パチンコで食べてゆけるのか② | 中谷良子の落書き帳

中谷良子の落書き帳

核武装・スパイ防止法の実現を

①からのつづき

$Jellyの~日本のタブー~


「ありがとう、先生!」
ちなみに、「先生と呼ばれるほどのバカじゃない」という言葉を彼が知っていたのかどうかは定かではない。

翌日からぼくは『自称、山村プロ』に同行しながら「食える」と称するパチンコのお手並みを拝見させてもらう事にした。
山村の戦略を一言で言うと、パチンコは『ボーダーライン』、スロットは『設定看破』である。

あまりの芸の無さに吐き気がした。
彼が『お宝帳』と呼んで肌身離さず持ち歩いていた105円の手帳には、近隣パチンコ店の大当たりデータが細かく記入されていた。

パチンコ台は釘の状態を見て「店のやる気」を読み取り、スロットは見えない設定を過去のデータから推理して読み取るのだと言っていた。

言う事は立派だが、問題は「結果が付いてくるかどうか」である。
パチプロが言った。

「まずはパチンコで甘い汁釘調整の台を探すべし!もしも目当ての台が見つからなかったら、速やかにスロットコーナーへ移動すべし!」

「へい、親分!」

ちなみにスロットの設定は①~⑥までの6段階。
数字の高い方が甘い確率になっている。

しかし⑥だから確実に勝つとも言えないし、①だから確実に負けるとも言い切れないのが長年、現場を見てきたぼくの意見だ。

高設定で“万枚”出るような機種もあるが、設定⑥でも1日という短いスパンでは結果が出ない機種も少なくないのである。
胴元側ですら思惑通りに出ないパチ&プロで勝ち続けるのは至難の業だ。

パチンコ屋の内部事情を知っているぼくは「これは厳しすぎる戦いなのでは?」と思うのだが、プロが「食える」というのだから見てみたい。見せろ!

ぼくは山村の指示に従って甘い釘調整の台を探し出し、本当にパチで食えるのか、という興味深い事実の検証を開始した。
数時間の戦いの後、結果はやっぱり「負け」である。

回せども回せども当たりが来ないのだ。
ぶん回りの台で撃沈するという、全国各地の勤務店で見続けてきた「よくある負けパターン」である。

たっぷりゼニをぶち込んだ後で大当たりを引き当てても、そこから出たり入ったりを繰り返す無限地獄。
そして最後はやっぱり呑まれてしょんぼりというつまらないパターンで初日の実戦は終了。

『最初に突っ込んだ金は戻ってきません』というお馴染みの敗北パターンだ。
「こういう日もあるよ」という山村プロの言葉がうすら寒く聞こえる。

「今日はもうやめとこう」という提案で、初日は早々に別れて帰路につくことにした。
翌日、山村プロが爆弾発言をした。

「あの後、阪井さんと別れてから別の店で打ったら10万円も勝っちゃったよ」
その後もぼくはプロに同行して、朝、昼、晩と打ち続け・・・

2週間後には収支がマイナス20万円を突破していた。
山村もぼくに付き合う形でチンタラ打ちながら着々と負債を増やしている。

しかしなぜかぼくと別れた後、「あの後、1人で別の店で打ったら出ちゃったよ」などという事後報告をしてくるのだ。
ほんとかよ!

「なんで一緒に時は負けるのに、1人のときばかり勝つんだよ!!」
「・・・だってしょうがないじゃないか」

見切り千両という言葉がある。
遅すぎる感は否めないが、ぼくは山村に三下り半を突きつけた。

彼に付き合って得た教訓は

『パチンコに関わるなら打ち手ではなく胴元側じゃなきゃダメ。そして何よりも、パチンコじゃ食えねえよ!』である。

日雇いを辞めて再びパチンコ屋を転々としながら数年が過ぎた。
山村とのつまらない付き合いはその後、途絶えていたが、ある日、見覚えのない電話番号がぼくの携帯電話に表示された。

電話の主はあの山村だ。
電話の向こうの山村は、サハラ砂漠の乾いた風のような声で言った。

「阪井さん・・・少しでいいから金貸してくれないかな」
「・・・今、なにやってるんですか?」

「あいかわらずだよ・・・ところでさ、おれ1週間も飯を食ってないんだよ。人間、住む所は無くても大丈夫だけど飯は食わなきゃダメだよね」

山村は「少しでいいから、金貸してくれないかな」と言った。
「貸してくれるなら、手持ちは無いけど何とかする!」と言い放ち、その言葉通り、東京から千葉まで『改札を強行突破』してやって来た。

数年ぶりに再会したパチプロは白髪が増え、前歯が数本何処かへ旅立ち、微妙な体臭で道行く人々を不愉快な表情にしていた。

山村がおちゃらけながら言った。

「サウナで寝泊りしている自由人ですよ~」
「・・・そこまでして、パチンコって楽しいですか?」
「パチンコ?楽しいよぉ~」

笑顔でパチンコを語る中年男を見て心の底から思った。

パチンコに関わるとロクな事がねえなぁ。
$Jellyの~日本のタブー~




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