その刹那、背筋に冷たい物がかじりつく感覚を受けた。弾かれたように振り返った秀太が視認を試みると……
「あら秀太くんじゃない。こんばんは」
「あ……こんばんは、です」
同じフロアに住む、恰幅の良いオバサマがねぎのはみ出た買い物袋片手に、背後を歩いていた。
拍子抜けな顔と声色をしてしまったせいか、そのオバサマはやや首を傾げたが、秀太が玄関に向き直したのを見て、「頑張ってね」と言い残して去って行った。
何だったんだ今のは……気のせいか。
なんだか疲れてるな、と軽く自嘲のため息をつき、改めて秀太は玄関をくぐる。
分厚い雲の割れ目から覗く、小さな無数の冷たい光が空から地上を睨んでいた。
最高不動の至福の要塞……これにルビを振るのであれば迷わず秀太は“マイルーム”と振るだろう。
要塞に今日も無事生還を果たした戦士は安息の地……ベッドに飛び込み枕に顔を埋めようとした。……そう、した、だ。
「んがっ……本……出しっぱなしだった……ぐふ」
枕の下に潜む伏兵、ハードカバー小説に鼻を撃ち抜かれ、戦士はあえなく撃沈した。