『銃、車、暴力、○○の作家と言えば――』
(○○が女だったかSEXだったかは憶えていません)
みたいなのがあって、答えが、
『大藪春彦』
という流れだったと記憶しています。
『アップダウンクイズ』だったかな?
 
なんにせよ、小学生にはちと早い作家でしょう。
 
 
さて、この『野獣しすべし』や『血の来訪者』あたりまでは、
伊達邦彦の出自や経歴なんかが明らかにされて、
それに乗っ取ったストーリー展開が用意されています。
 
時代的に、<戦争>が外せないことも含めて。
 
しかし、『野獣しすべし:渡米編』――
(この作品はいっとき、”幻の作品” と言われていて、掲載雑誌以外、文庫を含め書籍で読む事が出来なかった代物でした)
で、”パロられて” 以来(?)、
伊達邦彦は完璧に独り立ちして、様々な作品に顔を出す、
時空を超えた<悪漢ヒーロー>となってしまいました。
これ、わたくし的感想。
 
私が直近で読んだ作品では、
アメリカから戻って来たという設定で、日銀を襲ってましたっけ。
 
また、<女豹>シリーズでは最後に必ず現れて、
ヒロインの小島恵美子を凌辱する、という役どころ(?)を
演じています。
そのやり口がまた、エグくて……。
ええ、それはまた本編の 『非情の女豹』 のときに。
 
という事で、<真説・伊達邦彦>の一編でした。
 
 
 
 
 
 
 

566.「都市と星」

アーサー・チャールズ・クラーク
長編   山高昭:訳  堀晃:解説
早川文庫
 
銀河帝国は崩壊し、地球には唯一の都市ダイアスパーが残された。
 
そこは快適に防備された小宇宙。
 
十億年の歳月の間に、都市の『記憶バンク』は
人間の組成のパターンを使って原初の人間を再生したが、
ただ一人、青年アルヴィンだけは、
今までにパターン化されたどの人間とも違っていた。
 
都市の外へ出ることを異常に恐れる人々の中で、
彼だけは未知の世界への願望を持っていたのだ。
 
壁に囲まれた、心地よいダイアスパーに安住することなく。
アルヴィンはある日、かつての人類のように、
空があり宇宙船が征く世界を求めて旅立った!
 
巨匠が華麗な想像力で描いた大宇宙叙事詩。
                             <ウラスジ>
 
 
<ダイアスパー>
クラークは余程このテーマに固執していたのか、
創元推理文庫から出ている、殆んど同じ話の『銀河帝国の崩壊』では飽き足らず、この作品を上梓してしまいました。
 
だからと言って、
片方だけ読めば良いという具合にはいきません。
 
『銀河帝国の崩壊』と『都市と星』を読みくらべてみると、
イマジネーションの展開の仕方が明瞭になってくる。
前者では無機質なダイアスパーの描写が
後者ではまるで都市自体が一個の生き物のようにダイナミックに
描かれている。
                            <堀晃:解説より>
言って見れば自身の作品を自身でリメイクしたようなものでしょうか。
映画ではよく耳にしますが。
 
あと、私の心に残っている、
最終26章の書き出しを紹介して終りにします。
 
偉業が成し遂げられ、
長らく求めていた目標が達成されて、
これからは人生が新たな目的に向かって
設計されねばならないのだと知ることには、
特有の哀しみがあった。
 
今にして思うと、結構しみる言葉です。
 
 
 
 
 
 

567.「中原中也詩集」

中原中也
河上徹太郎:編集/解説  角川文庫
 
作者は生前自選の詩集「山羊の歌」「在りし日の歌」と
若干の未完詩集を残し二九歳で早逝した。
 
本書には作者と文学的親交のあった河上徹太郎氏の編集により、
前記二詩集を完載し未完詩集を抄録したもの。
 
ヴェルレーヌ、ランボオ等の影響を受け、恥らいと悲しみに潔癖で、
昭和詩壇にユニークな存在であった。
                                <ウラスジ>
 
 
中也って言うと、やっぱ、この辺かな……。
ベタだけど。
 
 
          サーカス
 
  幾時代かがありまして
     茶色い戦争ありました
 
  幾時代かがありまして
     冬は疾風吹きました
 
  幾時代かがありまして
     今夜此処での一と殷盛り
         今夜此処での一と殷盛り
 
  サーカス小屋は高い梁
     そこに一つのブランコだ
  見えるともないブランコだ
 
  頭倒さに手を垂れて
    汚れ木綿の屋蓋のもと
  ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
 
  それの近くの白い灯が
    安値いリボンと息を吐き
 
  観客様はみな鰯
    咽喉が鳴ります牡蠣殻と
  ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
 
          屋外は真ツ闇 闇の闇
          夜は劫々と更けまする
          落下傘奴のノスタルヂアと
          ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん
 
 
 
          汚れつちまつた悲しみに……
 
     
     汚れつちまつた悲しみに
     今日も小雪の降りかかる
     汚れつちまつた悲しみに
     今日も風さへ吹きすぎる
 
     汚れつちまつた悲しみは
     たとへば狐の革裘
     汚れつちまつた悲しみは
     小雪のかかつてちぢこまる
 
     汚れつちまつた悲しみは
     なにのぞむなくねがふなく
     汚れつちまつた悲しみは
     倦怠のうちに死を夢む
 
     汚れつちまつた悲しみに
     いたいたしくも怖気づき
     汚れつちまつた悲しみに
     なすところもなく日は暮れる……
 
 
 
     頑是ない歌
 
  思へば遠く来たもんだ
  十二の冬のあの夕べ
  港の空に鳴り響いた
  汽笛の湯気は今いづこ
 
  雲の間に月はゐて
  それな汽笛を耳にすると
  竦然として身をすくめ
  月はその時空にゐた
 
  それから何年経つたことか
  汽笛の湯気を茫然と眼で追ひかなしくなつてゐた
  あの頃の俺はいまいづこ
 
  今では女房子供持ち
  思へば遠く来たもんだ
  此の先まだまだ何時までか
  生きてゆくのであらうけど
 
  生きてゆくのであらうけど
  遠く経て来た日や夜の
  あんまりこんなにこひしゆては
  なんだか自信が持てないよ
 
  さりとて生きてゆく限り
  結局我ン張る僕の性質
  と思へばなんだか我ながら
  いたはしいよなものですよ
 
  考へてみればそれはまあ
  結局我ン張るのだとして
  昔恋しい時もあり そして
  どうにかやつてはゆくのでせう
 
  考へてみれば簡単だ
  畢竟意志の問題だ
  なんとかやるより仕方もない
  やりさへすればよいのだと
 
  思ふけれどもそれもそれ
  十二の冬のあの夕べ
  港の空に鳴り響いた
  汽笛の湯気や今いづこ
 
 
この他に、
私と中也の最初の出会いである 『一つのメルヘン』 や
よくもまあ、ここまでぶちまけたもんだと言う 『詩人は辛い』 を
載せたかったのですが、あまりに長くなるので、
断念せざるをえませんでした。
 
<追伸>
中也の詩は、それこそ、”声に出して読んでほしい” 作品です。
 
ゆあーん、ゆよーん、ゆやゆよん。