<プロンジーニ、
フォレット、
グラント>
1819「 失 踪 」
-名無しの探偵シリーズー
ビル・プロンジーニ
長編 高見浩:訳 新潮文庫
恋人エリカの愛を失って悄然としている私立探偵の前に、
不安そうな面持の女性の依頼人が現れた。
挙式寸前の婚約者が行方をくらましてしまったという。
唯一の手掛りである似顔絵の盗難を初め、
事件はアメリカからドイツの小都市にまで及んでゆく……。
孤独な人間の内面に分け入りながら、
愛と死のせめぎ合いを緊密なサスペンスに描く、
注目の ”名無しの探偵” シリーズ第二作。
<ウラスジ>
と、いうことで一作目がこちら。
一作目でも見られた、
最後のウェットな独言はこの作品でも健在。
ここが「好き嫌い」の分かれるところ。
主人公の探偵は幾度となく「恋」をする。
『トレント最後の事件』を持ち出すまでもなく、
探偵役が恋愛に走っても構わないのがご時世――。
とはいっても、
マーロウもアーチャーも(ついでにホームズも)、
女性に心魅かれても、そんな言動はおくびにも出さない。
(マイク・ハマーはおかしくなるが)
○○にはなんと言えばいいのだろう?
いったいなんと?
(○○は犯人の関係者で、探偵の恋愛対象)
で終わるこの作品、
次の作品の布石ともなる台詞で幕を閉じます。
しかし、
相変わらずの ”○○しさ” がこの作品でも炸裂、
アメリカ本土を離れる展開も含めて、
これが、”ネオ” ・ハードボイルドなのかと
納得させられています。
探偵の不健康な点では、
同時代のスペンサーとは対照的で、
ヤク中のモウゼス・ワインに近いのかも。
<余談>
プロンジーニの ”名無しの探偵もの” は
『誘拐』 紹介済み
『失踪』 紹介済み
『殺意』 既読
『死角』 既読
『脅迫』 既読
と続き、残る二作品、
『名無しの探偵事件ファイル』
『復讐』
を買い揃えるだけとなっていましたが、
油断しているうちに全巻廃刊、
現在、新潮文庫版を鋭意捜索中です。
(徳間文庫から出てる分は後回し)
ちなみに、
ウィルコックスの「ヘイスティング警部」と
プロンジーニの「名無しの探偵」が共演した、
『依頼人は三度襲われる』
は読了しています。
そのうち。
1820「針の眼」 MWA受賞作
ケン・フォレット
長編 鷺村達也:訳 早川文庫
連合軍を嘲弄するかのごとく、
英国内で活動を続けるドイツ屈指のスパイ<針>。
彼がかつてない最大機密を入手したのは
1944年の春だった。
フランス進攻を狙う
連合軍のカレー海岸攻撃準備は偽装であり、
陰ではノルマンディ上陸が企図されていたのだ。
<針>はこの情報を
手ずからヒトラーに届けることを決意、
彼の動向を探知した英国軍情報部の追撃をかわしつつ
祖国へ向かう。
が、
途中たどり着いた北海の孤島に待つのは、
危険な愛と思わぬ運命の変転だった!
鬼才がアクションとロマンスを満載して贈る
アメリカ探偵作家クラブ最優秀長篇賞受賞作!
<ウラスジ>
連合国がノルマンディー上陸作戦のために仕掛けた、
大いなるペテン――
それを見抜いたドイツのスパイ、
ヘンリー・フェイバーこと ”ディ・ナーデル<針>” ――
しかし、その情報を、
覚えめでたき総統に直接伝えんとすることでハマりこんだ
ストーム島アイランドで立ち往生することになる。
そこで知り合ったローズ夫妻、
とりわけ妻のルーシーとの関係――。
そこへ密命を帯びたヤードの特殊任務班にいた
(MI5じゃないところが逆にそれっぽい)ブロッグスが
駆けつけるんですが――。
<針>はヒトラーに会えたのか?
ブロッグスは<針>を阻止出来たのか?
そして鍵を握るルーシーの行動は?
<追記>
エピローグで語られる
1970年のワールド・カップ。
ここに登場するおじいちゃん・おばあちゃん――
とくにおじいちゃんは、
孫相手に大戦中の話を聞かせる好々爺となっている。
この部分、
ボブ・ラングレーの『北壁の死闘』のエピローグ
(こちらは第三者から見たうらやむべき老夫婦)
と同じく、ジワあっと沁み込んでくるエンディングです。
<余談>
後輩から薦められた『針の眼』が、ことのほか面白く、
『トリプル』
『レベッカの鍵』 (ともに集英社文庫)
と読み進み、次はいよいよ
新潮文庫の三巻もの
『大聖堂』
へと歩みを進めようとしたころ、
ふと耳にしたフォレットの評判、
曰く、
”ハーレクイン・アドベンチャー小説” の書き手。
当時(80年前後)の冒険小説愛好者は、
内藤陳さんの影響もあってか、
バグリイの
「男に熱い血が流れている限り、
不可能というものはないんだよ」
的な言葉に代表されるような、
「男の世界」を体現したような作品を良し、
としていたような気がします。
たしかにフォレットの初期の作品には
女性が活躍する、鍵を握る、
という展開が多く含まれています。
しかし、それは決して不自然ではないし、
いっそのこと女性を主役にした作品に作り変えても
何の問題もない感じがします。
映画で言えば、サイレント時代の
『ポーリンの冒険』
から昨今の
『トゥームレイダー』
まで、”女性活劇モノ” は連綿と続いていますから。
とはいうものの、
当時の ”ハーレクイン・○○” といった表現は
揶揄や侮蔑の意味さえ抱合しており、
フォレットの次の作品に手を出すのを躊躇させた嫌いはあります。
出どころは、
『冒険・スパイ小説ハンドブック』 早川文庫
表題が
<ハーレクイン系冒険小説の行方>
開始早々、
いきなり結論めいたことをいえば、
もはやケン・フォレットは、
実質的な第一作である『針の眼』を越える
冒険小説を書くことはないだろう。
<典厩五郎>
(『土壇場でハリー・ライム』は知ってるけど、
これ、何て読むんだ?)
それまで広義の意味で
<ミステリー・推理小説>の範疇に収められていた
「冒険小説」が独立を勝ち得、
徐々に浸透していったころ、
『読まずに死ねるか!』 内藤陳 83
『冒険小説の時代』 北上次郎 83
という指南書を経て10年近く、
「冒険小説ガイド」の集大成ともいえるかたちで登場したのが
『冒険・スパイ小説ハンドブック』。
(ほかに「SF」「ミステリ」もあります)
そこでのまあ、フォレットに対する評価ときたら――
『針の眼』からして、
私には純粋の冒険小説という認識はまるでなかった。
フォレット作品における大きな特色は、
ヒーローとヒロインの主人公二人制であり、
しかもどう見てもヒロインを描くことに
より情熱的で重点が置かれていることだ。
フォレット作品のヒロインが愛しているのは彼女自身であり、
「あなたはだれ?どうしてそんなに美しいの?」
と鏡の自分にむかって問いかける
ご苦労なしの乙女の心理状態が、
フォレット作品の基調をつらぬいているといってよい。
<典厩五郎>
……………
これ、ホントにガイドブック?
とどめが、
その作風をイメージ化するとつぎのようなものにあいなる。
――
まずフォレットは四人きょうだいの末っ子で、
上の三人はいずれも女である。
つまり三人の姉たちに着せ替え人形のように
扱われて成長したため、
シスター・コンプレックスがきわめてつよい。
(このあとも想像で性的嗜好にまで踏み込んでいます)
……イメージでここまで書くか。
フロイト的分析(?)に、
モームの『世界の十大小説』風の
作家の来歴を織り込んだような物言い――。
フォレットを「ハーレクイン作家」と定義づけたのは
評論家の関口苑生氏らしいが、
かえす刀で、(当時は最新作の)
『大聖堂』を ”おしんドラマ” であると
切手捨てたと言います。
ここまで言われたら
まだまだカッコつけたがっていた年頃、
軟弱で古めかしいとされる小説に
誰が手を出すもんですか。
<結論>
いまは充分、大人になったので、
『大聖堂』に手をつけようと思ってます。
でも新潮文庫版は廃刊、
いまはソフトバンク文庫から出てるって。
ソフトバンク文庫、
まだ一冊も読んでません。
1821「モスクワ5000」
デイヴィッド・グラント
長編 小菅正夫:訳 早川文庫
オリンピック開催に沸くモスクワ。
その喧噪の陰で、
驚くべき謀略が進行していた。
ウクライナ独立を要求する過激派が
レーニン中央スタジアムに時限爆弾をしかけたのだ。
一方、CIAはSALTⅡ締結の前に
ソ連の軍事機密を流したスパイの
国外脱出作戦を決行しつつあった。
だが、
これらの動きを察知したKGBが総力を上げて
阻止行動を開始。
果して逃亡の成否は?
爆破は回避されるか?
全ての舞台は精鋭達がしのぎを削る
5000メートル競走決勝戦へ移り、
白熱のクライマックスを迎える!
俊英クレイグ・トーマスが
別名義で放つ衝撃のサスペンス巨篇!
<ウラスジ>
1979年作。
ご存じの通り、1980年のモスクワ・オリンピックは
前年のソ連のアフガニスタン侵攻で、
カーターの号令一発、日本も含めた西側諸国が
一斉にボイコットした大会でした。
それはともかく。
600ページを超す大作で、
登場人物も多数に及びますが、
警備関係、テロリスト、そして選手たち、と
次々に視点が変わってゆき、
読む側の緊張感を途切れさせません。
のちのクランシーを思わせるような。
長めの作品にはこの手法だよな。
主役の一人、
KGBのカザンツェフが最初と最後に登場。
最後の最後、
爆弾点火の阻止に使われたのが
チューインガム。
「冒険野郎マクガイバー」か。
しかしKGBが主役ってのは……
むかし、
ソ連製のスパイ映画の情報が流れてきて、
その内容が「KGBが善玉で、CIAが悪玉」っていうのを
小耳に挟んだことがあります。
ソ連じゃ「007」は公開されてないってのもあった。
プーチンはKGBに憧れてたって言ってたっけ。
<余談>
デイヴィッド・グラントは
クレイグ・トーマスの別名だって。
クレイグ・トーマスって言ったら、
「ミッチェル・ガント」もの、
すなわち
『ファイアフォックス』
『ファイアフォックス・ダウン』 上下巻 早川文庫
とくに『ファイアフォックス』は1977年作、
この『モスクワ5000』よりも前の作品。
なんでわざわざ別名義を使ったのか?
噂によるとトーマス名義の作品の題名には
「動物の名」が入っており、
『ラット・トラップ』 ラット=ねずみ
『ファイアフォックス』 フォックス=きつね など
そうじゃない作品ではグラントの名を使うらしい。
【涼風映画堂の】
”読んでから見るか、見てから読むか”
◎「針の眼」 Eye Of The Needle
1981年(英) ユナイト
製作:スティーヴン・フリードマン
監督:リチャード・マーカンド
脚本:スタンリー・マン
撮影:アラン・ヒューム
音楽:ミクロス・ローザ
原作:ケン・フォレット
出演
ドナルド・サザーランド
ケイト・ネリガン
イアン・バネン
クリストファー・カゼノフ
フィリップ・マーティン・ブラウン
フェイス・ブルック
* 監督のマーカンド。
* 『スターウォーズ/ジェダイの復讐』。
* 49歳で夭逝。
* ドナルド・サザーランド。
* 翌年の『キャッシュマン』が
息子キーファーのデビュー作。
* ケイト・ネリガン。
* 何とも言えないフェロモンの持主。
* と思ったら、ラス・メイヤー映画の
アレイナ・カプリに似ていると感じたからだった。








