NBS旬の名歌手シリーズ2024-III
アスミク・グリゴリアン ソプラノ・コンサート
Aプロ:2024年5月15日(水) 19:00
Bプロ:2024年5月17日(金) 19:00
会場:東京文化会館
指揮:カレン・ドゥルガリャン
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

 

Aプロ ロマンティック・アリアの夕べ
【第一部】
アントニン・ドヴォルザーク作曲
―歌劇「ルサルカ」
序曲 
“月に寄せる歌”
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲
―弦楽のためのエレジー「イワン・サマーリンの思い出」 
―歌劇「エフゲニー・オネーギン」
タチアーナの手紙の場 “私は死んでも良いのです”
ポロネーズ 
―歌劇「スペードの女王」
“もうかれこれ真夜中...ああ、悲しみで疲れ切ってしまった”
アルメン・ティグラニアン作曲
―歌劇「アヌッシュ」
“かつて柳の木があった”

【第二部】
ジャコモ・プッチーニ作曲
―歌劇「トゥーランドット」
“氷のような姫君の心も”

―歌劇「マノン・レスコー」
“捨てられて、ひとり寂しく”
間奏曲 
―歌劇「蝶々夫人」
“ある晴れた日に”
―「菊」 
―歌劇「ジャンニ・スキッキ」
“わたしのお父さま”

アンコール

ー歌劇トスカ 歌に生き、恋に生き
 

Bプロ ドラマティック・アリアの夕べ

第一部はAプロと同じ

【第二部】
アラム・ハチャトゥリアン作曲
―「スパルタクス」
スパルタクスとフリーギアのアダージオ 
リヒャルト・シュトラウス作曲
―楽劇「エレクトラ」
クリソテミスのモノローグ “私は座っていることもできないし、飲んでいることもできない”
―楽劇「サロメ」
七つのヴェールの踊り 
サロメのモノローグ “ああ! ヨカナーン、お前の唇に口づけをしたわ”

 

グレゴリアン、ノット東響のサロメで鮮烈な題名役での歌唱で、一躍日本でも知名度が上がったグレゴリアン、ここ数年はザルツブルク音楽祭で毎年のように主役級で出演し幅広いレパートリーで活躍しています。昨年NBSの招聘予定でグレゴリアンの名前があり、即座に2夜共に即決しました。

 

両日共に前半はロシア・東欧もので構成、立ち上がりから慣らしのようなものは一切なく、伸びきった声が素晴らしい。ルサルカの有名な月に寄せる歌も、センチに歌う歌手も多い中、極めてスタイリッシュで格好良い。チャイコフスキーのオネーギンの手紙の歌、この長いアリア、凛々しくかっちり歌い破綻は一切なし、スペードの女王からは、もう真夜中になってしまって、こちらも同様ですが、目の演技が流石。リトアニア出身とのことですが、両親はアルメニア人とのことで、アルメニアのティグラニアンという作曲家のオペラから抒情的な民謡のようなアリアでした(もう少し動的なドラマティックで民族的なもので〆れば良いのに、と思ったりもしましたが・・・)。前半は両日共に同じ印象、グレゴリアンのベース機能の高さを知らしめた歌唱でした。

 

第1夜の後半はプッチーニ、ウィーン国立歌劇場などでトゥーランドットを題名役でカウフマンと共演した公演はFMで聴き、叫びはないマッチョなトゥーランドットが新鮮でしたが、この日はリューのアリア。どうやら役柄で極端に声色などは変えずに歌うスタンスのようで、リューにしてはちょっとマッチョかも(笑)。マノン・レスコーは是非ともグレゴリアンの舞台を観たいと思わせる歌唱、マノン役はドラマティックソプラノで歌われることも多いですが、チャーミングさも必要でグレゴリアンの仁似合うのではないでしょうか。蝶々さんは直前にMETでも歌っていたそうですが、フォルムの良さが際立っていました、マノンと蝶々さんがグレゴリアンには合っていそうです。そしてジャンニ・スキッキの私のお父さん、ザルツブルク音楽祭で三部作で主演していて歌っていましたが、キャラクターのかなり異なる3役を歌う中での私のお父さんだったので良いのでしょうが、メインプログラムの最後としては・・・、アンコールのトスカまで考えた上での選曲だっということなんでしょうが、やはり逆にした方が良かったのではないかと。

 

第2夜の後半はR.シュトラウス、2夜通じてここでのクリソテミスとサロメが圧巻、クリソテミスは春祭でのオークスの圧倒的な歌唱はありましたが、グレゴリアンの強靭で一本通った声と完璧なフォルムでこちらも同じレベルで素晴らしい。サロメはノット東響での歌唱が圧倒的でしたが、やはりグレゴリアンと心技体全てが一致した役処なのでしょう、表情での演技もこの役を完全に手中にしたもの、ゾクゾクしながら聴いていました。このクリソテミスとサロメを聴けただけでこのコンサートの価値がありました。

 

指揮のドゥルガリャンはアルメニアの歌劇場で長く音楽監督などを勤めているとのこと。合わせは職人的で上手い部分もあり、オネーギンのポロネーズなどは如何にもロシア系の音色も聞かれましたし、七つのヴェールの踊りでは面白い解釈があちこちににありましたが、脚が悪いのか終始動きが鈍くステージマナーも如何なものかと。。。東フィルも二軍のようで、主要なポジションはそれなりの人が配されていたようですが、全体として音が薄くこちらも残念でした。それでも間違いなく世界のトップソプラノの一人で現在が最盛期のグレゴリアンのシュトラウス、蝶々さん、マノンを聴けたのは幸せでした、では。