2015年2月8日、14日

歌舞伎座
松竹創業120周年
二月大歌舞伎

昼の部

一、吉例寿曽我(きちれいことぶきそが)

鶴ヶ岡石段の場
大磯曲輪外の場

近江小藤太 又五郎
八幡三郎 錦之助
化粧坂少将 梅 枝
曽我五郎 歌 昇
曽我十郎 萬太郎
朝比奈三郎 巳之助
喜瀬川亀鶴 児太郎
秦野四郎国郷 国 生
茶道珍斎 橘三郎
大磯の虎 芝 雀
工藤祐経 歌 六

二、彦山権現誓助剱(ひこさんごんげんちかいのすけだち)

毛谷村

毛谷村六助 菊五郎
お園 時 蔵
微塵弾正実は京極内匠 團 蔵
お幸 東 蔵
杣斧右衛門 左團次

三、積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)

関守関兵衛実は大伴黒主 幸四郎
小野小町姫/傾城墨染実は小町桜の精 菊之助
良峯少将宗貞 錦之助

夜の部

一、一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)

陣門
組打

熊谷次郎直実 吉右衛門
熊谷小次郎直家/無官太夫敦盛 菊之助
玉織姫 芝 雀

二、神田祭(かんだまつり)

鳶頭 菊五郎
芸者 時 蔵
同 芝 雀
同 高麗蔵
同 梅 枝
同 児太郎

三、水天宮利生深川(すいてんぐうめぐみのふかがわ)

筆屋幸兵衛
浄瑠璃「風狂川辺の芽柳」

   
船津幸兵衛 幸四郎
萩原妻おむら 魁 春
車夫三五郎 錦之助
娘お雪 児太郎
娘お霜 金太郎
差配人与兵衛 由次郎
代言人茂栗安蔵 権十郎
巡査民尾保守 友右衛門
金貸金兵衛 彦三郎

2月歌舞伎座はこれまでに比べるとやや地味な印象ではありますが、
滋味深い演目が並びました。

昼の部はお馴染み曽我狂言、吉例寿曽我です。
藤原定家の巻物を巡り争いがある訳ですが、
石段での立ち回りが見もの、場面転換は「がんどう返し」もあり
舞台的な見応えもあります。
後段の大磯曲輪外の場での工藤左衛門祐経が引き連れる勢揃いも見所でした。

毛谷村は純な六助を菊五郎が勤めます。
弾正の憎々しさを團蔵が品を以って演じました。
また、時蔵のお園が秀逸、嫋やかさで且つ洒落ていて素敵でした。
斧右衛門の左團次、ユニークにやれるでしょうが、
自然体で演じてたのが良いですね。

そして積恋雪関扉、幸四郎が関守関兵衛を演じます。
この演目は昨年彌十郎の自主公演やごの会で、彌十郎と新悟の組み合わせで観ました。
こちらもフレッシュで慈愛に満ちた演技で良かったのですが、
幸四郎と菊之助、うーん、唸らさせられました。
荒事、舞踊、情愛表現、当て振りや衣装のぶっ返りもあり、
観ている以上に大変な大役だそうです(幸四郎談)。
形が決まっていてこれぞ歌舞伎、というものを見せて頂きました。
感嘆。

そして日を変えて、夜の部ですが、所用で冒頭の一谷嫩軍記は観れず。
神田祭からです。
江戸時代は一年交代で将門の神田祭と、日枝神社の山王祭が交互に行われてて、
庶民の大イベントだったそうですね。
鳶頭への芸者二人の口説きが見どころ。
時蔵と芝雀という珍しいコンビで菊五郎演じる鳶頭の口説きでありました。
最後は鯰の山車に鳶頭が乗り、見得をきって幕となりました。

最後は筆屋幸兵衛、これも幸四郎が演じます。
2月は幸四郎昼夜と大役が続きますね。
文明開化で江戸時代が終わり、四民平等の名目の前で急に市井に放り出された
貧乏士族の家族、妻は急に亡くなり、長女は目を病み、幼い妹が家事などを取り仕切り
産まれて間もない乳飲み子幸太郎を抱えて、それでも近所の人や情のある萩原家の
奥方の暖かい援助などもあり赤貧ながら暮らしていたのですが、
金貸因業の金兵衛(彦三郎)と代言人(現在の弁護士、権十郎)が
貸した2円に8円の利子の合計10円の返済を迫り、
やっとのことで手に入れた1円をむしりとられ、
奥方おむらから頂いた乳飲み子の着物を借金のかたに持っていかれて
悲嘆に暮れて一家心中と企てますが、わが子を殺せず、
無心に笑う幸太郎をみて幸兵衛の精神がおかしくなってしまいます。
ここでの発狂の場面はおかしみをあり、船弁慶の型をほうきをもって躍らせたり
花道に駈け出していくところも、碇の絵を持たせて平知盛を連想させたりと
工夫が色々仕掛けられていますね。
そして、幸太郎を抱いて河岸で身投げをするのですが、
これまた近所の三五郎(錦之介)に助けられ、正気を取戻した幸兵衛は
恩情に痛み入りこれからは市井の民として前向きい生きていくことを誓うのでした。
そこで、眼を病んでいたお雪がうっすらと視力が回復するのですが、
これがホロリとさせられるのです(泪)。
明治に入った世情を取り入れた黙阿弥の「散切物」を堪能させて頂きました。

では。


<あらすじ>

昼の部

一、吉例寿曽我(きちれいことぶきそが)



◆石段での立廻りと曽我の世界を彩る様々な役柄が揃う一幕
 鎌倉鶴ヶ岡八幡宮の石段前では、工藤祐経の家臣近江小藤太と八幡三郎が、謀反の企みが書かれた巻物の奪い合いをしています。所は変わり、彼方に富士山を望む大磯の廓近くでは、工藤が遊女大磯の虎たちを従え訪れています。ここへ曽我五郎、十郎兄弟が駆けつけ、父の仇の工藤と対面を果たします。
 曽我兄弟の仇討ちを題材にした「曽我物」より、“がんどう返し”という大掛りな舞台転換や暗闇での動きを様式化した“だんまり”などが見逃せない通称“曽我の石段”を上演します。華やかな舞台をお楽しみください。

二、彦山権現誓助剱(ひこさんごんげんちかいのすけだち)



◆仇討ちに奮起する純朴な男を描いた名作
 豊前国毛谷村に住む六助は、百姓ながらも剣術の達人として知られています。年老いた母親のために仕官したいと願う微塵弾正から試合を申し込まれた六助は、その思いに心を打たれ、わざと勝ちを譲ります。そこへ謎の虚無僧が現れ、六助に突然斬りかかりますが、実はこの虚無僧の正体であるお園は、六助の剣術の師、吉岡一味斎の娘であり、六助の許婚でした。一味斎が京極内匠という悪人に討たれたことを知らされた六助のもとに、杣斧右衛門たちが訪れ、その話から、自分は弾正に騙されており、しかもその弾正こそ仇の京極内匠ということが明らかになり…。
 義太夫狂言ならではの魅力あふれる作品をご堪能ください。

三、積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)



◆古風な味わいを持つ舞踊の大曲
 都に近い逢坂の関にある庵で暮らす良峯少将宗貞のもとへ、宗貞を恋慕う小野小町姫が訪れます。関守の関兵衛は、二人に馴れ染めを訊ね、その話に聞き入るうちに、懐から割符を落としてしまいます。宗貞は、その割符から関兵衛の素性を怪しみ、小町にこの場を立ち去るように言います。やがて夜も更けると、関兵衛の前に現れたのは傾城墨染。すると関兵衛は、墨染に廓の話を所望するので…。
 “見顕し”という本性を明かす見応えある演出など、視覚的にも壮麗な常磐津の舞踊をご覧に入れます。

夜の部

一、一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)


    陣門・組討

◆戦場で交錯する武将たちの様々な想い
 源平争乱の時代。源氏方の武将・熊谷次郎直実は、初陣となるわが子の小次郎直家と共に出陣します。須磨の浦の戦場では、平敦盛が白馬にまたがり参戦し、敦盛の許婚である玉織姫が行方を探すために駆け付けていました。合戦は平家の敗色濃厚となり、奮闘していた敦盛は、退却する平家の軍船を追いかけます。その敦盛の姿を呼びとめた熊谷直実と敦盛は海上で一騎打ちとなります。敦盛を組み伏せ、討ち取ろうとしたところ、この若武者が実は敦盛になりすました小次郎であると知った熊谷は…。
 戦の無常と臨場感など数多くのみどころがある、重厚な時代物狂言にご期待ください。

二、神田祭(かんだまつり)



◆神田っ子の気風あふれる華々しい舞踊
 「天下祭」として知られる江戸・神田明神の神田祭。祭で賑わう町内では、ほろ酔い機嫌の鳶頭が華やかに踊ります。そこへ芸者たちが駆けつけ、より一層賑やかに舞い始めます。威勢よく踊る中、鳶頭と芸者は次の町へと向かうのでした。
 神田祭の祭礼の様子を清元の舞踊にした一幕です。江戸の中でも指折りの神田っ子の粋を存分にお見せします。

三、水天宮利生深川(すいてんぐうめぐみのふかがわ)



◆貧しさにあえぐ男に訪れた奇跡
 明治維新により没落士族となった船津幸兵衛は、今は筆を売って細々と生計をたてる毎日です。妻に先立たれ、三人の子どもを抱えていますが、金貸たちの取り立てに身ぐるみ剥がされてしまう始末。貧苦を極めた幸兵衛は、ついに一家心中を決意し、子どもたちに刃を向けますが、辛さのあまりに発狂します。暴れて大川へと身を投げた幸兵衛は、剣術家萩原の妻おむらたちに助けられ…。
 明治初期の世相を題材にした「散切物」の一つで、激動の時代に翻弄された没落士族の生き様を、河竹黙阿弥が痛切に描いた名作です。