涼風文庫堂の「文庫おでっせい」  120. | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

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私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<オールディス、

     ベスタ―、

          クラーク>

 
 
 

379.「地球の長い午後」

ブライアン・ウィルス・オールディス
長編   伊藤紀夫:訳  早川文庫
 

 

大地をおおいつくす巨木の世界は、

永遠に太陽に片面を向けてめぐる、

植物の王国と化した地球の姿だった!

 

わがもの顔に跳梁する食肉植物ハネンボウ、トビエイ、ヒカゲノワナ。

 

人類はかつての威勢を失い、支配者たる植物のかげで

細々と生きのびる存在に成り果てていた。

 

彼らにとって人生は危険のゆりかご、

また救済は虚空に張り渡された蜘蛛の巣を、

植物蜘蛛に運ばれて月に昇ること……

 

しかし、滅びの運命に反逆したひとりの異端児の旅立ちは、

やがて壮大なヴィジョンをあきらかにしていく。

 

巨匠のめくるめくイマジナリイ・ワールドを誇示する

1961年度ヒューゴー賞受賞作。

                                 <ウラスジ>

 

40年前に読んで以来、いまだに私の中で、

1、2位を争うSF小説です。

(ちなみに、対抗馬は、スタージョンの『人間以上』)。

 

この作品を読むきっかけになったのは、

【SF教室:筒井康隆編】の中の紹介文でした。

 

<ウラスジ>と重複するところもありますが、

一応、記念(?)に書いておきます。

 

気の遠くなるような未来、

地球は太陽にひとつの面だけをむけたまま、

そのまわりをまわるようになった。

 

強い放射線がいつもふりそそぐ昼の面では、

動物はほとんど死にたえ、かわりに植物が地上の支配者になった。

 

大陸は一本のとほうもなく大きいベンガルボダイジュに征服された。

もっと小さな植物も、さまざまなかたちをとりながら、

ジャングルのあちこちに自分のなわばりを作った。

 

小動物の肉を食べるトビエイ、ハネンボウ、ヒカゲノワナ。

ジャングルのてっぺんから地上に管をのばして栄養のある土を吸う

ツチスイドリ。

そして地球と月を糸でむすんで、そのあいだを飛ぶクモのような植物

ツナワタリ……。

 

だが人間がほろびたわけではない。

いまではてのひらにのるほど小さくなり、

からだも緑色に変わっているが、それでもかれらはまだ人間だった。

 

そんなふしぎな世界を舞台に、少年グレンの長い旅がはじまる。

                               <伊藤典夫>

 

あらら。

翻訳者みずから推薦文を書いてたんだ。

で、その書き方についての一文もついでに。

 

彼の作品の御多分に洩れず、本書も難解ではあるが、

壮大な構想と未来の動植物の綿密な描写には

SF読者ならずとも酔わされることだろう。

 

細部を丹念に書き込むことによって

物語の舞台の輪郭をぼやけさせる手法は、

フランスのロブ=グリエやビュトールのアンチ・ロマンを思わせるが、

オールディスはそうした新しい手法を積極的に

SFに取り入れる事にも意欲的な作家なのである。

                                <新川正博>

 

これ、アンチ・ロマンを持ち出さなくても、

バルザックで充分じゃないかなあ。

 

三島由紀夫が『文章読本』の中で取り上げた、バルザックによる

『美人』の ”微に入り細を穿つ” 数ページに及ぶ描写。

 

目、鼻、口、それぞれの形状とそれに附するレトリックの数々、

”美” を散りばめた言葉が延々と語られるも、

はて、肝心の『美人』の容貌が全く浮かんで来ない――。

これに近いんじゃないかなあ。

 

【キーワード】

リリヨー、フロー、へアリス、ヒツボ、ツナワタリ、鳥人、

バンド・アッパ・ボンディ、とりこ。

がメインとなるルートと、

グレン、トイ、アミガサダケ、ポイリー、ヤトマー、ウミツキ、

ソーダル・イー、レアレン。

がメインとなるルートがどう交錯するか。

 

なかでも、人間以上の知能を持つ寄生キノコ、アミガサダケの存在は

キーポイント中のキーポイントでしょう。

ただ寄生するだけでなく、知識欲旺盛で、いろんなものに寄生して

その知識を得たがります。

 

やがてアミガサダケは、今のような地球になった経緯や、

人類の進化までをも究明します。

この部分、『ドグラ・マグラ』の<胎児の夢>を連想しました。

 

あとはツナワタリ。

月と地球のあいだに巣をかけた巨大な植物蜘蛛。

このイラストのインパクトは強烈でした。

 

 

 

<余談>

ブライアン・オールディスと言えば、J・G・バラード、ジョン・ウィンダム

と並ぶ英国が生んだ、”ニューウェーブ” SFの旗手。

 

シュールレアリスムを内包し、スペキュレイティブ・フィクション

(思弁小説)とも言い表されたSF小説を手掛けた作家たち。

 

スペキュレイティブ・フィクションの元祖はハインライン、って

以前書いたっけ。

 

要するに、”IF”(もしも)の世界を主題にすること。

 

現在ではいたって普通のことですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

380.「虎よ、虎よ!」

アルフレッド・ベスタ―

長編   中田耕治:訳  早川文庫

 
ジョウント効果と呼ばれるテレポーテーションの開発によって、
世界は大きく変貌した。
 
一瞬のうちに空間を跳び、人々はどこへでも、
自由に行けるようになったのである。
 
しかしそれと同時に、このジョウント効果がもたらしたもの、
それは富と窃盗、収奪と劫略、怖るべき惑星間戦争でもあった。
 
この物情騒然たる25世紀を背景として
顔に異様な虎の刺青をされた野生の男ガリヴァ―・フォイルの、
無限の時空をまたにかけた
絢爛たる<ヴァ―ガ>復讐の物語がここにはじまる……。
 
アメリカSF界きっての鬼才が、前衛的な手法と華麗な筆致を
駆使して見事に描きあげた不滅の名作!
                                <ウラスジ>
 
これも『SF教室』から。
 
これは、二十五世紀の太陽系にくりひろげられる
ひとりの男の復讐の物語だ。
 
宇宙を漂流していたガリバー=フォイルは、
かれを見すてて通りすぎた宇宙船ボーガを追って、
ようやくある小惑星にたどりつく。
 
だが、そこに住んでいた野蛮人につかまり、
顔にトラのいれずみをされて……。
 
超現実的な設定、息もつかせぬ活劇、目の覚めるようなアイデア。
活字が花火のようにいりみだれるクライマックスは見ものだ。
                               <伊藤典夫>
 
 
基本線は復讐譚なんですが、なんかそれ以上のものがいっぱい
詰め込まれていて、整理するのに戸惑う作品です。
 
 
と、いうことでアトランダムに、
          <余談>含みで書き連ねます。
 
*まずはクリス・ボイス『キャッチワールド』の安田均さんの解説から。
 
 ――そう、ワイドスクリーン・バロックである。
代表的SF史といわれる『十億年の宴』(ブライアン・オールディス)が
つい最近訳されたので、あるいはこの言葉も日本で定着しかかって
いるかもしれない。
 
*その中でオールディスはこう述べている。
 
「私自身の好みは、ハーネスの『パラドックス・メン』である。
この長篇は、十億年の宴のクライマックスと見なしうるかもしれない。
 
それは時間と空間を手玉にとり、
気の狂ったスズメバチのように
ブンブン飛びまわる。
機智に富み、深遠であると同時に軽薄なこの小説は、模倣者の大軍がとうてい模倣できないほど
手ごわい代物であることを実証した。
私はそれを<ワイド・スクリーン・バロック>
と呼んだ。
これとおなじカテゴリーに属する小説には、
E・E・スミス、
A・E・ヴァン・ヴォクト、
そしておそらくはアルフレッド・ベスタ―の作品が挙げられよう」
 
*『十億年の宴』は未読ですが、この部分だけが妙に印象に
 残っています。
 
*ドクター・スミスは、スカイラークにレンズマン、
 ヴァン・ヴォ―クトはビーグル号、
 そしてベスタ―はこの作品。
 『分解された男』もそうかな。
 ほとんどESP戦争だけど。
 
*なるほどブンブン飛び回ってる。
 
*ああ、肝心の『キャッチワールド』も面白いですよ。
 なんたって ”田村艦長”っていう日本人と、宇宙船≪憂国号≫が
 主役ですから。
 
*フォイルは眼にもとまらぬ急激な反動で跳びあがった。
 右上の臼歯を舌でつよく押したのだ。
 からだのはんぶんを電力機械に変形した手術で抑制装置が
 歯のなかにおさめられたのだ。
 
 『サイボーグ009』の加速装置と一緒。
 
*「ああ!」ヤン・ヨーヴィルがさけんだ。「燃える男だ!」
 
 『燃える男』➡A・J・クィネル➡復讐譚➡『虎よ、トラよ!』
 
*感情が高ぶると、顔の刺青が浮き出てくる。
 『超人ハルク』の原型。
*顔の刺青って言うと、『水滸伝』だなあ。
*日本の風習にもあったようだけど。
 
クライマックスの<タイポグラフィ>の嵐。
 活字印刷では追い付かず、手書きのフォントも使われている。
 
     赤から退き
                   緑ひかり
 
こんな感じの文が手書きで書かれています。
 
*とにかくいろんな<ガジェット>(小道具)が豊富に登場します。
 口の悪いSFファンは、「ベスタ―とディックのガジェットはイモっぽい」
 とかなんとか言ってましたが。
 
 
 
 
 
 

381.「地球幼年期の終わり」

アーサー・チャールズ・クラーク
長編   沼沢洽治:訳  創元推理文庫
 

20世紀後半、

地球大国間の愚劣きわまる宇宙開発競争をあざ笑うかのように、

突如として未知の大宇宙船団が地球に降下してきた。

 

彼らは、他の太陽系から来た超人で、

地球人とは比較にならぬほどの

高度の知能と能力を備えた全能者であった。

 

彼らは地球を全面的に管理し、戦争や病気や汚職といった

有史以来の人類の悪のすべてを一掃し、

その結果、地球にはインターナショナルな理想社会が出現した。

 

しかし、この全能者たちの地球来訪の真意は、

はたしてなんであろうか?

                               <ウラスジ>

 

これも『SF教室』から。

 

『幼年期の終わり』

人類の未来については、多くのSF作家がいろいろな答えを

小説のなかでだしている。

人類が死にたえてしまう破滅テーマの作品を書いたものもいれば、

新しい人類があらわれるミュータント・テーマの作品を書いたものも

いる。

まだまだほかにもありそうだが、クラークの『幼年期の終わり』は、

そのような考えかたを全部まとめて、さらにそれをこえた小説だ。

 

宇宙には、つぎの進化の段階へすすめる知的生物と、

それ以上はすすめず、いつかほろびなければならない知的生物

がいる。

 

人類は、その二つのうちのはじめのほうだったのだ。

 

ある日とつぜん、

地球の空に遠い星からやってきた宇宙船があらわれ、

人類はそれまでずっと高等な生物に見守られていたことを知る。

 

やがて、生まれてきた子どもたちのなかに、

おとなにはわからない変化がおこりはじめる。

 

クラークの最高傑作といわれるこの作品は、

その思想の深さといい、美しく、またおそろしい結末といい、

よく考えられた筋立てといい、ほとんど文句のつけようがない。

 

(『地球幼年期の終わり』

の題名で、東京創元新社からも出版されている。)

                                <伊藤典夫>

 

さすがに良い子の児童書、簡潔で判りやすい。

で、私が読んだのは東京創元社の文庫。

これを買った時は早川文庫が出ていない頃だったので。

 

創元版の表紙は、<上主>(オーバーロード)カレレンの姿を、

早川版の表紙は、重要人物の一人、ジャン・ロドリックスの姿を

描いたものだと思われます。

 

三島由紀夫が絶賛し、彼をして唯一のSF小説『美しい星』を書かせた

要因とも言われた作品です。

 

 

 

 

 

 

 

<ご報告>

 

これからSF小説の登場も多くなると思います。

私にとっての<SF黎明期>は、大方が『SF教室』に記載されていた

作品をメインに読む事でした。

しばらくは続きますので、あしからず。