1.ポプラの綿毛が舞う札幌

 今月はじめ、北海道・札幌を訪ねた。梅雨時のジメジメした本州と異なり、新緑の美しい北の都である。街路樹や牧場にはポプラがよく植えられている。この木は成長が早く、牧場の防風林や農地の境目を表す目印として、明治時代に大量に北海道に導入されたのだった。形が良いので、青空にすくっと立ち並ぶ風景は北の大地の代表的な景観を形作る。

    (北海道大学のポプラ並木:筆者撮影)

 初夏のこの時期、札幌の町にはふわふわしたものが空中に舞っている。これが「ポプラの綿毛」である。春に開花して、6月ごろに綿毛を纏った種子が風に乗って飛散するのである。道路の側溝や芝生、ベンチなどには白く積もるほどにもなり、迷惑に感じる方も多いが、道都を代表する初夏の風物詩となっている。

 

 この時期、札幌は「YOSAKOI ソーラン祭り」一色に染まる。今年は6月5日(水)~9日(日)の5日間にわたって、大通公園を中心に市内各地で開催された。この祭りは1992年、高知の「よさこい祭り」を基に、「ソーラン節」をミックスして誕生した。基本ルールは二つ、①手に鳴子を以って踊ること、②曲にソーラン節のフレーズを入れることである。

   (YOSAKOIソーラン祭り:公式サイトから引用)

 第一回大会は10チーム、1000人の参加、観客はおよそ20万人であったという。それから30年、今年の第33回大会は参加チーム256,参加者25,000人、観客動員は210万人の日本を代表する祭りのひとつにまで成長した。「街は舞台だ」の言葉通り市内の演舞会場にはオリジナリティ溢れる演舞が披露される。その熱量を感じることで、観客も参加者と一体になって、この祭りを楽しむことができるのが醍醐味なのだ。

 

2.札幌時計台のこと

 

 大通公園から札幌駅に向かって進み、通りを一本東に入ると、札幌時計台がビルの谷間に佇んでいる。このブログの読者の皆さんも、かつてここを訪れた思い出がある方が多いであろう。筆者も学生時代にここを訪れた記憶がある。ここが、何と「日本3大がっかり名所」と言われていることをご存知だろうか。実は、筆者も知らなかったのである。先日、ここを訪れた際に、ガイドの方から教えていたただのである。

     (札幌時計台:時計台通信から引用)

 この不名誉な呼称を聞くと、ビルの谷間に埋もれた寂しい時計台の姿が目が浮かぶ。ガイドブックなどには、周辺のビルが映り込まないように配慮した写真が使用されている。そのため、雄大な大地に青空に向かってすくっと立つ姿を想像した旅行者には「がっかり」させられた思いが残ることはやむを得ないとも思われる。しかしながら、このガイドさんから聞いた話は意外なものだった。

 

 ある外国人の方がここを訪れた。この景観を見て「実にすばらしい」と言ったそうである。何となれば、人口3千人にすぎないちっぽけな札幌が、今や200万人を有する大都会に発展した歴史を体現した建物だから。写真を撮影するなら、周囲のビル群が入り込んだ方が良い。内部の展示も、たったの200円で札幌の歩みをしっかりと理解することができる。この建物こそが、町に発展の歴史を見続けたのである。これには、さすがのガイドさんも目から鱗だったという。

 

 明治9年(1876年)、札幌農学校(現 北海道大学)が開校し、時計台は演武場として2年後の明治11年(1878年)、建設された。当初、時計はついていなかったが、黒田清隆開拓長官の指示で明治14年(1881年)に取り付けられた。明治36年(1903年)、北海道大学が札幌駅の北側の現在の位置に移転すると、演武場は当時の札幌区に貸与された。3年後、区画整理に伴い100m南の現在地に移されたのであった。この時計台は北海道開拓の推進役となる人たちの養成機関としての歩みを、しっかり見届けたのであった。

 

 時計台のほかに「日本3大がっかり名所」に不本意ながらも「選出」されたところは、四国・高知県のはりまや橋(高知市)と九州・長崎県のオランダ坂(長崎市)だそうである。前者はすでに川は埋め立てられて欄干のみで風情を感じるのが困難。後者は石畳ではあるが、ただの坂道にすぎない、と。旅行者の批判はなんとも手厳しい。

     (はりまや橋:ウイキペディアから)

 

     (オランダ坂:ウイキペディアから)

 このような批判を鵜呑みにすることなく、旅に出るときは事前にしっかり、その土地の歴史を勉強していこう。そうすれば、想像力を働かせて史跡を見た時には、違った気付きをもらえるに違いない。はりまや橋を竜馬や志士たちが行きかったことや、オランダ人や中国人が異国情緒たっぷりの衣装でオランダ坂を上っていく姿を想像してみよう。せっかくの歴史探訪で「がっかり」したら損です。100年前、300年前にタイムスリップした気持ちでぜひ、「わくわく」しましょう。(完)

 

noteもはじめました。こちらもどうぞご覧ください。
makiryo9|note