2024年2月3日(土) 開演 6:00pm [ 開場 5:00pm ]
NHKホール

第2004回 定期公演 Aプログラム
指揮 : 井上道義
バス : アレクセイ・ティホミーロフ
男声合唱 : オルフェイ・ドレンガル男声合唱団

 

ヨハン・シュトラウスII世/ポルカ「クラップフェンの森で」作品336
ショスタコーヴィチ/舞台管弦楽のための組曲 第1番

 -「行進曲」「リリック・ワルツ」「小さなポルカ」「ワルツ第2番」
ショスタコーヴィチ/交響曲 第13番 変ロ短調 作品113 「バビ・ヤール」

 

前半と後半の対比が明確で考えられたプログラミング、新日フィルでも後半を深刻な第8番としつつ、前半をジャズ組曲(2番?)としていたプログラムも同様でした。最初はシュトラウス二世がロシアの出稼ぎ中に作曲したポルカ、元々はパブロフスクの森で、というタイトルだったとのこと。郭公の素朴な声が、後半のバビヤールの内容を考えると、牧歌的に楽しむというより、却って戦慄さえ感じました。そして食べるために書いた組曲1番、リリック・ワルツやワルツ2番が有名で現在でも様々なドラマや映画で使われていますね。ノスタルジックで懐古的で嗜虐的で、、少しチンドン屋(差別語?)的な空気もある音楽ですね。

 

後半は第二次世界大戦中、キーウ郊外で実際に起こったユダヤ人大虐殺を扱ったショスタコーヴィチの問題作。諧謔的な歌詞も加えられていて、極めて慎重に、そてい遠まわしに当時のロシア社会、強いては国家体制も批判していると思われます。バスソロのティホミーロフは近年この曲のソロを得意としており、ムーティ、シカゴ響の演奏(音源化もされています)でもソロを勤めていました。力強く朗々たる、しかも品性もあるバス、素晴らしい。ボリスが得意とのことですが、ワーグナーでも是非聞いてみたい歌手です。そしてかつてエリクソンが率いたスウェーデンの男声合唱団オルフェイ・ドレンガル、低音の迫力で押すのではなく、常設のプロ合唱団の強みで声の質も整えられており、ゴリゴリ押すのではなく、腹の底の声で聴かせる合唱がこれまた素晴らしい。井上道義のショスタコーヴィチは決して奇を衒わず、確りと書かれているものを丁寧に表現していくもの。これが4番、8番、11番、12番でよくマッチしていた訳ですが、この13番も相性が非常に良く、N響から深い響きを引き出していました。第1楽章のバビヤールの戦慄の音楽から、第2楽章のユーモア、第3楽章の商店で、第4楽章の恐怖、そして最終楽章の立身出世まで、常にピンと張った緊張感が素晴らしい演奏会でした。最後のチェレスタとベルが不気味、怖い、、、、この曲は頻繁に聴くものではないですね。井上道義最後のN響定期(定期外ではまだ共演あり)、充実したものとなりました、では。