Jログ -3ページ目

6月の雨



彼はここのところの雨続きについて、ずいぶんと不満があるようだった。


『まったく、こうも太陽を拝ませてもらえないんじゃ、カビが生えちまうだろうが。』

『台詞がオヤジ臭いって言われないかい?』


僕は彼の芝居がかった言い方にケチをつけてみた。


『そう、もう32だしな。すっかりオヤジだよ。って誰がオヤジやねん。』


僕は答えず、軽くため息をついた。
彼は特に気にする素振りもなく、また不満を語り出した。

『いくら梅雨とはいってもこう雨ばかりじゃなあ。人間には太陽が必要なのに。おまえ、イライラしないのか?雨ならバイクだって乗れないだろう?』

『自然現象だからね。それに雨が降らないと水不足になるかもしれないよ?』

『マジメか。』


僕が言い終わらない内に彼から鋭い言葉が発せられた。


『いや、まあ確かに雨だと困ることは多いね。出勤の時は特に。』

『おまえは確か、傘をあまり持ち歩かないんだっけ。』

『そうだね。傘は手荷物になるから好きじゃない。それに僕は、ああいう棒状のものを持つと振り回したくなるんだ。』


僕がそう言うと、彼は僕の周りをキョロキョロと見回し、今度は首を動かして僕らが座る席の周りを窺った。
昼時を過ぎたファミレスは、混んでいる訳でも空いている訳でもなかったが、店内は他の客の話す声や厨房から聞こえてくる音、通りを行き交う車の音でなかなかに騒々しかった。


『危ない奴だな。雨の日におまえと会うのはよそう。』

『今日は傘を持ってなくてよかった。』

『まったくだ。』


それからしばらくは、彼の斜め向かいに座る若い二人組の女性の服装について、ああだこうだと彼の考察が続いたが、そう何度も後ろを振り返ってジロジロ見る訳にもいかないので、僕は途中から興味をなくしてしまった。
彼もそのことを察したのか、唐突に言った。


『まあ、そんなことはどうでもよくてだな。』

『その割にはずいぶん熱心な語り口だったけど。』

『なんだ、聞いてなかったんじゃないのか?』

『聞くともなしに聞いていた、って感じかな。』

『あんまり変わらないな。ま、それはいいだろう。』


また彼が芝居がかった言い方になってきたなと感じたところで、果たして彼は言った。


『ときにおまえ、後悔はしていないのか?』

『何に?』

『すべてに、さ。』


まったく、いちいち芝居じみている―
と僕は思った。
何だってこんな訳の分からない質問に答えなくちゃいけないんだろう。

彼がこうもったいつけて聞いてくる時は、必ず何かの確信を得ている。
そして、その確信を持って核心を突いてくるのだ。


『分かった。何が聞き出したいのかをまずはっきりさせてくれないか?』

『そうだな。ふむ。昔の女に棄てられた話はもう聞き飽きたしな。』

『それは一度しかしてないはずだけど。』

『そうだったか?』


後悔か― 

と僕は思った。

世の中の多くの人が、「後悔」を何か忌むべきものとして捉えている。
「後悔」は「うじうじしている」、「女々しい」、「潔くない」という意味に置き換えられ、「後悔するくらいなら○○した方がいい」などと言う台詞は、あらゆるシーンでよく聞く言葉だ。

後悔しない方がいいに決まっている。そんなことは誰だって分かっている。ただ僕は思う。

後悔するのはそんなにいけないことなのか?


『おい、深刻な顔して黙りこくるなよ。おまえの回想シーンはオレには見えないんだぞ。』

『いや、別に何か思い出していた訳じゃないんだ。ただ、後悔って何なんだろうと思ってね。』

『お、哲学か?さすが哲学専攻。我思う、後悔とは何ぞや。』


わざわざ僕の大学時代の専攻学科を茶化すような彼の態度に、ほんの少し苛立ちを覚える。


『君は後悔とは縁遠い人種のようだけど。』

『ん?いや、そうでもないぞ。こないだだって焼肉で食べ過ぎて胃もたれが半端なくてさ。やっぱりもう歳だよな。昔はもっとイケたんだがなあ。』

『食べ過ぎで後悔とは、何とも幸せだね。』

『ばかやろう。あの時のオレの胃の悲鳴を知らないからそんなことが言えるんだ。もう二度と肉は食いたくない、ってマジで思ったね。』

『食べてないのかい?』

『一昨日牛丼を食った。でまたこれを大盛りにしてしまったのがよくなかったのか―』

『もういいよ、肉の話は。』


僕は苦笑しつつ彼の話を途中で遮った。


『あるよ、オレにだって。ひどい後悔のひとつやふたつはね。』

『そうか。僕もだ。』


それから僕らは、黙ったまましばらく窓の外を通り過ぎてゆく車を眺めていた。


『後悔なんてするもんじゃないよな。』


紫色のアウディが通り過ぎたところで彼は言った。


『って思うことはよくある。よく言うだろ?「悔いのないように」とかってさ。後悔しない生き方ができるんなら、それに越したことはないとは思うんだ。でも、それは本当に正しいヒトの心の動きなのか?とも思うんだ。』

『正しい心の動き?』

『過去のミスや過ちを振り返って、何がいけなかったか、どうすればよかったのか、って考えることは無駄なことか?そうじゃないよな?そうやって学 んでいくものだろう?個人レベルでもそうだが、人類の歴史においても同じことは言える。先人たちが遺した歴史が、多大な教訓を今の人類に与えてくれるんだ よ。そうやって人間は進歩してきたんだ。』

『何かずいぶん壮大な話になってるね。』

『そうだな、ちょっと行き過ぎた。ま、簡潔に言うとだな、過去を悔い改めずしてこれより先の成長はなし、ってことだ。』

『一度も間違いを犯したことのない者以外はね。』

『そうだ。でも誰だってミスをしでかすもんだろう?大事なことはそこから何を拾うかだ。』


彼がこのように熱弁をふるうことは珍しいことではない。がしかし、ここまでまともな自論を主張することは稀だ。たいていは多少穿った見方が多い。


『今、とても疑問に思ってることがあるんだけど。』

『何だ?』

『君はこんなにまともな人間だったっけ?』


僕もたまにはこうやって茶化すこともある。


『ばかやろう。オレはいつだってまともだよ。まともじゃないのはいつもおまえの方だろうが。』

『そうかな。』

『そうだよ。』


僕は自分のまともじゃない部分について問いただそうと思ったが、以前もこの件では話にならなかったことを思い出し、質問するのを止めた。


『で、だ。何故世間一般では後悔を忌み嫌うのか分かるか?』


僕が常々疑問に思っていたことを彼が口にしたので少し驚いた。


『「うじうじしている」とか「女々しい」とか、とにかく前向きじゃないからかな。』

『そうだな。言葉だけの意味でも、後悔とは、してしまったことを後になって悔やむこと、とある。つまり、もう起こってしまって今さらどうにもならないことについて、ああだこうだとくよくよするのは情けないってことだ。』

『確かに言葉通りに捉えると何もいいことはないね。』

『だから後悔は嫌われる。そして、まだ他にも理由がある。多くの人間は、本質的に自分の負の部分に触れることを嫌う。忌むべき過去や、思い出すの も嫌な失敗をしでかした経験があれば、そこから目を背けたくなるのは当然の心理だろう。だから人は、後悔という自らへの断罪ができないんだ。』

『負の心の動きに対する嫌悪感から忌避する人と、自分の過去と向きう恐怖を隠すために嫌う人と、二通りあるという訳だね。』

『そうだ。過剰に「後悔」について反応する奴のほとんどは後者だろうな。だが、結局人間は後悔する生き物なんだ。』

『一人の例外もなく?』

『そこまでは知らないよ。自分で後悔してることに気付かない奴もいるかもな。』


僕はしばらく考えてから言った。


『実は僕も、後悔が悪だとは思ってなくてね。自分のしたとに責任を持っていたいから、ミスった時なんかは「何が悪かったんだろう」ってよく後悔するんだ。』

『知ってるさ。おまえは自分を戒める傾向が強い。そういう奴が後悔しないなんてことはまずあり得ない。そして理屈っぽいおまえは、後悔から何かを拾おうと足掻く。まあ、足掻きすぎてがんじがらめになってることもあるけどな。』


そう言って彼は笑った。


『そうかもしれない。過去を振り返りすぎなんだ、きっと。』

『それにはオレも同感だがね。までも、学ばない奴よりかは全然マシだけどな。』


そうさらりと言ってのけると、トイレに行くと言って彼は席を立った。


一人なると、僕は窓の外を眺めながら、さっきまでの彼との話を思い返していた。
後悔はしないに越したことはない。でも、もし仮に後悔したとしたら、その先がないとそれはただの愚痴になる。後悔を経験に代える。経験は財産になる。要はバランスだ。過去に囚われ過ぎないバランスが必要なんだ。

過去か ―

僕は自分の手をジッと眺めた。今までどれだけのものをこの手に掴んで、そしてどれだけのものが、するりとこの手からこぼれていってしまったろう。





しばらくして戻ってきた彼は、タバコに火を点けた。僕はビックリして言った。

『タバコはやめたんじゃなかったっけ?』

『いや、うん、まあそうなんだがね・・・。ああそう、もし禁煙してるのに肺ガンになって、だったらもっとタバコ吸っておきゃよかった、って後で後悔したくないだろ?』

『なるほどね。でも、この先もし君に肺ガンが発覚したら、「あのまま止めておけばよかった」って
結局死ぬほど後悔することになると僕は思うけどね。』

『うるせえな。後悔は悪じゃないからいいんだよ。』

『そういうつまらない後悔は悪だ。』

『つまらないだと?生死に関わる後悔だぞ?おまえはもっと、こう、世界中のガン患者の気持ちを考えて―』


彼が大袈裟な身振りで話しているのを遮るように、僕は席を立った。


『さてと。そろそろ僕は行くよ。』

『お、なんだ、もうそんな時間か。』

『彼女に宜しく。』

『おう、じゃあな。』



雨足は弱まっていた。傘を持たない僕は小雨の中を歩き出した。
結局、彼は何を聞きたかったのだろう。それは分からないままだった。

もうすぐ7月だというのに、少し肌寒さを感じ、僕はシャツのボタンを閉じた。
そう、もう7月だ。

東京の夏は短くてつまらないな ―
そんな不満を覚えつつ、僕は雨の坂道を下った。
天気予報では明日も雨だった。





ストームライダー



○uper○ryに全力で子守唄を歌ってもらうという、ありがたいのか迷惑なのかよく分からん夢を見ました。
夢の中でも素晴らしい声でしたけどね。



一昨日は暴風吹き荒れる台風でしたね。


仕事帰りの時間はまさにピークで、雨はたいしたことなかったですが、風がすごい勢いでした。


その日僕は、出勤がギリギリだったため、電車ではなくバイクで出るという暴挙をしでかしたので、困ったことになりました。


まあバイクを置いて電車で帰りゃあいいだけの話なんですけど、あんな荒れ狂う風の中にバイクを置き去りにしたくなくて、終電までの少しの時間、しばし思案に暮れてました。



電車は嫌いだ。


しかもどうせ遅れてるか止まってるかだし、混んでるし。


と思うと、僕の中で『電車帰宅』という選択肢は消えていきました。

気が付けば、どうやったらこの嵐の中をバイクで帰れるか、ということを考えてました。



ふむ。


風は強いが雨はさほどでもない。


要は風の中を切り裂いて走ればいいのだ。


二輪は止まってるより走ってる方が安定性が増すのだ。

うむ。




僕は結論に達し、レインウェアすら持たない軽装でバイクで帰ることにしました。


家まで約30分。


実にスリリングな30分でした。




横っ風にバイクを押されるくらいはどうってことなかったですが、道にいろんなもんが散乱していて、それを避けながら走らねばなりませんでした。


危なかったのは、何か訳の分からんものが飛んでくるってことですね。


まあでも、むかし北海道で無数のトンボをかわしながら走った時に比べれば、楽なミッションではありました。



道の真ん中にバカでかいポリバケツが転がってたのにはちょっと焦りましたが。



ま、そんなこんなでなんとか無事に帰宅に成功したわけであります。



周りの人には無謀だと叱られましたが、僕としては、やっぱりバイクを置き去りにはできないですからね。

ただ、もう嵐の日にバイクに乗るのはゴメンです。





※みなさんはマネしないでください。

7/3 @下北沢LOFT

  


どーも。僕です。



ライブ告知です!!



7/3  @下北沢LOFT 
http://www.shimokitazawa-loft.com/live/page006.html

タイムライン等の詳細はまた後日に。



今年初のLOFTライブ。

というか今年まだ二回目。。。


練習せな!



みなさん、よかったら来てください~パーパー




深夜行




フロントガラスの向こうの信号が、青に変わるのと同時だった。


『オレにはもう、守るものもなければ、欲しいと思えるものもないな。』


そう言う彼の表情は、どこか愁いに満ちているような気がした。


『ほんとにそう言えるかい?確かに、君は地位も名誉もない。金もないし・・・まあ彼女には困ってないようだけど。ああ、でも車は持ってるじゃないか。』


左手だけでハンドルを操作しながら、彼は鼻を鳴らして言った。


『おまえに言われると不思議と腹は立たないな。』


『僕も何一つ持ってはいないからね。』


『持たざる者同士のシンパシーだというのか?』


『違うのかい?』


信号が赤に変わって車は停まった。
夜の横断歩道を渡る犬を目で追いながら彼は言った。


『いや、そうかもしれないな。でもオレは、それなりに真っ当にやってきたつもりなんだぜ。これでもね。なのに得られない物ばかりでさ。』


『それじゃまるで僕が真っ当じゃないみたいじゃないか。』


『違うのか?』


『君に言われると不思議と腹が立つな。』


僕が溜め息交じりにそう言うと、彼はクスクスと笑って言った。


『オレは人を怒らせる才能は持ってるみたいだ。』


信号が青に変わり、また車は動き出した。


『そんなもの、何の役にも立ちゃしないさ。』


僕がそう言うと、彼は今度は声を出して笑った。


『ひどいこと言う奴だね、おまえは。オレの唯一の才能かもしれないんだぜ?』

『そういうのは才能じゃなくて悪徳っていうんだよ。』


『なるほどね。まあ、オレは善人じゃないし、それくらいアクが強い方が面白いよな。』


いったい誰が何を面白がれるのか、僕にはさっぱり分からなかったが、彼は楽しそうだった。


『ところで持ってる持ってないで言えば、おまえバイクにはまだ乗ってるのか?』


『ああ、乗ってるよ。』


唐突な彼の質問は一瞬僕を困惑させたが、すぐに彼の言わんとしていることは分かった。


『確か、バイクに乗ってるといつか死ぬんじゃなかったか?』


『またその話かい?』


それは昔、あるきっかけで僕が高名な霊媒師に見てもらったときに言われたことだった。


『オレとしては、おまえの遺影に何て語りかけりゃいいか考えとかなくちゃいけないだろう?』


彼は依然として楽しそうだった。


『冗談でも言っちゃいけないことってあると思うんだけど。』


『また才能を発揮してしまったか?』


『悪徳だけどね。』


『信じていないのか?その話。』


信じていない訳ではなかった。ただ、すべて信じている訳でもなかった。
占いと同じだ。自分が当たってると思うことだけ信じてしまう。


『よく分からないな。そういうスピリチュアルな世界は、僕の想像を超えているよ。』


実際半信半疑だった僕だが、多くのことを言い当てられ、丸裸にされたような不安感を抱いたのも事実だった。


『だが、バイクに乗ることは止めないんだな?』


『好きなんだ。バイクに乗るのが。それはなかなか止められないな。タバコとは訳が違う。』


『死を恐れてないのか?』

『恐れてないわけないじゃないか。死にたくなんかないよ。』


―なのに何故―とは彼は聞いてはこなかった。
代わりに彼は言った。


『誰だっていつかは死ぬ。そこにはただ、「早いか遅いか」しかない。って誰かが言ってたっけか。』


『よく聞く台詞だね。』


『こんな台詞もあったな。
「死に怯えて生きても、それは生きたとは言えない」
とかね。もっと聞きたいか?』


『そんな格言じみた陰気な言葉ばかり聞いてると、死に取り憑かれそうだな。』

『じゃあこんなのはどうだ?
「生きるということは、自分の主張を世界に押し付けることだ」』


『それはなかなかいいかも。』


『だろう?おまえはおまえを取り巻く世界に対して、「これがオレだ」ということを見せ付けなくちゃいけない。』


『バイクが好きだ、ということを周りに知らしめるためには死すら厭わないと。』


僕がそう言うと、彼はケタケタと笑って言った。


『それは費用対効果が伴わないな。』


車はすでに何度か停車と発進を繰り返していた。彼の運転は滑らかで、停まるときも動き出すときも、まるでストレスがなかった。


『バイクに乗れなくなっても生きていたい、そう思えた頃もあった。でも今はそう感じないんだ。』


後ろに流れて行く景色を見遣りながら僕は言った。


『守るべきものがないからか?』


『そうかもしれない。でもあの感覚は、守るべきもののために自分の何かを犠牲にするとか、そんな感覚じゃなかった。僕がそうしたいと強く思ったんだ。』


僕がそう言った後、しばらく彼は黙っていたが、交差点を右折しながら不意に言った。


『幸福ってのは何かを犠牲にして得るもんじゃないからな。』


『驚いた。君の口からそんな言葉が。』


『オレにだって幸せを語る権利くらいはあるぜ。まとにかく、今のおまえは自分の欲求に忠実に生きている訳だ。それが死を招くかもしれないと知りつつな。』

『死の影に怯えながら生きても、それは生きたことにはならない、からね。』


『オレの格言をパクるなよ。』


彼はやや不満そうだったが、僕はさらに言った。


『君に言えるはずがないだろう、こんな台詞。』


『ま、そりゃそうだ。オレなんて禁煙はするし、栄養のバランスにはうるさいし、死にビビりまくってるからな。』


そう言って彼は笑った。


『命を大事にすることは間違ってないさ。』


外は暗く、景色と呼べるものはほとんど見えなかった。
ふと気が付くと、窓には自分の顔があった。
その目は暗く沈んだようにも、明るく輝いているようにも見えた。

夜の道路は静まり返っていたが、僕らを乗せた車もまた、ただ静かに走り続けていた。
目的地がどこなのかも、僕は知らなかった。




5/23 渋谷LOOP ANNEX






ども。

ミッドナイト告知ですが。



5月23日、LOOP ANNEXにてライブ出演します。

http://www.live-loop.com/schedule/sl/schedule_1205.html



いや~まだ緊張するぜ~。

どーしよ~





みなさん、ぜひぜひ来てみてください。