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昨季最終戦で9回に登板した松井投手=2023年10月10日、仙台市宮城野区の楽天モバイルパーク宮城

 プロ野球東北楽天で絶対的な守護神として活躍し、米大リーグのパドレスに移籍した松井裕樹投手(28)が、11日(日本時間12日)のキャンプインを前に手記を寄せた、新たな挑戦への意気込みを示すとともに、10年間支えてくれた東北のファンに感謝の気持ちを伝えた。

プロ初登板した松井投手。1年目は制球難に苦しんだ=2014年4月2日、仙台市宮城野区の楽天Koboスタジアム宮城

挑戦する時、後ろ向きな感情は要らない

 いよいよ米アリゾナ州ピオリアで、ダルビッシュ有投手(宮城・東北高出)と共にキャンプインを迎えます。若手の頃のような、わくわく感を久しぶりに感じています。

 力をどれだけ出せるか。どこまで通用するのか。高い壁を前にし、どう乗り越えようかと考える時の心境です。毎日が刺激的になるだろうと期待しています。

 不安はありません。挑戦する時、後ろ向きな感情は要りません。試合数や食事の面など環境は変化しますが、野球をすることに変わりはありません。

 大事なのは、どれだけ自分をチームにささげられるか、一人一人がピースとなり、集合体として戦えるかです。勝利のために必要な役割をしっかり全うしたいと考えています。その上で、クローザー(抑え)を任せられたら、緊張感ややりがいといった醍醐味(だいごみ)を味わえると想像しています。

 高校卒業後、東北楽天に入団し、10シーズンを過ごしました。思い返すと1年目の2014年、星野仙一監督(故人)に先発の機会をいただいたのに、試合で全くストライクが入らないところから、プロ人生が始まりました。

 手応えをつかんだのは1年目のオフ、米大リーグ、ヤンキースに所属していた田中将大投手(東北楽天)の自主トレーニングに参加した時です。練習メニューや打者への対応、心の持ち方などを教わり、プロで戦えるステージに立てた感覚が得られました。進むべき方向が大筋で見えました。

試合に勝利し、安田悠馬捕手(左)と笑顔を見せる松井投手=2023年4月14日、仙台市宮城野区の楽天モバイルパーク宮城

三振を奪うのは僕の代名詞

 自信を深めて臨んだ15年の春季キャンプで、球団からリリーフ(救援)での起用を伝えられました。戸惑いや消化し切れない思いは正直ありましたが、試合を重ねるたびに成長を感じました。毎日投げる方が僕には合っていたので、今思えば良かったかなと思っています。

 大きく見ると、前半の5年間はうまくいかないことが多かったように思います。階段を一段飛ばしで駆け上がろうとして、逆に転がり落ちたみたいな感じでした。17年はシーズン途中に、左肩のけがで離脱しました。けがは時間がたてば治るのでまだいいのですが、チームが苦しんでいる時に力になれず、沈んでいくのを外から見ているのは本当につらいことでした。

 後半の5年間は、前半に学んだことをしっかり生かし、成績も安定してきました。セーブ数は仲間に取らせてもらうもので、僕の力を評価する数値ではありません。先輩方に「九回を任されるに値する人間になれ」と言われ続け、少しずつその姿に近づけている実感はありました。「松井がやられたら、しょうがない」と思ってもらえるよう努力してきたつもりです。

 三振を奪うのは僕の代名詞だと誇っています。860個を積み重ねられましたが、やはり一つ目は鮮明に覚えています。プロ初登板の14年4月2日のオリックス戦で、糸井嘉男選手(22年現役引退)から148キロ直球で見逃し三振を取りました。テレビで見ていた大打者から、狙い通りのコースに投げて取れたのがとても印象深いです。

 登板した501試合で、常に胸に抱いていたのはどんな状況でも諦めないことです。例えば、1点リードの九回無死二、三塁のピンチで、同点まではオッケーという判断から、内野陣が前進守備を敷かない時も、打者との勝負には絶対負けないという気持ちでいました。相手の勢いに飲み込まれそうになる瞬間をぐっとこらえてきました。

 忘れられない言葉があります。2年目、後藤光尊選手(秋田高出、16年現役引退)から「抑えは、チームの裏方さんやその家族の生活も背負うポジションだよ」と言われました。当時は正直、何を言っているのか理解できませんでしたが、ここ何年かで分かってきました。多くの人の支えがちゃんと見えるようになりました。勝つことで裏方さんたちが喜んでくれることは僕のモチベーションになりました。

史上最年少で通算200セーブを達成し、記念のボードを掲げる松井投手=2023年4月5日、仙台市宮城野区の楽天モバイルパーク宮城

東北・仙台の皆さんに大きく育ててもらった

 今季からチームを率いる今江敏晃監督とは16年から4シーズン共にプレーしました。本当に大好きな先輩の一人なので、一緒にやれたら良かったという思いはあります。選手の上ではなく、前に立つタイプのリーダーです。19年の平石洋介監督(西武ヘッドコーチ)もそうでしたが、練習中に投手陣のところに話をしに来てくれるのは励みになります。選手は皆、今江監督を胴上げしたいと思っているはずです。

 抑えに回る則本昂大投手は投手としての能力が僕よりはるかに高いので、抑えとしての準備の仕方や気持ちの切り替えに慣れてしまえば、心配は要りません。昨年11、12月に一緒に練習した時、伝えたいことは全て伝えました。僕が22、23年と2年連続で最多セーブのタイトルを取ったので、東北楽天として24年も続けてほしいと願っています。

 若手投手陣にこれからのチームを引っ張ってもらいたいと思います。特に楽しみなのは渡辺翔太、荘司康誠、内星龍、早川隆久の4投手。彼らは自分の頭で考えて行動できる賢さがあるので、時間の経過と共に自然にどんどん成長していくと思っています。

 最後にイーグルスファンの皆さんへ。これまで応援していただき、ありがとうございました。

 入団を機に初めて東北に足を踏み入れた時はこれほどまで居心地のいい場所になるとは想像していませんでした。東北、仙台の皆さんが温かく受け入れてくれたおかげです。皆さんに支えられ、大きく育ててもらったと感謝しています。

 勝利の瞬間の歓声、ファンと息を合わせた万歳三唱…。楽天モバイルパーク宮城(仙台市宮城野区)の空間を一緒につくり上げ、共に勝利の喜びを味わえたのは本当に幸せなことでした。一つ一つの光景が僕にとって大事な宝物になりました。

 舞台は変わりますが、これからも僕のことを応援してもらえたら、うれしいです。もしよければ、ぜひ投げる姿を米国に見に来てください。頑張ってきます。
(構成は佐藤理史)

ファン感謝祭でファンの子どもと触れ合う松井投手(左)=2023年11月23日、仙台市宮城野区の楽天モバイルパーク宮城