【エマニュエル・トッド氏のインタビュー】中国の脅威を暴いたコロナ禍 | 中谷良子の落書き帳

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核武装・スパイ防止法の実現を

旧ソ連の崩壊、イギリスのEU離脱、アメリカでのトランプ政権誕生を予言してきたフランスの戦争反対平和主義者であり人類学者・歴史学者であるエマニュエル・トッド氏は朝日新聞記者の偏った思想への誘導においても惑わされることなく日本にいるサヨクのように凝り固まったイデオロギーに囚われていないところが好きです。

トランプ前大統領に嫌悪感を示しつつも、朝日新聞記者がトランプが分断を進めたのでは?とする質問にもマクロン大統領、閣僚、エスタブリッシュメント、上流階層と25年間虚しく闘ってこられたご自身の経験からトランプがジャーナリストや官僚を忌み嫌うことについては同情的。

興味深かったのは、別のインタビューで今回のコロナ騒動を「そこまで深刻にとらえるべきではないと考えています。」「今回のコロナの犠牲者は高齢者に集中しています。つまり社会構造を決定づける人口動態に新しい変化をもたらすものではありません。」「むしろ懸念しているのは、私のような高齢者を守るために経済を完全にストップさせ、その犠牲として若者の生活が破壊されてしまうことです。」

この視点が、ほとんどの日本人になく、テレビの刷り込みに洗脳され、ヒステリーを起こし、右往左往しているのでコロナ禍は恐ろしい現象です。

こうしている間にもコロナ禍で影響が長期に及び、子供の精神面の影響が深刻化してきており、18歳以下の自殺は昨年に過去最多で、児童生徒の15~30%が中等度以上のうつ症状という調査結果が出ています。

このままでは間違いなくコロナより過剰自粛で子供達の精神が病み、若者の自殺は益々増えるような気がします。






★中国の脅威を暴いたコロナ禍★

中国についてあなたの意見を聞かせてください。コロナ禍に関して、あなたは中国に批判的ですね。それはあの国が新型コロナウイルスの発生源だからですか?

「発生源だからというわけではありません。コロナ禍によって、中国の脅威、とりわけ民主主義と自由への脅威がはっきりしたからです。

コロナ禍は、その対応が各国で異なることを見せつけました。人類学的におおまかにいうと、女性の地位が高い自由な国々が、あまりうまく対応できませんでした。米国ではトランプ政権で問題が深刻化して、今もひどい状態にあります。

米国の場合、個人主義的な面も影響しているでしょう。英国もフランスも南欧の国々もかなり苦しむことになりました。

一方、ドイツはもっとうまく対応していました。日本だって、今は不安の中にあるかもしれませんが、感染の広がりを比較的抑えています。日本やドイツは、社会秩序がしっかりしているし、人々も規律正しい。

中国について言えば、日独などよりもっと強い秩序がありました。あの国は、全体主義体制だからです。だから、今回のコロナ禍のような危機をよりうまくコントロールする備えができているのは、全体主義システムの方だということが確認されました。

このことで私たちは挑戦を受けることになりました。警戒しなければいけません。

歴史はひょっとしたら、全体主義国家が持っている武器を民主主義諸国が持ち合わせていないという時代に入りつつあるのかもしれないからです。ちょっと1930年代に似ています。

ヒトラーのドイツやムッソリーニのイタリア、軍国主義の日本、スターリンのソ連時代です。国家の介入が必要な時代でしたが、明らかに全体主義的な強権国家の方がそれに対応する態勢が整っていました。

ソ連は1929年の世界恐慌の影響を受けませんでした。ドイツはその危機から早く抜け出した。うっとうしいは話ですが。

ただ、新型コロナウイルスについてあんまり大袈裟に考えるのは良くないかもしれません。いくつかの点では感染症は幻想でもあるからです。

必ずしも社会を本当に弱体化させるわけではありません。というのもこの病気が命を脅かすのは基本的に75歳以上の高齢者だからです。私ももう70ですので、こうやってブルターニュの小さな家に逃げてきています。死ぬかもしれない環境は避けた方がいいですから。

で、自分自身も高齢者だから言わせてもらうわけですが、進歩した世界が抱える問題のひとつは、人々が高齢になってきたことです。高齢者人口の増加は、先進社会のブレーキになってきました。だとすると、新型コロナウイルスが高齢者の命を奪ったとしても、社会にとって深刻な打撃になりません。

だから1930年代の民主主義国と全体主義国のちがいほどには劇的な意味を持つわけではありません。でも、これは考えるべき問題ではあります。

またコロナ禍で、私たちは中国への物質的な依存度の大きさに改めて気付かされました。フランスの場合は恐ろしいほどです。医薬品の生産さえもそうなのです。だから、これは転換点です。

私は前から、大国としての中国に批判的でしたが、コロナ禍で同じように考える人も増えたのではないでしょうか。つまり、世界は中国を制御するための態勢を整えるべきだという意識を広めるのに、コロナ禍はアクセルになるでしょう。

ここで言っておかなければいけないと思うのですが、これこそトランプ氏の歴史的な勝利です。

彼が初めて中国は問題だと言ったのです。まず経済的な面で。

更に米国の地政学者たちが、中国は問題だということを認め、そして今は、欧州も日本も。もっとも日本は中国が脅威だと今更学ぶ必要もないだろうけど。

ヨーロッパ人は今回のことで、中国が問題だということを認めざるを得なくなりました。医薬品をはじめさまざまな物資の供給という点で。そして自由への脅威として。

中国は新しいテクノロジーを使って監視社会の体制を作り上げつつあります。これはとにかく受け入れがたいことです。

今の中国は中国人が自分で作った社会です。

人類学者としていうならば、中国人に自由になることを強制する気はありません。しかし、国際社会の中では中国は抑え込まなければならない。実際、そういうことになるでしょう。」