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2015年2月28日(土)午後3時開演
神奈川県立音楽堂 開館60周年記念特別企画!

音楽堂バロック・オペラ ヴィヴァルディ 「メッセニアの神託」全3幕
ファビオ・ビオンディによるウィーン版(1742年)の再構成版 【日本初演】

出演
音楽監督・ヴァイオリン:ファビオ・ビオンディ
演出:彌勒 忠史
出演:マグヌス・スタヴラン(テノール)、
   マリアンヌ・キーランド、ヴィヴィカ・ジュノー、
   マリーナ・デ・リソ、ユリア・レージネヴァ、
フランツィスカ・ゴッドヴァルト、マルティナ・べッリ
    (以上メゾゾプラノ)
  ※当初予定のクサヴィエール・サバタはマルティナ・ベッリに変更になりました。
演奏:エウローパ・ガランテ

スタッフ:松岡泉(美術)、萩野緑(衣装)、稲葉直人(照明)、
篠田薫(ヘア・メイク)、家田淳(演出助手)
     幸泉浩司(舞台監督)、船引悦雄(プロダクション・マネージャー)

以前から楽しみにしていて県民音楽堂でのバロックオペラシリーズ。
今回は何とヴィヴァルディのメッセニアの神託!
ウィーン失意の内に客死したヴィヴァルディの最後のオペラ。
パスティッチョ(パイ包み)、つまり自作や他の作曲家の音楽を用いて
繋ぎ合わせたものですが、自身の過去の作品およびジェミニアーノ・
ジャコメッリの<<メロペ>>を下敷きにしています。

台本も上手くできていて、スカルラッティ、ブロスキなど何人も
手がけている作品です。確かに物語として進行がドラマティックでもあり
非常に面白い作品です。

貼ったリンクで聴いて頂くとして、劇性と抒情性がバランスした聴き応え十分の作品で
全3幕、各50~60分ほどの長さで時間的にも◎。
登場人物が性格を異にするアリア(ダ・カーポアリア A-B-A形式)で繋いでいくのですが、
権力欲、情愛、不審、純真、裏切りなどドロドロも盛りだくさん。

先ずはビオンディ、エウロペ・ガランテの演奏が何よりも素晴らしい。
数年前の初演から各地で演奏しているので、演奏そのものは堂に入ったもの。
チャーミングなチェンバロ、活き活きとした躍動感、劇性に魅了されました。
今回は座席が9列目だったので歌唱、演奏共にバランス最高でした。

主役はエピーティデのヴィヴィカ・ジュノー、一聴するとクセのある声なのですが、
完璧なテクニックと多彩な表現でどんどの弾きこまれます。
ヘアスタイルも格好良いですね、黒豹のようなイメージ。
ビシビシ歌ってくれるので気持ち良い!!

歌としては一番受けやすい、トラシメーデのユリア・シージネヴァ、
唯一のソプラノでロシア出身、丸顔で可愛らしい人。
それにしてもピュアな声でこちらも完璧なテクニック。
アドレナリン出まくりであります。

他の歌手も素晴らしい、こんなレベルで日本でヴィヴァルディのオペラを聴けるとは!!

メロペ、女王役はマリアンヌ・キーランド、威厳のある声で演技力も確か。
反逆者で唯一の男性のポリフォンテ役はマグヌス・ステヴラン。
この人はオスロのあの血のポッペアの戴冠にも出演していました。
ちょっといってしまった役が得意(笑)の人で今回の嫌らしい役をアク強く演じていました。
これが良いんです。

リチスコのフランツィスカ・ゴットヴァルト、深い声でバッハなども得意だそうですが、
響く声でこちらも素晴らしいテクニック、表現力が豊か!
エルミーラのアリーナ・デ・リソも性格表現が上手く演技も秀逸。
アナッサンドロ、この暗い裏切り、しかし物語を回していく役どころは
マルティナ・ベッリが演じましたが、見た目がモデルのようで
鋭い表情、深い声でこれまら実力者。

そして演出は弥勒氏、能舞台をイメージしたシンプルな構成でしたが、
リハが2日しかない中で、現実的な選択だったのでしょうが、
シンプルな中にも表情付けが上手く、不足感は全くなく素晴らしい。
もう少し映像などで工夫があっても良かったのかもしれませんが、
見事にバランスしていたのは称賛して良いでしょう。

これからの人生でこの作品を生で観る機会はないでしょうが、
いつまでも記憶に残る見事な上演でありました。
全くもって素晴らしい、絶賛して良い公演でした。

帰りは紅葉坂を下りて桜木町駅へ。
青汁を一杯引っ掛けて東京へ向かいました。
では。








21世紀のヨコハマに蘇る、ヴィヴァルディの幻のオペラ

                             那須田務(音楽評論)

 ファビオ・ビオンディとエウローパ・ガランテが2006年に音楽堂で本邦初演した《バヤゼット》は、私たちにヴィヴァルディのオペラの醍醐味を教えてくれた。そのビオンディが、再びやってくる。1738年(異説あり)にヴェネツィアで初演されたパスティッチョ・オペラ《メッセニアの神託》を携えて。ヴィヴァルディがウィーンでの再演を願いつつも、数奇な運命に翻弄され、貧困のうちに客死、その数か月後にケルントナートーア劇場で上演されたというエピソードがある。パスティッチョとは自作他作の楽曲を寄せ集めた作品のこと。本作はジャコメッリの《メローペ》を下地に、ジャコメッリやヴィヴァルディらの曲で構成される、王国乗っ取りの謀略と敵討ちと愛の人間ドラマである。楽譜が失われているので「幻のオペラ」とされてきたが、ビオンディは台本をもとに見事に復元してみせた。2年前、ウィーンでのビオンディ再構成版上演以来、何度か上演されてきたが、今回は演出付きとしては「世界初」になるという。

演出は、カウンターテナー歌手で演出家の彌勒忠史。これまで数々のバロック・オペラの演出で、時空を超えた驚きの舞台を生み出してきた。彌勒さんいわく、「『メッセニア』は当時のヒット曲がちりばめられた最高のエンターテインメント」。欧州の一流歌手たちによるアリアも聴き逃せない。ヴィヴァルディの幻のオペラが、ビオンディや彌勒らによって21世紀のヨコハマに蘇る。末永く語り継がれる、歴史的な公演となることだろう。



<ものがたり>

【第1幕】

メローペが反逆者ポリフォンテと婚約してからちょうど10年後。成長したエピーティデは、父の王国を奪還するため、「クレオン」という偽名でメッセニアへ帰還。おりしも、メッセニアのヘラクレス神殿では、王国を恐怖に陥れてきたイノシシからの救いを求め、人々が祈っている。神殿から出てきたポリフォンテは、トラシメーデに神託を読み上げさせる。「メッセニアは二匹の怪物から解放されるであろう。勇敢な行為と怒りにより、その怪物は殺されるであろう。そしてその勝者は王家の血を引く捕われ人と結婚するであろう」。

ポリフォンテはエトリアに逃れたエピーティデと交換しようと、王女エルミーラを誘拐し人質としていた。エルミーラを取り戻したいリチスコは、ポリフォンテに、エピーティデはすでに死んだと告げる。

ポリフォンテは「神々は、もし見知らぬ者がイノシシを仕留めたら、その者にお前を与えると約束した」とエルミーラに告げる。しかし彼女はエピーティデが忘れられない。

メローペは、前王に反逆した真犯人を突き止めようと、トラシメーデにアナッサンドロを追跡させ、またポリフォンテとの結婚に呪いがふりかかるよう祈る。一方ポリフォンテはアナッサンドロを隠れ家から呼び出し、メローペを反逆者として告発するよう指示。

そんな中、「クレオン」を名乗るエピーティデはイノシシとの戦いへと出発する。

【第2幕】

イノシシをみごと仕留めて帰還した「クレオン」は、メローペの右手にキスをし、死に瀕したエピーティデからそうするように言われた、と伝える。しかしメローペはその話を疑い、息子を殺したのはお前だと非難する。

ポリフォンテがイノシシ討伐の褒美とした花嫁が、実は最愛のエルミーラだと知ったエピーティデは歓喜し、エルミーラもエピーティデ死亡説が謀略だと知る。二人は再会するが、エピーティデの正体を隠し続けようと申し合わせる。

メローペの尋問を受けたアナッサンドロが、虐殺を命じた真犯人を公けの裁判で明らかにすると言うので、メッセニアの人々が召集される。しかしアナッサンドロは、メローペが殺人を扇動したと告発したため、逆にメローペが窮地に立たされる。一方、アナッサンドロから「クレオン」がエピーティデに違いないと聞いたポリフォンテは激怒。

【第3幕】

ポリフォンテは「クレオン」の正体をエルミーラに伝え、「殺人犯」メローペがエピーティデを殺さないよう、このことを彼女には言うなと口止めする一方、アナッサンドロの口を封じようと彼の処刑を命じる。主人に裏切られたと知ったアナッサンドロは、真実をリチスコに明かす。リチスコはアナッサンドロを解放、秘密裏に宮殿へと連れて行く。

メローペはポリフォンテから、「クレオン」こそエピーティデを殺した犯人、という手紙を受け取る。復讐心を掻き立てられたメローペは、「クレオン」を殺すようトラシメーデに命じる。「クレオン」は、メローペの部屋に呼ばれ、もうすぐお前は殺されるだろうと脅される。彼は「我こそがあなたの実の息子」と言っても信じてもらえず、そばにいたエルミーラも恋人の秘密を守ろうと知らぬふりをするので、絶望し、部屋を出ていく。しかし、残されたメローペはエルミーラと話すうち真実に気づく。そこに入ってきたポリフォンテに、エピーティデの命乞いをするが、聞き入れられず、メローペは自分も死ぬ運命と知り、絶望する。

オペラの最後、舞台の一部はカーテンで仕切られている。ポリフォンテはメローペに、このカーテンの裏にはエピーティデの遺体があり、お前もその遺体に鎖で繋がれて死ぬのだと告げる。ポリフォンテが勝ち誇ったようにカーテンを引くと、そこにいたのは生きているエピーティデだった。アナッサンドロからエピーティデ殺害の企てを知らされたリチスコが、トラシメーデを止めたのだった。

こうして王権を奪回したエピーティデはポリフォンテを処刑し、アナッサンドロを国外へ追放。そして、母親と花嫁と共に、神託の成就を祝うのだった