★ネット企業の若きリーダーは世の中を良くしたいと言うが、実体は利益追求に目のない強欲な19世紀の実業家と同じだ★
カネがすべてじゃないと、シリコンバレーの住人は言う。
嘘だ思うなら、04年の株式公開に先立ってグーグルの若き創業者ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンがしたためた投資家宛の書簡を読んでみるといい。
そこにはグーグルは
「普通の会社ではない」とあり、目指すのは、
「世界をより良い場所に変える」ことだとある。
このマニフェスト、実はシリコンバレーの偉大な先達の名言を拝借したものにすぎない。
10年ほど前、アップルのスティーブ・ジョブズは言ったものだ。
「別に大富豪として死にたいとは思わない・・・何か素敵なことをやったぞと確信して眠りに就く・・・それで充分だ」
こうした高い理想を掲げる伝統はシリコンバレーの新参者にも受け継がれている。
ソーシャルゲームの大手ジンガ・ゲーム・ネットワークの共同設立者マーク・ピンカスは昨年の株式公開にあたり、
「ゲームは社会に貢献すべきだ。私たちは日々の仕事を通じて世界を助けたい」と述べている。
IPO(新規株式公開)で100億ドルの資金調達を目指すフェイスブックの設立者マーク・ザッカーバーグも、似たような約束をしている。
「金儲けのためのサービスは開発しない。より良いサービスを開発するために金を稼ぐだけだ。・・・今日では、利益の最大化以外の何かを考えている企業のサービスを利用したいと思う人が増えているのではないか」
あの金融危機を体験し、ウォール街の悪行を暴かれるのを目にしてきた私たちの耳に、こうした発言は心地よく響く。
法外な報酬を得ていながら公的資金で救済された銀行家や、従業員の雇用を犠牲にして儲けた企業再建屋に課される所得税率が庶民より低い現実に対する怒りも、少しは収まりそうだ。
だが、言うは易し。
政治や宗教の世界でもそうだが、理想と現実はどんどん乖離していく。
アメリカ資本主義の聖人を気取るシリコンバレーの若き富豪たちも、気が付けば往年の悪徳資本家に似てきている。
ジーンズの似合う彼らも、実体は19世紀後半の黒服にシルクハットの強欲な実業家と変わりない。
100年前に鉄道や鉄鋼、銀行や石油で儲けた大金持ち同様、シリコンバレーの若き起業家たちも最新技術を駆使して世界の効率化を推し進めている。
しかし、その過程で経済や労働に混乱が生じ、どこかに不当な利益が蓄積される。
つい最近も米司法省がアップルに対して、電子書籍の価格設定をめぐる出版社との談合容疑で告発準備を進めていると警告した。
「第2次産業革命でアメリカは大きく変わった。変化を導いたのは、失業者の群れを従えて自分だけ大金持ちになった50人ほどの男たちだ」
と語るジョー・ロンズデールは、その50人の1人であるリーランド・スタンフォードの設立した大学を03年に卒業している。
そのロンズデールが目指すのは、自ら立ち上げた会社アドバーを通じて
「世界の富を動かすインフラを再構築」すること。
古い秩序の創造的破壊を担うのは
「かつては悪徳資本家だったが、今は技術者だ」と、ロンズデールは信じている。
だが、あまりに高邁な理想を掲げることのリスクに気付き始めたシリコンバレーの住人もいる。
例えばシスコシステムズのジョン・チェンバーズCEOや投資会社シルバーレイクの設立者グレン・ハチンズだ。
このまま技術革新による雇用の喪失が続き、ハッカー攻撃による個人情報の流出が繰り返されれば、金融危機後のウォール街たたき同様の「シリコンバレーたたき」が起こり兼ねない。
彼らはそう論じている。
実際のところ、シリコンバレーに悪人はいない、普通の企業とは違うのだという主張は、ますます通じにくくなっている。
いかに掲げる理想が高くても、実際にやっているのは利益の最大化に過ぎず、その他大勢の企業と少しも変わらない。
そんな現実が見えてきたからだ。
★外国工場での過酷な搾取★
例えばアップルは、台湾系の富士康(フォックスコン)などを通じ、iPhoneなどの最終組み立てを中国で行うことによってコスト削減と利益の最大化を図っている。
もちろん、それ自体を責めることはできない。
アウトソーシングはどの会社でも行われている。
だが、もしも外注先の企業が現地労働者を不当に搾取していたら?
やはり倫理的な責任は問われる。
かつてナイキの下請け工場で学齢期の児童が酷使されていた事実が発覚したときも大騒ぎになった。
アップルとて、外注先の実態に目をつぶってきたわけではない。
一定の基準を設け、監査も行ってきた。
しかし積極的な対応をしてきたとは言い難い。
例えば深圳(シンセン)にある富士康の工場の労働環境の劣悪さは有名だったが、アップルが中国内にある下請け工場の特別監査を公正労働協会(FLA)に要請したのはつい最近のことだ。
無名の俳優マイク・デイジーが現地を取材してまとめた1人芝居『スティーブ・ジョブズの苦悩とエクスタシー』を上演し、それをニューヨーク・タイムズ紙が大々的に取り上げて初めて、アップルは重い腰を上げたのだ。
~ロブ・コックス(ビジネスコラムニスト)~