今日は少し私の話をしよう。
私は昔……
そう10年近く前
当たり前の様に過ぎる毎日の中で
大切な友人と食事をした。
その時の他愛ない話だ。
彼は明るく子供のようで
いつも冗談ばかり話していた。
私とは20歳以上年下で
友人というには少し歳が離れ過ぎていると
思うかもしれない。
その日の夜は
仕事の帰り道
偶然に会い
夕食を共にすることになった。
特に話すこともない私は
先に注文したビールを黙って飲み干した
その瞬間、
私に問いかける。
「ニーチェって好きですか?」
私の頭の中で「はっ?」という
言葉しか出てこなかった。
いつもおちゃらけてる彼の口から
〝ニーチェ〟
決してニーチェが嫌いだった訳じゃない
何冊か読んだこともある。
色々な事が頭を巡り
言葉にならないことに気付いた彼は
私にこう話しかけた。
「僕、ニーチェが好きなんですよ。
大学で心理学選考してたんですよね」
「この文章がたまらなく好きなんですよ」
そういうとカバンの中から
分厚い本を取り出した。
タイトルは
〝超訳 ニーチェの言葉〟
こいつ、こんな分厚い本
いつも持ち歩いているのか?
と、また頭の中で流れる言葉を
口にすることは出来ないまま
彼の話は続いた。
「ここなんですよ」
そう言って本を渡す。
そこにはこう書かれていた。
「いい人が現れるのを
待ち望んでいるのかい?
恋人が欲しいって?
自分を深く愛してくれる人が欲しいって?
それは思い上がりの最たるものじゃないか!
多くの人から好かれる程、
君はいい人間になろうと
努力しているのかい?
自分を愛してくれるのは
たった一人だけでいいって?
その一人は多くの人の中にいるんだぜ。
それなのに、みんなから好かれる様に
ならない自分を
誰が愛してくれるというんだ?
おいおい、わかってんのかな。
君は最初からめちゃくちゃな
注文をしてるんだぜ」
読み終わった後、
何か心が締めつけられるような
感情が溢れてきた。
彼が何故いつもおちゃらけていて
子供のように明るく接しているのか
その答えがこの文章の中にあるように
思えた。
私は、ようやく言葉を口にしていた。
「子供のように明るく冗談を言う
君のことも好きだけど
瞳を輝かせながらニーチェが好きだと言う
君の方がもっと好きだな」
彼は優しく微笑んでいた。
その夜から私たちは友人になった。
そして……
なんてことない当たり前のような夜が
ある特別な夜に変わっていった。
なっ、他愛ない話だっただろ?
〈END〉
【あとがき】
ここまで読んでくださって
ありがとうございます
久しぶりの投稿です
このお話は
ノンフィクションです
どうしても小説風に書いてみたかったんです
昔働いていたところで知り合った
その時代、新入社員の男の子でした。
親子程に離れていたのですが
何か不思議なご縁を感じる子でした。
そんな彼も今は結婚をし
最愛の人を見つけたようです
あれから10年近く経ちますが
2年に一度位、食事をしたり
たまにLINEをしたりと
今でも連絡を取り合う友人の一人です
なかなか時空を超えて
話すことが出来ない人も多い中
まるで昨日会っていたかのように話せる
大切な友人の一人です
そんな大切な友人のことを
私のプチ小説として残しておきたかった
そんな思いで書かせて頂きました
