2013年6月1日 土曜日 くもり
幸太郎から、毎日何かしらのメッセージが届く。
他人から見れば、こじつけているとか、普通に思えることを意識しすぎとか言われるかもしれない。それでも、来るメッセージを、どれにつながるのかと、まるでパズルのように組み合わせてる。
今、自分が体験していることが非現実的であることも承知している。
私が一番疑っているのかもしれない。
でも、この幸太郎の携帯に、魂が残っていることが証拠としてあるから、そうやって私は毎日確認する。
今日は、冷やし中華を作ろうと、食材を買うために、主人と一緒に近くのスーパーに出かけた。
スーパーの入り口を入ると直ぐに、果物や野菜が売っているコーナーがある。
少し歩くと、主人がオクラを見つけて
「幸太郎が好きなオクラ」
そう言って、買い物かごに入れた。
そうだった。
幸太郎はオクラが大好きだった。
面白いことに、幸太郎が大阪に行くまで私はオクラを使った料理を作ったことがなかった。
どこから幸太郎がオクラを好きになったのか、それを聞いたことがあった。
「外食をした時、オクラ丼を食べたら、めっちゃうまかったんさぁ」
「へぇ~、そうなんだぁ」
幸太郎が、退院してからの夕食には、必ず「オクラのおかか和え」を作った。醤油をかけて。
幸太郎は、これが一番のオクラの食べ方で、それ以外は邪道だと、笑いながら言ってた。
毎日、毎日作って、完食してくれた。
そのオクラを久しぶりに買った。
夜になり、夕食を作り始め、オクラを湯がこうと、鍋のお水が沸騰するのを待った。
この瞬間、私の頭の中に、
幸太郎がリビングのベッドの上に座って、テレビを見ながら、このオクラを食べるのを楽しみにしている姿が、ものすごくリアルに映った。
だのに、幸太郎はいない・・・
このオクラを食べる幸太郎がいない・・・
ものすごい悲しみが押し寄せてきて、涙があふれ出した。止まらない
そこへ主人が来た。
「ごめん、これ、私、無理!」
とオクラを指さして主人に伝えた。
泣いている私を見た主人は、とても動揺してた。
「僕が作るよ。湯がいて、刻んだらいいだけやろ?簡単やから」
それでも泣き止まない私を、主人はどうしたらいいのかわからず、しばらくカウンターごしに私の様子を伺っていたけれど、姿が見えなくなった。
私は、夕食を作り続けた。
だけど、涙が止まらない。
幸太郎がいない。
もう大丈夫だと思っていたのに・・・
オクラを見て泣いてしまうなんて・・・
私はもう一生、オクラを買う事も食べることもしないだろう。
オクラが入ったザルを主人がキッチンの端によけてくれてあったけれど、視界に入る。
無理だ。
刻むこともできない。
辛すぎる。
食べてくれる幸太郎がいない。
このオクラを主人が刻んでくれても、食べる姿を見たくない。
捨てよう・・・
捨てるしかない・・・
私は泣きながら、ビニール袋にオクラを入れ、ゴミ箱に捨てようとしたその瞬間
え捨てるの
もったいない
僕、好きやのに
まるで、幸太郎が後ろからこの光景を見ていたように、はっきりと聞こえた。
幸太郎だ
思わず笑えてきた
涙が吹っ飛んだ。
私は、直ぐにオクラをビニールから出して、湯がき始めた。
全く、何の抵抗もなかった。
あぁ、オクラを食べたい。そう思った。
和室を覗くと、主人が幸太郎の遺影の前にいた。
きっと、どうやって私をなだめたらいいのか、幸太郎に相談していたんだろうね。
「夕飯できたん?」と斜めに振り向いて言った。
「うん、今な、オクラ捨てようと思ったら、幸太郎がもったいないって。僕、好きやのにって。
もう大丈夫やから。幸太郎、ありがとう。オクラ食べるわ。」
私も、幸太郎の遺影に向かってそう言った。
主人は
「そう聞こえたんやな。僕も食べるわ。」
そして、2人でオクラを食べた。