TPPはトロイの木馬・関税自主権を失った日本は滅びる(解説動画あり) | 中谷良子の落書き帳

中谷良子の落書き帳

核武装・スパイ防止法の実現を

◆《インタビュー》中野剛志:TPPはトロイの木馬──関税自主権を失った日本は内側から滅びる

(以下の記事を読むのが面倒という方は直接同様の内容の動画にどうぞ↓)


ソース:livedoorニュース(THE JOURNALより)2010/01/21 17:00
http://news.livedoor.com/article/detail/5286192/

中野剛志氏(京都大学大学院助教)
$Jellyの~日本のタブー~

TPP反対論を展開する中野剛志氏にインタビューを行いました。
10月以降政府・大マスコミが「開国」論を展開する中、中野氏は

「日本はすでに開国している」
「TPPで輸出は増えない」
「TPPは日米貿易だ」と持論を展開してきました。

TPPの問題点はもちろん、今までのメディアの動き、そしてインタビューの後半には、TPP議論の中で発見した新たな人々の動きについても触れていただきました。

「TPPはトロイの木馬」

TPP問題はひとつのテストだと思います。
冷戦崩壊から20年が経ち、世界情勢が変わりました。
中国・ロシアが台頭し、領土問題などキナ臭くなっています。

米国はリーマンショック以降、消費・輸入で世界経済をひっぱることができなくなり、輸出拡大戦略に転じています。世界不況でEUもガタがきていて、どの国も世界の需要をとりにいこうとしています。

1929年以降の世界恐慌と同様に危機の時代になるとどの国も利己的になり、とりわけ先進国は世論の支持が必要なので雇用を守るために必死になります。

このような厳しい時代には、日本のような国にもいろいろな仕掛けが講じられるでしょう。
その世界の動きの中で日本人が相手の戦略をどう読み、どう動けるかが重要になります。

尖閣、北方領土、そしてTPPがきました。
このTPP問題をどう議論するか、日本の戦略性が問われていたのですが、ロクに議論もせずあっという間に賛成で大勢が決してしまいました。

─TPPの問題点は

昨年10月1日の総理所信表明演説の前までTPPなんて誰も聞いたことがありませんでした。

それにも関わらず政府が11月のAPECの成果にしようと約1ヶ月間の拙速に進めたことは、戦略性の観点だけでなく、民主主義の観点からも異常でした。

その異常性にすら気づかず、朝日新聞から産経新聞、右から左まで一色に染まっていたことは非常に危険な状態です。

TPPの議論はメチャクチャです。
経団連会長は「TPPに参加しないと世界の孤児になる」と言っていますが、そもそも日本は本当に鎖国しているのでしょうか。

日本はWTO加盟国でAPECもあり、11の国や地域とFTAを結び、平均関税率は米国や欧州、もちろん韓国よりも低い部類に入ります。
これでどうして世界の孤児になるのでしょうか。

ではTPPに入る気がない韓国は世界の孤児なのでしょうか。

「保護されている」と言われる農産品はというと、農産品の関税率は鹿野道彦農水相の国会答弁によればEUよりも低いと言われています。

計算方法は様々なので一概には言えませんが、突出して高いわけではありません。
それどころか日本の食糧自給率の低さ、とりわけ穀物自給率がみじめなほど低いのは日本の
農業市場がいかに開放されているかを示すものです。

何をもって保護と言っているかわかりません。
そんなことを言っていると、本当に「世界の孤児」扱いされます。

「TPPに入ってアジアの成長を取り込む」と言いますが、そこにアジアはほとんどありません。
環太平洋というのはただの名前に過ぎません。

仮に日本をTPP交渉参加国に入れてGDPのシェアを見てみると、米国が7割、日本が2割強、豪州が5%で残りの7カ国が5%です。これは実質、日米の自由貿易協定(FTA)です。

TPPは"徹底的にパッパラパー"の略かと思えるぐらい議論がメチャクチャです。

ニュージーランド、ブルネイ、シンガポール、チリの4加盟国+ベトナム、ペルー、豪州、マレーシア、米国の5参加表明国に日本を加えたGDPグラフ。

日本と米国で9割以上を占める。(国連通貨基金(IMF)のHPより作成(2010年10月報告書)

─菅首相は10月当初、TPPをAPECの一つの成果とするべく横浜の地で「開国する」と叫びました。

Jellyの~日本のタブー~


横浜で開国を宣言した菅首相はウィットに富んでいるなと思いました。
横浜が幕末に開港したのは日米修好通商条約で、これは治外法権と関税自主権の放棄が記された不平等条約です。

その後日本は苦難の道を歩み、日清戦争、日露戦争を戦ってようやく1911年に関税自主権を回復して一流国になりました。

中国漁船の船長を解放したのは、日本の法律で外国人を裁けないという治外法権を指します。
次にTPPで関税自主権を放棄するつもりであることを各国首脳の前で宣言したのです。

APECでは各国首脳の前で「世界の孤児になる」「鎖国している」と不当に自虐的に自国のイメージをおとしめました。

各国は日本が閉鎖的な国だと思うか、思ったフリをするため、普通は自国の開かれたイメージを
大切にするものです。

開国すると言って得意になっているようですが、外交戦略の初歩も知らないのかなと。
すでに戦略的に負けています。

世界中が飢餓状態にある今、世界最大の金融資産国である日本を鵜の目鷹の目で狙っています。
太ったカモがネギを背負って環太平洋をまわっているわけで、椿三十郎の台詞にあるように「危なっかしくて見てらんねえ」状態です。

─TPPは実質、日米の自由貿易協定(FTA)とおっしゃいましたが、米国への輸出が拡大することは考えられ
ませんか

残念ながら無理です。
米国は貿易赤字を減らすことを国家経済目標にしていて、オバマ大統領は5年間で輸出を2倍に増やすと言っています。

米国は輸出倍増戦略の一環としてTPPを仕掛けており、輸出をすることはあっても輸入を増やすつもりはありません。これは米国の陰謀でも何でもないのです。

オバマ大統領のいくつかの発言(※1)を紹介します。
11月13日の横浜での演説で輸出倍増戦略を進めていることを説明した上で、「...それが今週アジアを訪れた大きな部分だ。

この地域で輸出を増やすことに米国は大きな機会を見いだしている」と発言しています。
この地域というのはアジアを指しており、TPPのGDPシェアで見れば日本を指しています。

そして「国外に10億ドル輸出する度に、国内に5,000人の職が維持される」と、自国(米国)の雇用を守るためにアジア、実質的に日本に輸出するとおっしゃっています。

米国の失業率は10%近くあり、オバマ政権はレームタッグ状態です。
だからオバマ大統領はどこに行っても米国の選挙民に向けて発言せざるを得ません。

「巨額の貿易黒字がある国は輸出への不健全な異存をやめ、内需拡大策をとるべきだ」とも言っています。
巨額の貿易黒字がある国というのは、中国もですけど日本も指しています。

そして「いかなる国も米国に輸出さえすれば経済的に繁栄できると考えるべきではない」と続けています。

TPPでの日本の輸出先は米国しかなく、米国の輸出先は日本しかない、米国は輸出は増やすけれど輸入はしたくないと言っています。

米国と日本の両国が関税を引き下げたら、自由貿易の結果、日本は米国への輸出を増やせるかもしれないというのは大間違いです。

米国の主要品目の関税率はトラックは25%ですが、乗用車は2.5%、ベアリングが9%とトラック以外はそれほど高くありません。
日米FTAと言ってもあまり魅力がありません。

─中国と韓国がTPPに参加するという話が一部でありました

中国は米国との間で人民元問題を抱えています。
為替操作国として名指しで批判されています。

為替を操作するということは貿易自由化以前の話ですから、中国はおそらく入りません。
韓国はというと、調整交渉の余地がある二国間の米韓FTAを選択しています。

なぜTPPではなくFTAを選んだかというと、TPPの方が過激な自由貿易である上に、加盟国を見ると工業製品輸出国がなく、農業製品をはじめとする一次産品輸出国、低賃金労働輸出国ばかりです。

韓国はTPPに参加しても利害関係が一致する国がなく、不利になるから米韓FTAを選んでいるのです。

日本は米国とFTAすら結べていないのに、もっとハードルが高く不利な条件でTPPという自由貿易を結ぼうとしています。
戦略性の無さが恐ろしいです。

<関税はただのフェイント 世界は通貨戦争>

米国は輸出倍増戦略をするためにドル安を志向しています。
世界はグローバル化して企業は立地を自由に選べるので、輸入関税が邪魔であればその国に立地することもできます。

現に日本の自動車メーカーは米国での新車販売台数の66%が現地生産で、8割の会社もあります。もはや関税は関係ありません。

それに加えて米国は日本の国際競争力を減らしたり、日本企業の米国での現地生産を増やしたりする手段としてドル安を志向します。

ドル安をやらないと輸出倍増戦略はできません。

日米間で関税を引き下げた後、ドル安に持って行くことで米国は日本企業にまったく雇用を奪われることがなくなります。

他方、ドル安で競争力が増した米国の農産品が日本に襲いかかります。
日本の農業は関税が嫌だからといって外国に立地はできず、一網打尽にされるでしょう。

グローバルな世界で関税は自国を守る手段ではありません。
通貨なんです。

─関税の考え方をかえる必要がありそうです

米国の関税は自国を守るためのディフェンスではなく、日本の農業関税という固いディフェンスを突破するためのフェイントです。

彼らはフェイントなどの手段をとれるから日本をTPPに巻き込もうとしているということです。

─農業構造改革を進めれば自由化の影響を乗り越えられるという意見はどう思いますか?

みなさんはTPPに入れば製造業は得して農業が損をすると思っているため、農業対策をすればTPPに入れると思うようになります。

農業も効率性を上げればTPPに参加しても米国と競争して生き残れる、生き残れないのであれば企業努力が足りない、だから農業構造改革を進めよと言われます。

それは根本的に間違いだと思います。
関税が100%撤廃されれば日本の農業は勝てません。

関税の下駄がはずれ、米国の大規模生産的農業と戦わざるを得なくなったところでドル安が追い打ちをかけます。

さらに米国は不景気でデフレしかかっており、賃金が下がっていて競争力が増しています。

関税撤廃、大規模農業の効率性、ドル安、賃金下落という4つの要素を乗り越えられる農業構造改革が思いつく頭脳があるなら、関税があっても韓国に勝てる製造業を考えろと言いたいです。

自由貿易は常に良いものとは限りません。
経済が効率化して安い製品が輸入されて消費者が利益を得ることは、全員が認めます。

しかし安い製品が入ってきて物価が下がることは、デフレの状況においては不幸なことなのです。

デフレというものは経済政策担当者にとって、経済運営上もっともかかってはいけない病だと
いうのが戦後のコンセンサスです。

物価が下がって困っている現状で、安い製品が輸入されてくるとデフレが加速します。
安い製品が増えて物価が下落して影響を受けるのは農業だけではありません。

デフレである日本がデフレによってさらに悪化させられるというのがこのTPP、自由貿易の問題です。

農業構造改革を進めて効率性があがった日には、日本の農家も安い農産物を出荷してしまうことになり、さらにデフレが悪化します。

デフレが問題だということを理解していれば、構造改革を進めればいいなんて議論は出てきません。
こういう議論をすると「農業はこのままでいいのか」ということを言い出す人がいます。

しかし、デフレの時はデフレの脱却が先なのです。

インフレ気味になり、食料の価格が上がるのは嫌なので農業構造改革をするということはアリだと思います。

日本は10年以上もデフレです。
デフレを脱却することが先に来なければ農業構造改革は手をつけられません。

例えばタクシー業界が競争原理といって規制緩和の構造改革をしました。
デフレなのに。

その結果、供給過剰でタクシーでは暮らせない人が増えて悲惨なことになりました。
今回は同じ事が起ころうとしています。

─TPP参加のメリットを少しだけ...

デメリットは山ほどありますが、メリットはないんです。

米国が輸出を伸ばし日本が輸入を増やして貿易不均衡を直すこと自体は、賛成です。
ところが、関税を引き下げて輸入をすると物価が下がるので、日本はデフレが悪化します。

経済が縮小するので、結局輸入は増えません。
農産品が増えれば米国の農業はハッピーですが、トータルで輸入は増えません。

本当は日本がデフレを脱却して経済を成長させれば、日本の関税は低いんだから輸入が増えるんです。
実際に米国はそれをしてほしかったのです。

ガイトナー財務長官は昨年6月、日本に内需拡大してくれという書簡を送りました。

ところが日本は財政危機が心配だと言って財政出動をしないので、内需拡大をしようと
せずに輸出を拡大しようとするので、米国は待ち切れずにTPPに戦略を変えたのでしょう。

米国は

「とりあえずTPPを進めれば農業は儲かるからいいや」

となったのでしょう。

デフレを脱却し、内需を拡大し、経済を成長させれば、関税を引き下げることなく輸入を増やすことができます。

環太平洋やアジアの地域は、例えば韓国がGDPの5割以上、中国も3割以上が輸出に頼っており、
シンガポールやマレーシアに至ってはGDPよりも輸出が多いです。

つまり輸出依存度が高く、その輸出先となっていた米国が輸入したくないと言っているので環太平洋・アジアの国々は困っていることと思います。

今、東アジアが調子が良いのは、資金が流入してバブルになっているからで、本当はヤバイ状況です。

環太平洋の国々は経済不況に陥った米国やEUに代わる輸出先を探しています。
日本は世界第2位のGDPがあり、GDPにおける輸出の比率は2割以下という内需大国です。

その日本が内需を拡大して不況を脱し、名目GDP3%程度の普通の経済成長をしたとすれば、環太平洋の国々は欧米で失った市場の代わりを日本に求めることができるので、本当の環太平洋経済連携ができます。

これなら、どの国も不幸になりません。

─あえてTPPを推進する狙いをあげれば、TPP事態は損だとしても今後FTAやEPAなど二国間貿易を進めるきっかけにしたいということなのでしょうか?

それも無理筋ですね。
自由貿易を進めている国として韓国をあげ、日本はFTAで韓国に遅れをとっているという論調があります。

しかしFTAは、一つ一つ戦略的に見ていくべきもので、数で勝ち負けを判断すべきではありません。
韓国はGDPの5割以上が輸出で得ており、自由貿易を進めなければ生きていけません。

韓国人はやる気があるとか、外を向いているとかいった精神論ではありません。
しかし、自由貿易は格差を拡大するものであり、それが進んでしまったのが韓国なのです。

韓国がなぜ競争力があがったかのでしょうか。
韓国はこの4年間で円に対するウォンの価値が約半分になっている。

韓国の競争力が増したことはウォン安で十分説明できます。
日本がTPPで関税を引き下げてもらったとしても、韓国のウォンが10%下がれば同じ事ですし、逆にウォンが上がれば関税があっても十分戦えます。

グローバル化の世界は関税じゃなく通貨だということがここでも言えます。
なんで全部農業にツケをまわすんだと言いたいです。

とっちにしたって世界不況ですから海外でモノは売れませんよ。
失業率が10%の米国で何を売るんですか。