Music Tomorrow 2021
2021年6月22日(火)開場 6:15pm 開演 7:00pm
東京オペラシティ コンサートホール

 

西村 朗/華開世界~オーケストラのための(2020)[NHK交響楽団委嘱作品・世界初演]
間宮芳生/ピアノ協奏曲 第2番(1970)[第19回尾高賞受賞作品]
細川俊夫/オーケストラのための「渦」(2019)[第68回尾高賞受賞作品]

指揮:杉山洋一

ピアノ:吉川隆弘

 

西村の作品がN響の委嘱で世界初演、西村らしいパレット上で様々な技法が使われているのが素人でも良く判る17分程度作品。道元禅師の言葉からイメージされた作品とのことだが、その意図はそのままではなく作曲家によりかなり自由に解釈されたよう。

 

間宮芳生(みちお)の作品を録音以外で聴いたのは初めてかもしれません。第19回尾高賞受賞作品。初期の代表作、1つのタブロー'65 とは全く別の世界の音楽。内省的なピアノで始まる第1楽章で吉川が見事なピアノを見せたが、曲としては第2楽章以降がかなり迫力もあるもので、最後駆け抜けるようにして終わる部分などはハっとさせられました。繰り返しになりますが、吉川のピアノは明晰で乱暴にならず素晴らしい。

 

そして今回の尾高賞受賞曲、細川俊夫のオーケストラのための渦、呼吸と波の押しては返す動きが大胆なクレッシェンドとデクレッシェンドの交差により表現されている曲で、ホール後方にも金管楽器を配置し、全方位からの音によりそれらを表現していました。水の滴る録音が混ぜられ、最後はその音で終わります。サントリーホール、エッセンフィル、ソチ・冬の国際芸術祭の委嘱、準・メルクルに捧げられています。

 

会場には細川、西村のほか、池辺晋一郎などの姿も。音大関係者も多く来ていたようでしたが、3曲共に聴き応えがあり、ピュアに好奇心が満たされましたし、また聴きたいと思わせるものでありました。8月にFM放送もあるとのこと、タイミング合えば自宅でまた聴こうと思います、では。

 

<聴きどころ>
自由を奪われた私たちが耳を傾けるべき3人の声

 コロナ禍によって昨年中止となったN響「Music Tomorrow」が再び開催されることになった。プログラムは第68回尾高賞受賞作品の細川俊夫《渦》(2019)とNHK交響楽団委嘱作品の西村朗《華開世界》(世界初演)、そして第19回尾高賞受賞作である間宮芳生《ピアノ協奏曲第2番》(1970、NHK委嘱作品)の3作品である。新旧2つの受賞作品が一夜の演奏会で聴けることは稀で、尾高賞に関して細川作品が4回、西村作品が5回、間宮作品が2回と、それぞれ受賞しており、歴代の尾高賞受賞曲の作曲者3人の作品が並ぶ形となった。
 細川俊夫の《渦》は二群のオーケストラを用いた作品で、この編成が陰陽の音宇宙を表象する。Es(ミ♭)の波動が内包する多彩な音世界が堆積、渦巻きながら生成変化していき、最後に静寂に満ちた光へと至る。西村朗の《華開世界》は、老梅の開花が世界全体に参与するという道元禅師の「華開世界起」(『正法眼蔵』)を読み替えた作品である。打楽器、ピアノなどを含む楽器グループが先導しながら流体的に生起しながら世界を色鮮やかに開いていくだろう。そして間宮の《ピアノ協奏曲第2番》はピアノ・ソロによる「希求の声(祈り)」で開始される。求めるためには戦う覚悟が不可欠であり、この内的主題はオーケストラとの格闘を経ながらさまざまに試されていく。当然、演奏には高度な技巧と精神集中が要求されるが、ミラノで活動している2人の日本人、ピアノ・ソロの吉川隆弘と、作曲家であり指揮者として活動する杉山洋一のN響初登壇も大きな話題のひとつである。3人の作曲家は異なる世界を見据えているが、「光、自然世界(悟り)、祈り」という3つのキーワードには、コロナ禍で自由を奪われたわれわれにとって、耳を傾けるべき大切な声が秘められている。