R.ワーグナー「ニーベルングの指環」ハイライト特別演奏会(演奏会形式/字幕付)
~飯守泰次郎 傘寿記念~

2021年5月16日(日)14:00開演(13:00開場)東京文化会館 大ホール(東京・上野)
※18:40終演予定
上演時間:約4時間40分(休憩2回を含む)

出演
飯守泰次郎(桂冠名誉指揮者)Conductor : Taijiro Iimori (Honorary Conductor Laureate)

ブリュンヒルデ:ダニエラ・ケーラー Brünnhilde : Daniela Köhler
ジークフリート:シュテファン・グールド Siegfried : Stephen Gould
アルベリヒ、ヴォータン/さすらい人、グンター:トマス・コニエチュニー Alberich,Wotan/Wanderer,Gunther : Tomasz Konieczny
ハーゲン:妻屋秀和 Hagen : Hidekazu Tsumaya
ミーメ:高橋 淳 Mime : Jun Takahashi
ヴォークリンデ:増田 のり子 Woglinde : Noriko Masuda
ヴェルグンデ:金子 美香 Wellgunde : Mika Kaneko
フロースヒルデ:中島 郁子 Flosshilde : Ikuko Nakajima
男声合唱:ワーグナー特別演奏会合唱団 Male Chorus : Choir for Wagner Special Concert
合唱指揮:藤丸崇浩 Chorusmaster : Takahiro Fujimaru
管弦楽:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 Orchestra : Tokyo City Philharmonic Orchestra

 

 


演奏曲目
R.ワーグナー:「ニーベルングの指環」ハイライト(演奏会形式/字幕付)
R.Wagner : "Der Ring des Nibelungen" Highlights《concert style》

序夜『ラインの黄金』より
序奏~第1場「ヴァイア!ヴァーガ!…」~アルベリヒの黄金強奪 (ラインの乙女たち、アルベリヒ)
第4場 神々のヴァルハラへの入城 (管弦楽)
第1日『ワルキューレ』より
第3幕 第1場 ワルキューレの騎行(管弦楽)
第3幕 第3場 ヴォータンの別れと魔の炎の音楽「さらば、勇敢ですばらしい娘よ!」(ヴォータン)
第2日『ジークフリート』より
第1幕 第3場 ジークフリートの鍛冶の歌
「ホーホー!ホーハイ!鎚よ、丈夫な剣を鍛えろ!…」(ジークフリート、ミーメ)
第2幕 第2場 森のささやき(管弦楽)
第3幕 第2場 「上の方を見るがよい!… 」(さすらい人、ジークフリート)
第3幕 第3場 「太陽に祝福を!光に祝福を!…」(ブリュンヒルデ、ジークフリート)
第3日『神々の黄昏』より
序幕より 夜明けとジークフリートのラインの旅(管弦楽)
第2幕 第3場「ホイホー!…」~第4場「幸いなるかな、ギービヒ家の御曹司!」(ハーゲン、男声合唱)
第2幕 第5場「ここに潜んでいるのはどんな魔物の企みか?…」(ブリュンヒルデ、ハーゲン、グンター)
第3幕 第2場「それから小鳥は何と?…」
~ジークフリートの死と葬送(ジークフリート、ハーゲン、グンター、男声合唱)
第3幕 第3場 ブリュンヒルデの自己犠牲「太い薪を積み上げよ…」(ブリュンヒルデ、ハーゲン)

 

一言では言えないほど、重みのある充実した演奏史に残る演奏会でした。この新型コロナ下で開催された奇跡的とも言える演奏会で深く感銘を受けました。2000年9月のラインの黄金から開始されたシティフィルとのオーケストラル・オペラ。初年度はフフンと鼻持ちならないクラオタ気質でスルーした小生ですが、翌年のワルキューレを聴いて驚き、飯守泰次郎という指揮者を本格的に認識したのでした。そこから培われてきたシティフィルとの絆が見事に結実したもので圧倒的な響きでした。

 

この時期に来日して14日間の隔離期間をこの日のためだけに耐えてくれたグールド、ケーラー、コニエチュニーの3名は圧倒的な歌唱でした。驚いたのは初めて名前を知ったケーラー、厚いオーケストレーションの場面でも軽々と突き抜ける声量、しかも単に太くデカイ声ではなく、芯のある素晴らしいものでした。ジークフリート第3幕の二重唱をこれほど声楽的にも美しく歌える歌手はそうそういません。数々のドラマティックソプラノも叫びの美学に入ってしまいますが、このケーラーは全くそんなことはなく、黄昏のハーゲンのやりとりも緊張感があり、最後の自己犠牲もオケを突き抜ける歌声に痺れました。コニエチュニー、ウィーンでヴォータン、アアルベリヒを歌わせればこの人という存在になっていますが、欧州でも東京春祭でもアルベリヒでまずは評判をとった人。今日は3役の歌い分けも見事ながら、父性的な野太い声ではなく、絞り上げた圧倒的な芯のある声で圧倒してくれました。そしてグールド、新国でもおなじみの21世紀最初の四半世紀を代表するヘルゲンテノール、ジークフリート冒頭は若干抑え気味でしたが、やはりブリュンヒルデとの二重唱から圧倒的な歌唱に。妻屋のハーゲンは大いに健闘、ミーメの高橋は当たり役で流石の歌唱で出番が短すぎる?ラインの乙女の3名も実力者が揃いました。

 

飯守はここ数年足が悪く歩きはペンギン歩きになってしまいますが、指揮台での指揮振りは昔のまま、曲終わりなどで少し座りますが、この長大な演奏会をほぼ立ちっぱなしでの指揮でした。ラインの黄金は最初はややオケの精度に難がありましたが、ヴァルハラの入場からアンサンブルも整い、芯のある熱量のある音に変わりました。そしてワルキューレの騎行、飯守独自のアップのボーイングで跳ね上がるような音、これこれ、他の指揮者でここまでやってくれる指揮者はいません。コニエチュニーの立派なヴォータンの歌唱に飯守の立体的で懐のある音楽が堪らない、身体がジワジワとしてきました。ジーフリートは音楽自体はもっと頂点を作っても良いかと思われるところがいくつかありましたが、細部まで確りと聞こえる音楽作りでヒューマニックとさえ言えるでしょう。そして圧倒的な神々の黄昏、ケーラー、グールドのこれ以上臨みようのない歌唱と熱量とうねりがあるワーグナー、これぞ醍醐味と言えるでしょう。スルスルと時間が経過していき、そんなに早く進まないでとずっと思っていました。4月のムーティのマクベスも大変な演奏でしたが、翌月にまたこのような演奏が聴けて存外の歓びです。

 

拍手が鳴りやまない中、80歳を祝うハッピーバースデイの音楽、とって付けたものではなく、会場一体となって飯守翁の傘寿とこの演奏会の大成功を祝ったのでした。そしてオケが弾いた後も拍手は鳴りやまず飯守翁が呼び出されます。神々の黄昏の最後の音から20分以上は経過していたのではないでしょうか?ご本人が自身のワーグナー演奏の総決算と位置付けていた演奏会でしたが、総決算の名に恥じない素晴らしい演奏でありました。映像収録されていたようですが、音源の発売など期待しています、では。

 


主催
一般社団法人東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
協賛
株式会社森ビル
後援
日本ワーグナー協会
ドイツ連邦共和国大使館
助成
文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会
公益財団法人アフィニス文化財団 
公益財団法人朝日新聞文化財団
公益財団法人三菱UFJ信託芸術文化財団