特急あずさ3号、南小谷行き。

総武線の千葉を6時38分に発ち、

客船のように窓外を望む荒川中川橋梁を渡り、
錦糸町で総武快速線から緩行線に亘り、

高々架の秋葉原から、御茶ノ水の谷へ一気に下り、中央急行線へ。
御茶ノ水の谷は思いの外深いようで、
道路の坂と鉄路の勾配とでXの文字を描きながら走ります。
この時間の列車密度は濃く、天下の特別急行もそろりそろり。

列車はJR東日本本社のある新宿へ。

西豊田~、西豊田~。

甲州街道、中央高速と狭隘な谷間の土地を奪い合うように進み、笹子トンネルを抜けると勝沼からは一気に視界が開けて、甲府盆地へ大きな曲線を描きながら駆け下りていきます。

甲府付近では富士山が山々の間から顔を出して見送ってくれます。

信濃境・富士見間の立場川橋梁からは赤錆びた味わい深い橋梁が眼下に見えます。
宮崎駿の「風立ちぬ」にも登場したと言われるこの橋梁は、1904年から1980年まで使われていた中央本線旧線です。今後、文化遺産になるのかどうか気になるところです。

諏訪湖を諏訪の街並みから覗きこむように、ちらりちらり。

松本に到着すると、巡る巡るよ時代は巡る。新鋭E353系がずらりずらり。

松本から大糸線に入ると、本当のあずさ号になれたかのように、いきいきとした走りになりました。
列車名の由来となった「梓川」を温かみのある速度で渡ります。

春は名のみの風の寒さや。

信州らしい景色になりました。
大糸線のハイライト、仁科三湖。
青木湖の湖畔をガタンゴトン。線路際まで湖面が迫ります。青木湖までは信濃川水系で、ぐるりぐるりと信州を流れていくのですね。

平坦なまま分水嶺を越え、姫川源流湧水からは真っ直ぐ日本海に向かって流れます。姫川に沿うと谷が深くなり、まもなく終点の南小谷です。

こんなに変化のある車窓を楽しめる特急あずさ3号南小谷行。新幹線の時代にあって、首都圏発のロングラン特急は貴重な存在です。
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この道を通い続けて18年。
武田菱、最後の春。
3月15日をもって、印象的な武田菱をまとうE257系はあずさ号の定期便から引退しました。
新型あずさの登場で、またあたらしい旅の景色が織り成されていくのでしょうね。
E257系。健気に海なし県を走り続けたあずさは踊り子に姿を変えて、憧れの海辺を走る予定だとか。煌めく海辺を、颯爽と、ちょっぴり恥ずかしげに走るあなたの姿を想いながら。しばらくの間、さようなら。