●帰国した者以外の拉致被害者たち
それまで、事件そのものがなかったと主張していた北朝鮮当局が、全員ではないにしろ、5人の拉致被害者の日本への一時帰国を認め、それが実現した。
その後、本人たちの強い意志により、彼らは北朝鮮に戻ることなく、日本に残ることになった。これは、拉致事件における最大の成果のひとつである。5人以外の拉致被害者については、北朝鮮はそれぞれ病気などで死亡したと日本に報告しているが、矛盾の多いその報告は、政府拉致対策本部による見解である。
以下引用
8名のほとんどが、20代～30代の若さで、ガス中毒、交通事故、心臓麻痺、自殺により、自然死とは言い難い状況で死んだとされており、これ自体不自然ではあるが、さらに、これら死亡の事実を裏づける客観的な証拠がまったく提示されていない。
(1)この中には、日本では泳げなかった被害者が緊急出張中に海水浴に行き心臓麻痺で死亡したケース(市川修一さん)や、健康で既往症のない20代女性が突然心臓麻痺で亡くなったケース(増元るみ子さん)も含まれる。これら不自然な死を証明する証拠が一切提出されていないことが相まって、北朝鮮側主張の信憑性を疑わざるを得ない。
(2)北朝鮮は、(横田めぐみさん、松木薫さん以外の)6人の遺骸は3ヶ所の墓地に埋葬されていたが、すべて豪雨で流失したと説明している。
また、日本側に提供された2人分(横田めぐみさん、松木薫さん)の遺骨とされるものからは、鑑定の結果、本人らのものとは異なるDNAが検出されている。
以上引用
8名が亡くなり、なおかつその遺骸がすべて豪雨で流出したなど、幼児の嘘よりも幼稚なデタラメである。これが北朝鮮政府の公式な見解なのだというから驚かされてしまう。
北朝鮮が拉致活動を活発に行っていたのは1980年代までで、国際問題としてクローズアップされた90年代以降は、おそらくだが拉致という手法は用いられていない(激減した)と考えられる。
直接的な対立国である韓国において、北朝鮮宥和(ゆうわ)政策である太陽政策が進み韓国の北朝鮮敵視の傾向が薄らいだことも影響しているだろうし、91年に北朝鮮が韓国とともに国連に加盟することを許された影響もある。
なにより、北朝鮮において指導者が世代交代したということがもっとも大きな理由であろう。金日成が94年に死去し、金正日が新しい国家指導者となり、軍部や北朝鮮の情報部においてもある程度の人材の刷新が行われた。
国際的に大きな問題となる拉致は、その割に効果そのものが限定的で、差し引きした場合、むしろマイナスともいえるものである。だからこそ、2002年の日朝会談で金正日は拉致を認め、謝罪までしているのだろう。彼にとっては、先代の悪行であって、ある意味で他人事であったからこそ、認められたのだろう。
しかしながら、北朝鮮は拉致疑惑のごく一部を認めただけである。いまだ疑惑の全貌が解明されていないという事実に変化はない。
●闇に埋もれた多くの拉致事件
また、近年では、北朝鮮を脱出した北朝鮮の情報部員が、漁船などを襲い、使えそうな船員を拉致して、それ以外は船ごと海に沈められるという作戦が頻繁に行われていたと証言している。
海難事故と思われていたものの中に、拉致目的で沈められた事例がかなり含まれることになるが、そちらについての調査はまだこれからである。マスコミ報道などで、拉致事件は清算すべき過去の問題とする論調が見受けられるが、今日でも北朝鮮にとって日本人を拉致するメリットは大きい。
戸籍の問題を取り上げたが、韓国以外の国を相手取る時、日本のパスポートを持った工作員は優位である。近年では、拉致はせず、ホームレスから戸籍そのものを買い取ったり、養子縁組などを多用してパスポートや戸籍を作成したりと、手口そのものが大きく変化していると研究者は警告している。
世界中、日本のパスポートで入国ではない国はほとんどない。北朝鮮人や韓国人が入れない国でも、日本人なら簡単に入国できてしまうのだ。日本のパスポートを手に入れることは、北朝鮮の情報組織にとって、とても魅力的なことであるという点に変化はない。
そういった意味で、強引な拉致はほとんどなくなっているとは考えられるが、より巧妙な手法で日本人が北朝鮮に連れ去られている可能性は残っている。また、日本人拉致であれば問題となるが、本人の意志とは無関係な形で、在日北朝鮮人が拉致されてしまうケースもあったと推測されている。
この場合は、彼らを保護すべき国が拉致を実行しているだけに、問題になるケースはなく、ある意味でより根深いものである。
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