涼風文庫堂の「文庫おでっせい」17 | ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

ryofudo777のブログ(文庫おでっせい)

私が50年間に読んだ文庫(本)たち。
時々、音楽・映画。

<ヴァン・ダイン、

クイーン>

 

 

34「ベンスン殺人事件」

ヴァン・ダイン

長編   井上勇:訳   中島河太郎:解説

創元推理文庫

 

<ウラスジより>

巨匠ヴァン・ダインの処女作。

本書はアメリカの長篇本格推理小説の

黄金時代開幕の契機となった歴史的な記念作で、

そのペダンチックな作風はその後に

多くの模倣者を生み出したほど革命的なものであった。

 

名探偵ファイロ(フィロ)・ヴァンス

と地方検事ジョン・F・X・マーカムのコンビが登場

 

<Murder Case>シリーズの第一作目です。

 

話としては、

ウォール街の株式仲買人

(米のミステリーでよく被害者になる職業)

アルヴィン・ベンスンが殺されて、

それが解決されるまでのものですが、

そこに至るまでの間、

かなりの頁をヴァンスの個人情報や

推理手法の特徴に割いています。

 

第6章などはその典型的な例でしょう。

 

「君は犯罪捜査にあたって、

 あらゆる物的証拠を無視せよと主張するのかね」

とマーカムは少しばかり、あわれむような口調でたずねた。

「極力主張するね」

 とヴァンスは落ちつき払って宣言した。

「価値がないばかりでなく、危険だよ……」

 

<続く>

 

この問答を手始めにヴァンスは、

犯人の心理や動機を重視する

心理分析中心の内的分析法を主張します。

その心理分析のためにポーカーをやったり、

チェスをやったりするのですが、それは後々の話です。

 

とにかく、ファイロ・ヴァンスを知るためにも、

ヴァン・ダイン作品の双璧で

推理小説史上の二大傑作

「グリーン家殺人事件」「僧正殺人事件」

を読むためにも、押さえておくべき作品でしょう。

 

 

 

 

 

 

35「Zの悲劇」

エラリー・クイーン

長編   鮎川信夫:訳   中島河太郎:解説
創元推理文庫
 

 

『Yの悲劇』から10年後、

サムは警察を退職して私立探偵となり、

地方検事ブルーノは知事になっています。

そしてサムの娘ペーシェンス(パット)が登場し、

語り手を務めます。

ドルリー・レーンは――すでに70を越えているでしょう。

 

ある上院議員が殺され、

その所有物の中から脅迫状とH-Eの文字が現れます。

ここから舞台の大半が ”アルゴンキン監獄” へと移り、

とある死刑囚が刑を執行される前に、

その無実を証明するという、

サスペンス劇の幕開けとなっていきます。

そして死刑制度の寸前、レーンが真相を携えて現われる――。

 

『Z』の意味についての感想は……

「アラビヤじゃなくてギリシャっぽくないか?」というものでした。

キリル文字を使うとか。クリスティがロシア文字を使ったように。

 

それにしても、聞いたことがない○○だったなあ。

 

 

 

 

 

 

36「レーン最後の事件」

エラリー・クイーン

長編   鮎川信夫:訳   中島河太郎:解説

創元推理文庫

 

この作品について語るのは、

正直かなりしんどい作業です。

というのも、最終的に何が起こり、

誰が犯人かを判った上で再見しなければならないからです。

 

---引退したサム警部とその娘ペーシェンスの事務所に

奇妙な依頼人が現れる。

事件はシェークスピアの初版本にからまるもので――     

<ウラスジより>

 

これを見ただけで、

「ああ、だろうなあ」「だから、ああなったんだなあ」と、

独りよがりに納得するばかりです。

 

要は、ネタバレ無しにこの小説の内容を紹介するだけの能力が

自分にはない、という事です。

 

という事で、

ここからは巻末の中島河太郎さんの解説から、色々と

 

――書誌学に深い関心をいだいている作者のクイーンが、

このテーマを採り上げるために、

初めからレーンをシェークスピア劇の俳優と

きめてかかったのではないかと邪推したくなるほどであった。

――本編を閉じればそれぞれの登場人物の残像が読後なお、

あざやかに浮かぶのであるが、

それは「X」「Y」「Z」と読み続けて来て、

レーン、サム、ペーシェンスらと親しんで来ているためである。

レーンにとって最後の事件が深い感動をよび起こすのは、

三悲劇のあとにあるからであって、

なるべくなら本書から先に読んでほしくない。

 

後にも先にも、

その本の解説で、

『○○を読んでないならこの本を読むな』 

的な文章はこれぐらいでしょう。

 

―-博識で鳴らす中島さんが時折見せる個人的な心情の吐露――。

この辺こそ、

私が推理小説評論家:中島河太郎を信頼する所以です

 

 

 

 

 

 

37「ローマ帽子の謎」

エラリー・クイーン
長編   井上勇:訳   中島河太郎:解説
創元推理文庫
 

 

『国名シリーズ』 初登場。

 

クイーン親子とはこれから長いお付き合いになります。

 

しかし、いわれてみればこの作品の構成、

ヴァン・ダインを相当意識してますねえ。

 

はしがきには、

<J・J・マック>の署名がありますが、

これはヴァン・ダインの

<S・S・ヴァン・ダイン>をモジったものだろうし、

探偵役がエラリー・クイーンでなかったら

<T・T・エラリー・クイーン>とかの署名に

になってたんじゃないかと思えるほどです。

(T・T・の意味はご自由にお考え下さい)

 

ちなみに<S・S・>は

<Steam Ship>〔汽船〕の頭文字だそうです。

 

で起こった事件はと言うと、

当時の角川文庫版を見れば判ります。

『ローマ劇場毒殺事件』

ネタバレではないにしろ、ちょっとどうかと思う題名ですよね。

 

国名シリーズは本来 ”Mystery” シリーズであって、

『謎』とか『秘密』がくっつかないと、ね。

 

――ああ。『アメリカ・ロデオ射殺事件』なんてのもあったっけ。

 

それから、クイーンの代名詞ともなった 

”読者への挑戦状” の文言。

 

ここではこうなっています。

『幕あい  では謹んで読者の注意を喚起すること』   

J・J・マック署名

 

最後は。

――心理的な必然性を利用して罠を張る――。

 

この終わらせ方も、どこかファイロ・ヴァンス的です。

 

もったいぶったディレッタント風の言動こそ

エラリーにはありませんが。