「満塁のピンチなら…ユウキだ」パドレス・松井裕樹が“9試合連続無失点”の快進撃「WBC辞退→開幕直後はマイナー調整」でも…なぜチームで評価される?
ポストシーズンに向けて山場が続くメジャーリーグ。サンディエゴ・パドレスもその当落線上で厳しい戦いを続けている。そんな中で、ある日本人リリーバーの評価が急上昇中だ。果たして今年31歳になるベテラン左腕のスゴさはどこにあるのだろうか? 《NumberWebレポート全2回の1回目/つづきを読む》
メジャー3年目、日米通算13年目のシーズンを戦うサンディエゴ・パドレスの松井裕樹が、メジャー屈指のブルペン陣の中で確固たる存在感を放っている。 昨季はプレーオフのロースターから外れるという屈辱を味わったが、今季ここまでの進化の物語はまさにその悔しさから始まっていた。
“前途多難”だったシーズンの初め
今季の滑り出しは平坦ではなかった。
2月、WBC侍ジャパンへの合流も見据えて調整を進めていたアリゾナキャンプ中に左内転筋を痛め、負傷者リスト入りを余儀なくされる。メジャー開幕直後から始まった約1カ月に及ぶマイナーでの調整、リハビリ登板を経て、メジャー復帰を果たしたのは5月8日のカージナルス戦で、その後はイニング跨ぎの登板が続くことになる。
5月17日のマリナーズ戦では、2イニング目となった7回にミッチ・ガーバーから空振り三振を奪い、日米通算1000奪三振を達成した。
「全く知らなかった。長くやっているだけなので」
そう本人は謙虚に語ったが、確固たる実績の上に新たな一歩を刻んだ。
メジャーのベンチ入り枠26人のうち投手は13人で、先発5人ローテーションであれば救援枠は8人。その中で、どの球団にも厳然たる「ブルペンの序列」が存在する。
大相撲の番付に例えるならクローザーの100マイル右腕メイソン・ミラーは横綱、セットアッパーの100マイル左腕エイドリアン・モレホンが大関になる。
チーム内では“関脇級”の高評価!?
だが、今季の松井が担う役割、立ち位置は、過去2シーズンとは明らかに一線を画すようになっており、現在では関脇級の評価を受けていると言っていい。
シーズン前半戦を48勝48敗の勝率5割で折り返し、一時はナショナル・リーグのワイルドカード争い7位に沈んでいたパドレスだが、8月29日時点では貯金を「8」まで伸ばし、プレーオフ圏内の3位へと躍進を遂げている。
実はこの反撃劇の立役者となっているのが、8月27日時点でリリーバー防御率3.46(ブルワーズ、ブレーブスに次ぐリーグ3位)、同奪三振数581個(同1位)、同投球回数569回1/3(同2位)を誇るブルペン陣なのだ。
そしてその中でも松井は重要な局面での起用が目立つ。
なぜ、出遅れたはずのシーズンにもかかわらず、チームでこれほどの信頼を勝ち得たのだろうか?
「登板予定がないのに肩を作る風習は本当に無駄」MLBで“9試合連続無失点”パドレス・松井裕樹は何がスゴい? 高度解析で分かったその「納得のワケ」
シーズン前半戦を48勝48敗の勝率5割で折り返し、一時はナショナル・リーグのワイルドカード争い7位に沈んでいたサンディエゴ・パドレス。それでも8月29日時点では貯金を「8」まで伸ばし、プレーオフ圏内の3位へと躍進を遂げている。
実はこの反撃劇の立役者となっているのが、リーグ屈指の安定感を見せているブルペン陣なのだ。
その中でも松井裕樹は、展開を問わず「これ以上点差を広げたくない」という試合中盤の極めて重要な局面(いわゆるハイレバレッジ・シチュエーション)での起用が目立つようになっている。
ここまでの「3勝」はすべて松井の登板をきっかけにチームが逆転や勝ち越しを決めた証であり、ベンチからの信頼度の高さを物語る。
特に圧巻なのはピンチでの強さだ。
パドレスでは「満塁のピンチならユウキ」!?
今季はリリーバーにとって最悪のシチュエーションと言える「満塁」での登板がすでに9度を数え、そのうち「無死満塁」という絶体絶命の局面での登板は3度に及ぶ。しかし、満塁時の被打率は.077、WHIP 0.35、6奪三振と圧倒。パドレスでは「満塁のピンチならユウキ」という方程式はお馴染みとなり、回跨ぎも含めたスクランブル起用に応え続けている。
7月の球宴前には「最近は(走者を残して)途中で代えられているので悔しい」と素直な心情を吐露することもあったが、「素晴らしい仲間がいっぱいなので助けられてばかり。僕も少しでもアウトを多く取れたらいい」と語る。もはや家族と言っても過言ではないブルペン仲間と助け合い、かつ切磋琢磨しながら強固な絆を築いてきた。
8月7日のアストロズ戦では先頭打者に本塁打を許し2回1失点となったものの、球宴明けに見つけたという「試合中のアプローチ」への手応えを再確認。そのアプローチについての説明を求められた松井は一瞬の間を置いて「今はやめておきます」と口を閉ざしたが、それをメジャーで戦い続けていくための確かなものにしようという強い意志が伝わってきた。
松井の評価を決定づけているのは、2点台前半の優れた防御率だけではない。
メジャーの高度解析データ「ベースボールサバント」によれば、8月29日時点で予想被打率(xBA)は.169(100点満点中99点評価)、空振り率(whiff)は35.6%(同98点評価)を記録。勝利貢献度を示すbWARは「1.5」で、守護神メイソン・ミラーの3.1、100マイル左腕エイドリアン・モレホン(1.9)に次ぐブルペン3番目の数字を誇っている。
前2シーズンの数字と比べてわかる“成長”
松井の24年シーズンが0.8、25年シーズンが0.5であったことからも、チームの勝利により貢献できる投手に成長、進化していることが分かる。
この進化を支えるのが、緻密なデータ活用だ。
「(打者の)サンプル数が日本とは違いますから。何が得意で何が苦手かが明確に出るので、入ってくるスライダーが打てない打者ならそれを投げればいいし、フォークの方を打つならスライダーを選択する。そうしたしっかりした数字を頭に入れています」
日本と違うメジャー流の「合理性」も体得
試合前のミーティングに加え、試合中もiPadやポケットに忍ばせた名刺サイズのカードでデータを確認。曲がり球は変化の異なるスライダーとスイーパーを意図的に投げ分けている。
また、「登板予定がなくても肩を作る風習は本当に無駄。こっちは呼ばれてマウンドに行く時にしか電話が来ない」と語る通り、メジャー流の合理的な準備様式も完全に体得した。さらに、身体の大きいメジャーリーガーに負けないよう、試合前後の「準備」と「リカバリー」に誰よりも時間を割く。
「こっちの人は体が強い。でも僕は他の選手より時間を使ってその差を詰めていかないと。彼らがベストじゃない時に僕がベストなら優位に立てる」
毎日、戦える状態で球場入りするためのハードワークを自らに課しているようだ。連投や、複数イニングでの登板で球数が多かった日の試合後は、「100%ではないですけど、明日は登板がない可能性が高いので」と、誰もいないトレーニングルームでもう一汗流し、球場のクラブハウスで食事を済ませてから帰宅する。
ここまで、連投は月に1回程度、3連投はさせないよう、選手たちのコンディションをコーチ、メディカルスタッフたちがしっかり管理していることも大きい。
2ストライクと追い込んでからのメンタルコントロールといった課題に向き合いながらも、プロ13年目、10月で31歳になる松井は今、ルーティンが決まっていた日本時代の守護神像を脱ぎ捨て、タフな中継ぎとして成長を遂げている。