日時:2021年1月17日[日]15:00
会場:コンサートホール

鈴木雅明 指揮
バッハ・コレギウム・ジャパン
メンデルスゾーン《エリアス》

 

鈴木雅明(指揮)
中江早希(ソプラノ)
清水華澄(アルト)
西村 悟(テノール)
加耒 徹(バス)
バッハ・コレギウム・ジャパン(合唱&管弦楽)

 

[料金](全席指定・税込)
S:¥9,000 A:¥7,000 B:¥5,000 C:¥4,000

 

近年稀に見る名演でした。メンデルスゾーンの最高傑作とされる(実際にそうだと思います)エリアスを鈴木雅明がBCJと上演しました。海外では演奏していたようですが、日本では初めての演奏だということです。

 

マタイを蘇演させたメンデルスゾーン、福音史家の部分の朗誦やコラールを殆どなくし、独唱者の台詞(レチタティーボ)とアリアで主軸に構成し、音楽そのものと相俟って非常に劇性の高いオラトリオとなっています。序曲から気合の入ったもので、この大オラトリオの世界に聴衆を導きます。英国での初演ではオケは125名、合唱271人だったそうですが、本日も画像の通りかなりの規模の編成ですが、音楽構成作り目配りが行き届いており、バランスも含めて素晴らしい演奏となりました。

 

海外からのソリストは来日ができなくなりましたが、この日は日本人ソリストが目覚ましい活躍でした。特にバス・バリトンの加耒の歌唱は感動的なものでした。普通エリアス役はかつてはテオ・アダム、最近であればヘルなど深い声のバスが受け持つことが多いですが、今回の加耒は実質的にはバリトンの声質で人間エリアス、等身大の姿が表現されていたと思います。明るめの声で聖人としての輝き、キャラクターも表していたように思います。男前の人なので、変な軽いコンサートも声が掛かると思いますが、是非正攻法で進んで欲しいと思います。

 

リナルドでも活躍した中江の輝かしい声、清水のメゾに近い声での真っ直ぐに伸びる声、西村のカンタービレは今回のエリアスでは対比という意味でも効果的でありました。そして何か所かある重唱ですが、BCJのメンバーが担当しましたが、これが美しいアンサンブルでした。

 

本日は寺神戸氏がコンサートマスターでしたが、オケも上手い。敢えて言えば、さらっと流れることもなきにしもあらすのBCJオケですが、今日は渾身の演奏だったのではないでしょうか。中国に赴任していたので、多くを聴くことはできていませんが、モーツァルトのハ短調ミサ以来と並ぶ名演だったと思います(ディスクを聴く限りは、ミサソレムニスを是非生で聴きたかったとの想いがあります)。熱いものを引き摺りながら帰途につきましたが、改めて傑出した演奏であったと感じた次第です。では。

 

<鈴井雅明談>

華麗で劇的なメンデルスゾーンの最高傑作

これまでメンデルスゾーンが編曲したJ.S.バッハのカンタータや、メンデルスゾーンの合唱曲は時々演奏してきましたが、大曲は2012年に東京オペラシティで演奏した《パウルス》が初めてでした。
メンデルスゾーンは生誕200年(2009年)などをきっかけにヨーロッパでも再評価されてきていますが、ワーグナーなどによる迫害的態度が20世紀以降になっても長く尾を引いていて、彼の音楽を正しく再評価してほしいという気持ちが私の中に強くありました。なかでも《パウルス》と《エリアス》は名曲中の名曲ですので、この2曲は東京オペラシティで取り上げたかったのです。《エリアス》は2018年にライプツィヒのバッハ音楽祭でBCJと演奏し、私自身はデンマーク、スペイン、スウェーデン、さらに昨年はエイジ・オブ・エンライトメント管でも指揮しました。
メンデルスゾーンの祖父は、ヨーロッパで活躍するため家族にユダヤ教からの改宗を勧め、フェリックスはルター派キリスト教徒になったのですが、26歳の時にまず《パウルス》を作曲したことは、自身がルター派の人間であることを公言したものである気がします。またバッハの伝統を受け継ぐ者としても。対して10年後、亡くなる前年に書かれた《エリアス》は旧約聖書の重要な予言者でユダヤ教徒にとってのヒーロー。その人物を題材にすることは、自分自身のルーツも含めた、より総合的な観点から書かれたものだと思います。
《エリアス》の音楽は歌だけでなくオーケストラもより華麗で変化に富み、とてもチャレンジングで技術的にも難しい、表現の多様性もある素晴らしいもので、ベートーヴェンの《ミサ・ソレムニス》などに匹敵する重要な作品です。冒頭からエリアスの独唱と干ばつに陥っているユダヤの民たちの悲愴な叫びに始まり、オーケストラの序曲も劇的ですし、それに続く合唱も見事な対位法、ソリスト4人にもそれぞれ聴きどころがあります。これが古楽器で演奏されることには大きな意味があって、特に19世紀の管楽器はまだまだ使われていないので、その意味でも非常に楽しみです。

鈴木雅明(談)