ロシア軍のウクライナ侵攻を受けてロシア市場から資金が激しく流出している。通貨ルーブルは対ドルで史上最安値を付け、ドル建ての主要株価指数であるRTSは前営業日の22日比で一時50%安と暴落した。債券も売られ「トリプル安」が続いている。今後想定される欧米の大規模制裁による経済混乱に警戒が強まっているからだ。株安はアジアや欧州市場にも波及している。

 

24日の外国為替市場ではロシアの通貨ルーブルが急落。対ドルでは一時1ドル=90ルーブル近辺と、2016年1月以来およそ6年ぶりに史上最安値を更新した。ウクライナ侵攻直前の日本時間午前11時には81ルーブル台で推移しており、2時間あまりで9%下落した計算だ。

 

 

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストは「当事国通貨のロシアルーブルが最も売り込まれやすい。他にも制裁の影響が波及しそうなユーロや英ポンドなども軟調になる」と予想する。

 

軍事侵攻で欧米諸国が大規模な対ロ制裁に動くことが確実視され、市場はロシアが国際金融市場から締め出されるシナリオを織り込み始めた。ロシア経済への打撃も意識されれば海外の投資家がロシアから資金を引き揚げ、ルーブルはさらに下落する可能性もある。

「ロシア売り」は通貨にとどまらない。ロシア政府が17年に発行した2047年償還の米ドル建て国債の利回りは24日時点で6%台半ばまで上昇、発行後の最高水準を記録した。1月末時点では4%台半ばで、1カ月弱で2%ほど上昇した計算になる。ロシアルーブル建ての国債も売られ、10年物国債利回りは24日には11%近くまで上昇した。

米欧や日本は対ロシア制裁の一環として国債市場にも踏み込んだ。米財務省はロシアの国債などソブリン債に対し、3月以降に発行する新発債の流通市場での取引を禁止した。現時点では既発債の取引禁止などの措置には至っておらず「安心している部分はある」(国内運用担当者)というが、今後の制裁強化などで既発債の取引まで禁止されれば市場の混乱が増す可能性もある。

国債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率は急騰している。23日には5年物で4.3%と1週間前の倍になった。CDSはプロテクションという権利を売買するデリバティブ(金融派生商品)。プロテクションの買い手は、債券を発行する政府の資金繰りが滞った場合に、売り手から損失相当額の補償を受ける。保証料率の上昇はデフォルトに備える動きが出ていることを示す。

株式にも売りが膨らんだ。モスクワ証券取引所は24日、全市場の取引を一時停止した。株式は取引開始直後から売りが膨らみ、主要株価指数のRTSは一時前営業日比50%安となり、取引時間中としては2016年1月以来の安値水準を付けた。

 

国営石油大手のロスネフチやガス大手ガスプロムは一時約6割下げた。米国が取引制限を課す制裁リストへの追加が検討されている大手銀ズベルバンクも6割安となった。ロシア経済への打撃も懸念され、コンビニエンスストアやスーパーなどを運営する小売りのマグニト、タクシー配車事業などを手がけるヤンデックスが大幅安となるなど、幅広い銘柄に換金売りが膨らんでいる。

市場の混乱を受けロシア中央銀行は24日、金融機関への流動性供給や為替介入などの市場安定策を始めると発表。株式市場での空売りも禁じる。中銀は声明で「市場安定と金融機関の事業継続確保へあらゆる必要な措置をとる」と表明した。

株安は連鎖し、24日の欧州株相場も急落で始まった。ドイツの株価指数DAXは前日比で一時5%下げ、取引時間中としては21年3月以来の安値水準をつけた。フランスのCAC40、スペインIBEX35など他の主要国の指数も一時5%程度下落した。ロシアの自動車大手アフトワズを傘下に持つ仏ルノーは一時13%安と急落した。

ロシアの外貨準備高は1月末時点で6300億ドル(約70兆円)と、クリミア危機直前の13年末と比べて2割超多い水準にある。シティグループ証券の高島修チーフFXストラテジストは「外貨準備の増加などロシアは危機に対する耐性はある程度はできていた。ただ投資家の損失補塡目的の売りが他の新興国などに波及する可能性もあり、しばらく動向に注意が必要だろう」と指摘している。