yahoo!レビューア試写会で観た『龍三と七人の子分たち』のレビューを、
むかし極道、いま非道。上々な北野コメディ」のレビュータイトルで、

北野武監督の最新作『龍三と七人の子分たち』、試写会で鑑賞しました。
1989年の監督デビュー作『その男、凶暴につき』から2003年『座頭市』までは欠かさず観ていましたが、その後はご無沙汰。
なんと10年ぶりに観る監督作品ではありますまいか。
との感慨は他所にして、さて、映画。

元ヤクザの龍三(藤竜也)、ジジイになっても任侠・極道気分は抜けない。
背中にしょってる龍の刺青が消えないのと同じこと。
かつての舎弟のマサ(近藤正臣)とツルんでいる毎日。

ある日、オレオレ詐欺にだまされそうになったのをキッカケに、昔の舎弟たちを集めてヤクザの組を再結成することとなり、いつしか新興の義理も人情も任侠も極道も無関係の非合法活動組織と対決することとなった・・・

北野監督お得意のヤクザ映画に、これまたお得意(だけれどあまり笑えない)コメディ映画を足した作品ですね。

『みんな~やってるか!』や『菊次郎の夏』の過去の北野監督のコメディ映画は、スジがほとんどなくて、コントの連続だったけれど、今回は少々異なる。

一応、スジがある。
いや、かなりスジがある。

龍三ひとり、龍三+マサ、龍三・マザ+寸借詐欺の「はばかりのモキチ(中尾彬)」・・・とどんどん仲間が増えていくあたりは、黒澤明監督『七人の侍』へのオマージュだろう。
仲間が増えて、龍三と六人の仲間(つまり、七人の老ヤクザ)となるあたり、絶対に狙っているはず。
(タイトルとは少々異なっていて、小野寺昭扮する「神風のヤス」は初めは仲間に加わっていないし、兄弟の杯も交わさない)

仲間が増えてからのくだらない活動は、タランティーノ『レザボア・ドッグス』の冒頭を思い出させる。
特に、居酒屋に集まって、親分を決める段のカメラワーク(テーブルの中央にカメラを置き、周囲を囲む7人をぐるりと撮るショット)は、ほとんど同じといっていい。
たぶん、若い観客向けに意識的にやっているのだろう。
でも、わかるかなぁ。

で、龍三たちが行く先々で、京浜連合と名乗る新興の非合法活動組織の一員とぶつかることになる。
この京浜連合が、義理欠く、人情欠く、任侠欠く、ついでに極道も欠くといった輩で、法の抜け穴だけは「赫赫云々(かくかくしかじか)で」なんていう非道なヤツラ。
その手先を演じる下條アトムがなかなかいい味を出している。

ヤクザとヤツラ。
むかし極道、いま非道。

龍三たちが意図する意図しないにかかわらず、義理人情から全面対決になっていくあたりは興味深いし、クライマックスにバス大暴走のオマケもついて、なかなか面白い。

なんだけれど・・・意外と笑いは弾けない。

藤竜也、近藤正臣、中尾彬は台詞回しの滑舌もよくスピーディだけれど、カット尻がやや長い。
監督は、コメディアンとして、ひとつひとつのコントにオチをつけたくなってしまうんでしょうなぁ。
妙にメッセージも出さないキレのいいエンディングだけに、途中途中が非常に残念。

評価はオマケも込みで★3つ半としておきます。

<追記>
ベテラン俳優陣が嬉々として演じているのがよく判ります。
特に、はばかりのモキチの中尾彬は、クライマックスでは○○の役で、活劇中でも、無言で坐っているだけなんですが、実に楽しそう。