日時2014年07月08日(火) 19時開演 サントリーホール
7:00p.m. Tuesday, July 8 Suntory Hall

山田和樹 Kazuki Yamada (首席客演指揮者 / Principal Guest Conductor)
樫本大進 Daishin Kashimoto (ヴァイオリン / Violin)
スイス・ロマンド管弦楽団 Orchestre de la Suisse Romande

藤倉大:Rare Gravity(世界初演)
Dai Fujikura: Rare Gravity (World premiere)

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.35
Tchaikovsky:violin Concerto in D major, Op.35

アンコール
J.S.バッハ無伴奏ソナタ3番 ラルゴ

ベルリオーズ:幻想交響曲 Op.14
Berlioz: Symphonie fantastique, Op.14

シュレーガー 舞踏劇ロココよりマドリガル
ビゼー ファランドール

早い段階から満員御礼、チケットが完売していた公演です。
実は山田和樹については、日本フィル中心に様々なコンサートがあり
これだけ評判の高い指揮者だけに聴きたかったのですが、
スケジュールが合わず今回が初めてとなりました。

最初は世界初演の藤倉の作品。
多作で知られる人で細川と並んで日本人作曲家では
一番委嘱が多いということを聴いたことがあります。
以前聞いたいくつかの曲と比べると大変聴き易い曲で、
事前に下記の作曲家自身の解説を読んでいたこともあり結構楽しめました。

二曲目はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、
ソロは樫本大進です。
樫本のソロは以前に比べて大きく構えて確りと楽器を鳴らして歌い切ります。
それにしても何と響く楽器なのでしょう。
ファウストのヴァイオリンとは対極ですね。
時々荒っぽくなるので完璧無比の演奏ではありませんが、
このような曲ではかえってその方が効果的だったりします。

特筆すべきは山田の指揮振り。
アクセント、ルバート、ためなど普段小生が思っていることを
ほとんどすべて確りと表現してくれていました。
この曲の指揮では、カントロフのヴァイオリンのバックの渡邉暁生!、
そしてためが上手いマゼールが気に入っていたのですが、
山田もそれに並ぶ指揮振り。
鳴らすところは確りですし、ソロに合わせるだけでなく
細かい木管のフレーズを強調させて清新な響きを作ったり。
丁寧且つ細かく大胆という、この人の特性を早くもこの曲で感じました。
テンポは比較的ゆったりだったのではないでしょうか?

アンコールはバッハ、これも響く気持ちの良いものでありました。
第一楽章の後で拍手が起きましたが、ピクテの招待客中心かな?(笑)

休憩後、幻想が始まるのは20時40分前後。
この曲は第4楽章から急に盛り上がり、
最後のフィナーレでバカスカ吹いて終わり、という演奏が多く閉口することも
しばしばなのですが、今日は全くことなりました。

第1楽章から丁寧且つ細かい!、しっかりとリハーサルを行ったのでしょう。
木管が美しい!
明らかに器楽・交響的な演奏ではなく、表題を意識した作り方ですね。
緩急・強弱の付け方も〇。
第2楽章はルバートも効かせながら、舞踏会のイメージを表現。
第3楽章の野の風景、これが無機質な演奏になることが多いのですが、
緊張感が継続し懐古や寒々しさも見事に音現させていました。
第4楽章はもう少しグロテスクにするかと思いましたが、
意外にオーソドックスに進みましたが
第5楽章が弦の渡しがメリハリが効いており聴いていてワクワク、
最後のファナーレよりもう少し前からもう少し崩すのが小生のこの曲の趣味ですが、
それができるのはプレートル、クリュイタンス、ミュンシュしかできない芸でしょう。
しかし、山田の演奏も正統派ながら推進力もあり大いに満足しました。

盛大な拍手!既に21時30分前になっていました。
アンコールを急いでということで、珍しいシュレーカーの初めて聞く
楽しげな舞曲に続き、山田も引っ込まずそのままファランドールへ。
急いでいたのかやや荒っぽくはなりましたが、会場は大変盛り上がりました。

スイスロマンド、生で聴くのは初めてかしらむ?
昔ジョルダンで聞いたかな?覚えていません。
決して超一流の楽団ではありませんが、
想像以上にレベルは高そうです。
ヤノフスキに大分鍛えられたのかな?
成程、弦は軽めで押し付けないのでブルックナーなどは不向きでしょう。
ヤノフスキのペタトーンのシリーズもどうもというのは
指揮者自身の音楽作りにもありますが、オケの資質もその原因なのでしょう。
木管は美しいし、弦も有機的。
只、手綱を締めないとやや緩くなる傾向が感じられますね。

山田和樹、おそらく素で人間的にも良い人なのでしょう。
才能があり努力し人間性も良く、運命の女神にも微笑まれたのですから、
これからもやり過ぎ位に前に進んで欲しいものです。

では。


<藤倉大解説>
Rare Gravity

 2011年に娘が生まれて以来、僕は、娘から直接得たインスピレーションで、いくつもの曲を書いている。今回のこの曲は、母親のお腹からこの世に出てくるまでの間、お腹の中で羊水に浮かび、どんどん大きくなるのはどんな感じだろうか……との想像から生まれた。
  僕が思い描いたのは瞑想に似たものだと思う。液体はどのように彼女を守っているのか、そして安らかに漂いながらも、栄養はしっかりと母体から届き、お腹の中でどんどん大きくなる胎児を……。
オーケストラは、決して止まることなくハーモニクスを奏で、波のような規則性で揺れる。このテクスチュアの反響のような役割を果たすためのピアニシモを奏でる2台のヴィブラフォンも、後ろで絶えず鳴り響く。この作品を聴いてくれる人が、保護する水に囲まれて漂っているような気持になってくれたら……と願う。大きなオーケストラを使っていかに浮遊感を表現できるか?というのが今回もっとも悩んだ部分だ。
面白いだろうと思いながら、それまで僕が一度も試したことのなかったアイデアは、「曲はむくむくと成長する、がそれと同時に瞑想的な曲、でもゆったりした音楽では全くない」というもの。(実際非常にテンポの速いところもあるが、僕としては速い音楽から瞑想的な感じを出せればと思っている。そんなことが可能ならばであるが)。音楽は胎児が大きくなるように成長する。しかし、回りの環境は変わらず、胎児はまだ母のお腹の中にいる。
そして中間部では、弦楽器がこのハーモニクスの水の揺らぎのような音楽を奏でている。急激に変化する指揮者の拍と共に、木管のリード楽器群は急速に音量を増す。一連の音符はメロディーになり、そしてそのメロディーがさらに大きくなり、時にはピッチの幅が木管を取り巻いているはずのハーモニクスのテクスチュアより広くなる。
 最後のセクションでは、突然のドラムと共に、それまでと対照的な速さに急変する。胎児はまるでサッカーかキックボクシングでもしているように蹴っている。 藤倉 大