旦那の浮気発覚から最悪な気分で過ごす事になった結婚記念日は、更に私を悪夢へといざないました。本来4年目の結婚記念日はレストランで過ごす予定だったけれど、私はとてもそんな気にはなれませんでした。信じてた旦那に裏切られたショックから、もう顔を合わせるのも怖くなっていました。

本当は、旦那が帰ってきて浮気を認めてしまうのが一番怖かったのかも知れません。否定され続けて疑念が晴れるわけでもないけれど、認められて浮気された事実を受け入れなければならないのは、私にとって恐ろしい事だったので・・・。


もう、自分がどうしたいのか・・・分からなくなっていました。



夕方になって、そろそろ旦那が帰ってくると思った私はじっとしていられなくなり、家を飛び出ました。

向った先は・・・あのK喫茶店でした。当時まだユウキの事を意識していたわけでもないのに、あの時の私が何故、よりによってK喫茶店へ向ったのかは今でも分かりません。ただ、他に逃れる場所が無かっただけなのかも知れませんが・・・。


「いらっしゃいませ~・・・あっ!葉月さん!」

「・・・ユウキさん、お久し振りです。」

「お仕事中ですか?」

「ううん、今日は休みなんだけどね。ちょっと気晴らしに。」

「そうですか~。何か嫌な事でもありましたか?(笑)」


ユウキの何気ない問い掛けに、言葉が詰まってしまいました。


「あっ、いやっ、済みません・・・。立ち入った話をするつもりは無かったんで・・・。」

「いえ・・・大丈夫です・・・。」

「本当、済みません・・・。今コーヒーお持ちしますので・・・。」


ユウキは愛想笑いすら浮かべず、済まなそうに私の元から立ち去って行きました。

放心状態でベッドに寝転んでいた私に、旦那から電話が掛かって来ました。

正直、どう接していいか分からなくて、頭の中で色んな想いがぐるぐる回りました。


今、ここで問い詰めてやろうか?

今は普通に接して、帰宅してから問い詰めようか?

何事も無かった事にして忘れてしまおうか?

無視して、このまま家を出て行こうか?


色々考えたけど、私は電話に出ました。

そして、感情のまま言葉を発していました。



「小林研二って誰なの!?」

「え・・・?」

「女なんでしょ!?」

「いや・・・男だけど・・・どうしたの・・・?」

「メールも写メも全部見ちゃったんだよ!もう全部知ってるの!!浮気してたんでしょ!?」

「何の事か分からないんだけど・・・。」

「分からない!?いい加減な事言わないでよ!!」

「それ、友達が俺の携帯を使って女の子とやり取りしてたやつかも・・・。」

「あっそう?じゃあ今からその友達に電話して聞くわ。友達って誰なの?電話帳に入ってるんでしょ?早く教えてよ!」

「プライベートな事だから教えるわけには行かないよ。」

「私に疑われてまで友達のプライベートを守るの!?ばっかじゃないの!?本当はそんな友達なんて始めから存在しないんでしょ?だから言えないだけなんでしょ?」

「いるよ・・・。じゃあ帰ったら教えるから・・・。」



明らかに言葉に詰まっていた旦那は、一方的に電話を切ってしまいました。私はすぐさま旦那の職場に電話をして、本当に出勤しているかどうかを確かめる事にしました。


「○○の妻ですが、主人は今日、出勤の予定だったそうですが・・・来ていますか?」

「あれ?○○さんは昨日から3連休になっている筈なんですけどね・・・。」

「そうですか・・・。」

「お宅へ戻られないのですか!?」

「い、いえ・・・朝に家を出たきり連絡が着かなくなっていたので・・・休日出勤だと私が記憶違いしていたようです。申し訳ありませんでした。」


旦那は、昨日も休みなのを私に隠し、連日こうして小林研二という名前で登録していたあの女性と会っているんだと確信しました。

小林研二からの不自然過ぎるメールに不安を感じた私は、持っていた旦那の携帯を調べる事にしました。


女っ気も無く、真面目で大人しい性格の旦那が浮気だなんて・・・そんな事は考えた事も無かったので、彼の携帯を調べる事で、何の疑いも出て来ず、安堵したい気持ちが大きかったと思います。


私は小林研二からのメールが他に無いか、今にも破裂しそうな心臓を押さえながら、メールの受信履歴を一つずつ遡りました。



「明日のお昼は私が奢るからね。」


「今日は何時までいれそう?遅くまで大丈夫なら、うちでDVD観よう?」


「ごめん!今日のお昼は○○さんと食べる事になっちゃった!」


「おはよ!大好きだよ★」


「おやすみ。ちゅっ★」


「今日も楽しかった!お魚もおいしかったよ。ごちそうさまでした!」


「わかった~!じゃあゴム買っとくね(笑)」


「終わったよ~。あとどのくらいかかりそう?」



小林研二・・・男の名前だけど、それは確実に女性でした。

しかも、肉体関係のある、旦那にとって特別な存在・・・。

私はメールの受信履歴を閉じ、写真のフォルダを見ました。


保存されていた写真は、風景のようなもの、食べ物、そして・・・女性とのツーショット、その女性の裸、その女性と旦那の結合している性器・・・。



息が出来なくなるほど、苦しくなりました。

信じて疑わなかった旦那が、こんな事をしていたなんて・・・。


溢れ出す涙と、とめどなく襲ってくる吐き気で、私はトイレに閉じ篭りました。




もう、死んでしまおうか・・・




そんな事を考えていました。