2021年3月14日(日)、20日(土)

指揮者 飯守泰次郎 → 大野和士

ジークムント:  ダニエル・キルヒ     →  (第1幕)村上敏明、(第2幕)秋谷直之

フンディング:  アイン・アンガー       →  長谷川 顯

ヴォータン:  エギルス・シリンス       →  ミヒャエル・クプファー=ラデツキー

ジークリンデ:  エリザベート・ストリッド →  小林厚子

ブリュンヒルデ: イレーネ・テオリン    →  池田香織

 

上記変更などありながら上演に漕ぎ着けたワルキューレ、先ずは新国のその努力に敬意を表したいと思います。飯守翁から大野音楽監督に指揮者が変更となりましたが、オケ編成に限界がある中ではこの変更は吉と出たようです。大野はシャトレ座でヘンツェのオペラ上演でオケが急にストに入り、公演中止しかないという場面で、ピアノとパーカッションに編曲、見事に上演し名を上げたことがありますし、危機に頼りになる指揮者なのでしょう。

 

今回は中小歌劇場を想定したアッバス版(相当古い版だそう)を使用、弦は16型(16-16-12-12-8)を12型(12-10-8-6-5)へ、ワーグナーチューバはなし、ホルン8→4(但しこの日は5本だった)、木管は4管を2管へ、ピッコロ、コール・アングレ、バス・クラリネットは2番が持ち替え対応、トランペットは4から2、但し重要なバス・トランペット別途そのまま、トロンボーンは4から3、チューバ1というな編成で、随時可能な範囲で音を追加していったようです。少し舞台を上げていたように見えましたが、流石に弦の重量感はありませんが、恐れていた薄い音には全くならず、この日はTpのしくじりが多かった以外は、やや粗いながらも熱量がありオケについては(期待が低かった分だけ?)満足度は高くなりました。特に第2幕以降が横の流れも良くなって、一番マズイリズムばかりが強調されるワルキューレではなく好感。

 

今日は女声が見事、藤村実穂子のフリッカは当初キャスト通りで鉄板、メゾの圧で押すフリッカはありますが、これだけ真正面からの歌唱でこの説得力、ブランケーネと並んで藤村の十八番、第2幕の前半が大変短く感じました。池田香織のブリュンヒルデ、アンサンブルメンバーからのし上ってきた実力は大したもの、テオリンの叫びの美学も良いですが、池田の充実のブリュンヒルデ第2幕冒頭、第3幕の歌唱は大いに聞き入りました。但し、第2幕のヴォータンとの長いやりとりは、悲嘆・戸惑いを出したかったのでしょうが、やや弱い歌唱になり過ぎていたのでは?ここは神経質になり過ぎてはいけないところかと。そしてジークリンデの小林厚子、これまで聴いたことがなかったのですが、この歌唱が素晴らしい。ジークリンデはワルキューレでは拍手を受けやすい役ではありますが、声量、表現共に素晴らしい。いやはや、女性主役3人については世界レベルと言って全く問題ないでしょう。

 

男声については、ラデツキーのヴァータン、背丈があり見目もヴォータンらしく知的でスタイリッシュなものでした。ホッター型のヴォータンが苦手な私としては極めて好感を持ちました。過去舞台で観たヴォータンではジェームス・ジョンソン×、タイトゥス×、グリムスレイ△、ラジライネン△(クルヴェナールは◎)、ジェームス・モリス〇(とにかく恰好良い!晩年で声量がイマイチ)、シュツゥルックマン◎(総合点で素晴らしい)、コニエツニー〇(声は良いが表現が、、、)、マリンスキーと二期会のヴォータンは残念ながら失念してしまいました(結論は×)・・・・・、のところで言うと〇、もう少し声量があれば◎に近くなる位のレベル。それにしても、1月の関西フィルの特別演奏会のために1月初に良く来日してくれていたものです、感謝。フンディンクの長谷川、ワーグナーの諸役ではこの役が一番合っていると思います。音程のふらつきもこの役であれば粗野でしかし臆病者としての役作り?と考えれば受け入れられるかと。急な代役であった第1幕の村上、演技がじたばたし過ぎ、冬の嵐の前後で崩れかける、ノーツゥンクを抜く前後や最終場面のキメなど声が枯れ、変な意味でハラハラ。。。。。第2幕の秋谷、初日は諸氏が好意的な書き方だったので期待していたのですが、村上以上に酷い、、、、村上のようにイタオペっぽくは歌わないものの、フォルムが全くなっていない。昨年急逝した二塚直紀がいれば、問題なくジークムントに抜擢されていたのに、、、その死が今になっても残念でなりません。そう言えば、もう一人の日本のワーグナーテノール竹田昌弘は最近どうしているのかしらむ?

 

演出はゲッツ・フリードリヒのフィンランド国立歌劇場のレンタル、現代においてはオーソドックな演出とも言えるものですが、最終場面の炎に包まれるところは装置も大型ではないものの、効果を上げていたと思います(新国でかなり試行錯誤して初演時からより良い物にしたとのこと)。

 

今日は4階席のR2列(先頭列)で横は空席で条件としてはなかなか、女声3人、ラデツキー、大野の活躍が光っており、第1幕の小林厚子、第2幕前半の藤村とラデツキー、第3幕は満足度はこの非常時を考えればかなりあったと言えるでしょう。3月20日(土)は1階席で観る予定です、ジークムントがもう少し立ち直ってくれていれば、、、、では。