岩藤は猿之助の予定でしたが、報道されていたようにコロナ陽性とのことで急遽巳之助が代演となりました。しかし、巳之助のあのとんがった顔(笑)、声が結構活きた舞台で大いに楽しめました。岩藤はいつも袖で観れる演目でもないし、4日間で総ざらいしたそうですが、巳之助大役果たしていました。それにしても岩藤は久しぶりに観ましたが、岩藤に焦点を当てて簡潔にまとめていたので、途中慌ただしくもなっていたものの、結果としてはテンポ良く芝居が進んだと思います。雀右衛門と笑三郎が良い仕事をしていました。そう言えば出演できていれば猿之助と雀右衛門の共演ってかなり久しぶりでは?

 

そして累ヶ淵、8月花形歌舞伎らしい演目。鶴松の新吉が良い、鶴松は普段は女形で、どうも野暮ったいところがありますが、今日のような役どころの方がその仁に合っているのでは?師匠の七之助、ますます玉三郎に似てきて。しつこさや急に飛び出して足を掴むところ、息を引き留める場面での憎しみを抱えた女の業など流石の演技でした。扇雀の上手さもあり、かなり楽しめた舞台でした。続けて狸が太夫に恋する仇ゆめ。笑いに溢れた舞台であるものの、最後は狸の死、畜生が太夫に恋した悲しい結末ですが、余韻を残した中村屋らしい情と笑いのある良い舞台で気持ち良く帰れました、では。

 

第一部
加賀見山再岩藤(かがみやまごにちのいわふじ)
「三代猿之助四十八撰」屈指の人気作を新たな構成で
 5年前に御家騒動が起きた多賀家。当主の妹・花園姫が病にかかると、御家横領に加担して命を落とした局岩藤の祟りではないかと噂され、再び不穏な空気が漂っています。
 多賀家当主の大領は、正室・梅の方がありながら、愛妾・お柳の方に心奪われています。そんな当主をいさめた忠臣・花房求女は追放され、その帰参を願う家来・鳥居又助は、お柳の方を亡き者にしようとしますが、誤って梅の方を殺害してしまいます。しかし、実はこれらすべては、御家横領を企てる側室・お柳の方と、その兄・弾正が仕組んだ陰謀だったのです…。
 一方、5年前に局岩藤から屈辱を受けて自害した尾上の仇を討ち、主人の名を継いで二代目尾上となった召使いのお初は、尾上の祥月命日の墓参りの帰り道、八丁畷で岩藤を回向しようと念仏を唱え始めます。すると、土手に散らばっていた白骨が寄り集まり、突如、岩藤の亡霊が現れて…。
 江戸時代、加賀藩で起きた御家騒動を題材とした『加賀見山旧錦絵』の後日譚として、名作者・河竹黙阿弥により描かれた本作は、「骨寄せの岩藤」の通称で知られます。昭和48(1973)年には三代目市川猿之助(現・猿翁)が台本に大幅な改訂を加え、早替りや宙乗りなどを駆使した新演出で上演し評判を博すと、上演のたびに改訂が施されてきました。当月は、従来の通し狂言から名場面を抜粋し、亡霊となってまで恨みを晴らそうとする岩藤のエピソードに焦点を当てた「岩藤怪異篇」として上演します。澤瀉屋の家の芸である「三代猿之助四十八撰」屈指の人気作をお楽しみください。

※「澤瀉屋」の「瀉」のつくりは、正しくは“わかんむり”です

第二部
一、真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)
複雑な男女の心理を描く怪談噺
 富本節の師匠・豊志賀は、20歳ほど年の離れた弟子の新吉と恋仲となりますが、顔に腫れ物ができる病にかかり、醜さを増す自分に焦りと不安を募らせます。新吉と若い娘お久の仲を勘ぐっては嫉妬に狂い、豊志賀の病は重くなるばかり。一方、その看病に疲れ果てた新吉は、お久と逃げる決心をしますが、そのとき、燭台の灯りがフッと消え…。
 江戸から明治にかけて活躍し、“落語中興の祖”と称される名人・三遊亭円朝の人情噺を脚色した作品で、長い因果話のなかから、若い男に執着する女の哀れと凄みにあふれる「豊志賀の死」の件を独立させています。死してなお姿を現す豊志賀…。男と女の複雑な心情を描く怪談噺、夏の風物詩にご期待ください。

二、仇ゆめ(あだゆめ)
恋する狸の切ないおとぎ話
 川のほとりにすむ狸は、島原の深雪太夫に恋をしています。その思いをなんとか成就させたいと願う狸は、ある日、太夫が憧れている舞の師匠の姿に化け、秘めてきた恋心を伝えたところ、まさか狸が化けているとは露も知らず、太夫は大喜び。連れ舞をする二人でしたが、そこへ本物の師匠が現れて…。
 恋に落ちた狸の気持ちをユーモラスな踊りで見せる前半から、後半では純情一途な狸の姿をしんみりと、それに応える太夫のやさしさが情緒豊かに描かれます。昭和42(1967)年の初演以来、狸役は十七世から十八世勘三郎へと受け継がれた中村屋ゆかりの舞踊劇で、『狐狸狐狸ばなし』でも知られる劇作家・北條秀司が描いた、おかしくも切ない傑作をお楽しみください。