<悪魔主義と黒死館>
299.「ボードレール詩集」
「悪魔主義文学」とは何ぞや?
絶望感とそこから流れ出でた頽廃に身を委ねたような世界感――。
私のボードレールに対する印象は、
”死の幻影に憑りつかれ、病状なき病いに苛まれていた詩人”
と言うものです。
訳者の堀口大学さんが述べられているように、この詩集は『悪の華』と『巴里の憂鬱』から抜粋したもので編まれています。
ボードレールに関して言うと、この後、『悪の華』『巴里の憂鬱』『人口楽園』と読んでいくことになっていますので、今回はスルーさせていただきます。
お気に入りの一編などは、その都度、再録します。
あとは大学時代の先輩が述べた、ボードレールの<キーワード>を書いておきます。
曰く、
『勝利の蛆虫』
300.「黒死館殺人事件」
長編 井上良夫/島田太郎:解説 教養文庫
絶後の一大迷宮、絢爛たるペダントリーの世界に徹底した校定を試み、虫太郎が傾注した超人的力業を浮彫。
「ボスフォラス以東に唯一つしかないと言われる」
ケルト・ルネサンス様式の城館を舞台に次々に展開される四つの殺人。
そこに住む人々の鬩ぎ合と建物自体に配された運命の糸が破局に向って昻潮する。
妖異な舞台設定のなかで起こる連続殺人に対し、ペダントリーに飾られた絢爛たる抽象論理の世界を構築した。
「ファウスト」に主題を得て、作者がひそかに蓄積したものを存分に吐露したもので、作者一流のレトリックを駆使して、ユニークな心理探偵創造に眩惑される。
<中島河太郎>
探偵は法水麟太郎。
振八木算哲と八木沢博士。
明治十八年、神奈川県高座郡に建てられた『黒死館』。
海外から連れて来られた四人。
ダンネベルグ、セレナ、クリヴォフ、レヴェズ。
彼等は四十余年の間、外に出た事がない。
彼等を含む『黒死館』の住人たちが、次々と殺されて行く。
大まかな筋はこんなところで、かなり明確です。
ですが、今回言いたいのはそんな事じゃありません。
話は戻りますが、私はネットを始めた事で、ほぼ四十年ぶりに『読書』の話を他人に、それも不特定多数の人たちに語るようになりました。
まあ、こっちは浦島太郎かリップ・ヴァン・ウィンクル状態なので、驚く事は多々ありました。
(1) ”『赤川次郎』さん、聞いた事があります”
(2) ”ダンテとベアトリーチェの話は『神曲』を読まないとわからないはずです”
(3) ”貴方が挙げた海外SFのベスト10、どれも聞いた事がありません”
(4) ”貴方が挙げた海外ミステリーのベスト10、確かなんですか?”
(5) ”貴方が挙げた日本のミステリーのベスト10、20って読めるんですか?”
簡単に<驚愕理由>を記します。
(1)かつて角川映画で趨勢を誇り、『セーラー服と機関銃』『探偵物語』などの単品から、「三毛猫ホームズ」「三姉妹探偵団」などのシリーズもので一世を風靡した超人気作家が、『名前は聞いた事あります』レベルに陥っていたとは……。
(2)大学時代、友人たちの間では、たとえその作家や作品を読んでいなくても、男女カップルの名前には精通していました。
題名になっているもの……「アベラールとエロイーズ」「トリスタンとイゾルデ」「ポールとヴィルジ
ニー」「ダフニスとクロエ―』……等々。
有名なカップル……<ダンテとベアトリーチェ><カフカとミレナ><フィッツジェラルドと
ゼルダ><サルトルとボーヴォワール>……等々。
この他にも、
(ヴェルレーヌとランボー) 男同士。
(ロアルド・ダールとパトリシア・ニール) 作家と女優。
などなど。
読書はある意味、孤独な作業です。
友人関係によっては、読書の蓄積を自分一人で貯め込んでおくばかりで、発散する場所に事欠くことになるでしょう。
幸いにして、私の場合は学生のころ、『話せる』という環境に恵まれていました。
話の内容はと言うと、まともなものから与太話まで、多岐に渡ります。
一人の作家や作品から、話はあちこちに飛ぶこともありました。
憶えているものとしては、ヘミングウェイの話から◯◯に行き着いた話です。
<風が吹けば桶屋が儲かる>風に辿って行くと――。
<ヘミングウェイ>➡<ハードボイルド調>➡<ダシール・ハメット>➡<リリアン・ヘルマン>
➡<噂の二人>➡<オードリー・ヘップバーンとシャーリー・マクレーン>➡――。
最後は確か、<中国の四人組>あたりだったと思います。
で、何が言いたいかと言うと、本の知識があるもの同士の会話は、∞に拡がっていく、と言う事です。
私がネットの世界を垣間見たところでは、
『読書家って、こんなに話す相手がいないんだ……』
という感想を持たざるを得ませんでした。
みなさん、小説や作家で、もっと馬鹿話をしましょうよ。
(3)かなり昔の話です(40年ぐらい前)。徳間書店が「SFアドベンチャー」という雑誌(月
刊誌だったと思います)を創刊しました(すでに廃刊となりましたが)。
そこで行われたのが、ファン投票によるSFベスト10でした。それまでミステリーと違ってSFは中々ランク付けされなかったので、結構話題になったものです。
古いとは思いますが、一応記しておきます。 <Yahoo知恵袋投稿より>
1.「幼年期の終わり」 アーサー・C・クラーク
2.「火星年代記」 レイ・ブラッドベリ
3・「ソラリスの陽のもとに」 スタニスワフ・レム
4・「夏への扉」 ロバート・A・ハインライン
5・「銀河帝国の興亡」 アイザック・アシモフ
6・「アルジャノンに花束を」 ダニエル・キイス
7・「デューン 砂の惑星」 フランク・ハーバート
8・「宇宙船ヴィ―グル号」 ヴァン・ヴォ―クト
9・「虎よ、虎よ!」 アルフレッド・ベスタ―
10・「都市」 クリフォード・D・シマック
私見ではありますが、全部面白かったです。
(4)1960年、「ヒッチコック・マガジン」誌が選んだ名作ベスト10.
1.「Yの悲劇」 エラリー・クイーン
2.「樽」 F・W・クロフツ
3.「僧正殺人事件」 ヴァン・ダイン
4.「グリーン家殺人事件」 ヴァン・ダイン
5.「幻の女」 ウィリアム・アイリッシュ
6.「そして誰もいなくなった」 アガサ・クリスティ
7.「赤毛のレドメイン家」 イーデン・フィルポッツ
8.「黄色い部屋の謎」 ガストン・ルルー
9.「長いお別れ」 レイモンド・チャンドラー
〃.「闇からの声」 イーデン・フィルポッツ
〃.「アクロイド殺人事件」 アガサ・クリスティ
10.「殺意」 フランシス・アイルズ
〃.「バスカービル家の犬」 コナン・ドイル
(5) 評論家 中島河太郎氏が選んだベスト30
日本のの作品ベスト30(ただし昭和42年までの作品で年代順)
A.戦前のベスト10
1.「途上」 谷崎潤一郎
2.「疑問の黒枠」 小酒井不木
3.「支倉事件」 甲賀三郎
4.「陰獣」 江戸川乱歩
5.「殺人鬼」 浜尾四郎
6.「氷の涯」 夢野久作
7.「黒死館殺人事件」 小栗虫太郎
8.「人生の阿呆」 木々高太郎
9.「船冨家の惨劇」 蒼井雄
10.「湖畔」 久生十蘭
B。戦後の長編ベスト20
1.「本陣殺人事件」 横溝正史
2.「高木家の惨劇」 角田喜久雄
3.「不連続殺人事件」 坂口安吾
4.「刺青殺人事件」 高木彬光
5.「薫大将と匂の宮」 岡田鯱彦
6.「虚像」 大下宇陀児
7.「上をみるな」 島田一男
8.「黒いトランク」 鮎川哲也
9.「猫は知っていた」 仁木悦子
10.「四万人の目撃者」 有馬頼義
11.「ゼロの焦点」 松本清張
12.「海の牙」 水上勉
13.「危険な童話」 土屋隆夫
14.「空白の起点」 笹沢佐保
15.「異郷の帆」 多岐川恭
16.「ゴメスの名はゴメス」 結城昌治
17.「大いなる幻影」 戸川昌子
18.「透明受胎」 佐野洋
19.「炎に絵を」 陳舜臣
20.「伯林--1888年」 海渡英佑
ホントのところ、お若い方とお話する時は、”三大奇書” に『黒死館殺人事件』が入っている事を念頭においています。
いちいち反論もしません。
しかし――。