記憶。ふと無意識に置いた携帯の場所を思い出せない。
鍵。車や家の鍵もそう…
朝に成ると瞬間的な記憶が抜けた落ちたように、夢の記憶が無い。
楽しい愉快な夢なのは感覚で分かるのに。
僕は小さく息を吐いて、行く支度をした。
艶やかな花が春を感じさせる。
街。夕凪に浮かぶ影帽子の竸比べ。
オレンジ色と紫色の混ざる空。
変わらない1日を終えた僕は帰路についた。
また、楽しい感覚だけを残す夢を見るために。
玲奈とエイルは迷っていた。
禍々しい紫色の迷彩の迷路。
「夢の配達をするはずが、地の底に来てしまったみたいだね。」
エイルは掴み所の無い普段と変わらない言葉遣いで言った。
「地の底?」
私は体感的に何年も閉じ込められた気分で尋ねた。
ふと、現実の私は今どうなってしまっているのか?と、心配にもなった。
「地の底。人は地獄とも極楽とも言う場所だね。この夢の主は…神に愛されたのだろう」
エイルの言葉に疑問が浮かぶ。
「神様に愛されたのなら幸せなはずじゃないの?」
「神と言っても、愛宕、火の神様。日本的には愛染明王の類いだね。憤怒尊や、愛欲つまり煩悩を離れ、大欲に変化せしむ。いや、これは…」
エイルは少し焦った様に言葉を切る。
いつも自由な猫雲の様な人の戸惑いや微かな焦りが私を不安にした。
そんな私を見透かした様に、エイルは微笑み言った。
【神と言えど、人が作った神と元から居る神。これは前者。無数の人が望んだ幸福や明日と言った所に居るまやかしの神。大丈夫。実態を持つあたし達には触れない。】
私は【あたしと言ったエイルと、実態を持つと言う所に引っ掛かりを覚えた。】
しかし、微笑む彼女は猫雲の様に自由な彼女で安堵した。