ドゥラカを逃がすため、シュミットが護衛につき、ふたりが出立準備に立つ間際。ドゥラカは「みなさんはこれでよかったんですか?」と聞きます。「仕事だ。いいも悪いもない」と迷いなく答えるレヴァンドロフスキ。他の面々もレヴァンドロフスキの表情と変わらない。
お互いによく知らないけど、私たちはヨレンタさんを知ってる。ヨレンタさんは私に印刷機を貸してくれると言ってくれた。ヨレンタさんは軽い気持ちの一言だったかもしれないけど、私にはあの声が私の価値観への、私の未来への肯定に聞こえた。ここにいる人もヨレンタさんに、この組織にそう思った瞬間があるからここにいるんだと思う。だから。
ドゥラカ「私も仕事します」
レヴァンドロフスキ「あぁ、頼んだぞ」
ドゥラカ「はい」
フライが通報した印刷工房の拠点へ向かうノヴァクとアッシュ一行。アッシュはヨレンタの自爆に衝撃を受け、恐れおののいています。拠点に到着し、アッシュは投降するよう宣言しますが、現れたのは盾でバリケードを作った集団。鉄製の盾にクロスボウの矢は歯が立ちません。ノヴァクの「あの陣形は白兵戦に弱い」に騎士団は白兵戦体制に。この隙に騎士団の馬を奪い、逃げるドゥラカとシュミット。馬を荷台から切り離し、少数の騎士を伴い逃げたドゥラカたちを追うノヴァク。
アッシュは完全に腰が引けてます。ノヴァクの軽蔑に満ちた視線にもたじろく他ありません。
追いつかれそうになるドゥラカとシュミット。シュミットは言います。これまで自分の選択を恐れたことがなかった。だが、今初めて怖い。
シュミットは「君の成功を祈る!」とドゥラカを逃がし、騎士団兵と戦います。騎士は倒せたものの、ノヴァクに首を背後から刺されます。
ノヴァク「自分の血で溺死とは地動説信者にふさわしい惨めな運命だ」
シュミット「し、しかし、私が、選んだ運命だ」
シュミットは絶命。ノヴァクも頭に怪我をしたようで、仰向けにその場に倒れます。
ドゥラカがたどり着いた先は司教アントニのいる場所。就寝中に起こされたアントニは、人払いをさせ「話は何だ」とドゥラカに聞きます。
ドゥラカ「未来です。儲け話、とも言える」
アントニは「で、どうやって儲ける?」ドゥラカは本の出版について語り始めます。そして「印刷機の使用と本の発行許可をもらいたいんです。必ずや損はさせません!」
アントニ「ほう。で、その本の内容は?」
ドゥラカ「それが、問題です。宇宙論的なひとつの思案というか、自然に対するある仮説で、平たく言うと、『地球の運動について』です」
アントニ「貴様、何を言って・・!」
ドゥラカ「異端思想ですか?しかしです。お話ししたいのはここからだ。考えてみてください。歴史上、地動説が弾圧された前例を聞いたことがありますか?果たしてこの説は、本当に異端なのですか?」
アントニはドゥラカに「監獄に送る前に教えてやる」と地動説は自分の父が何人も裁いたと語る途中で、余所で弾圧の話を聞いたことがないと気づきます。
アントニの言葉を聞いたドゥラカはたたみかけます。
ドゥラカ「確かに宇宙論は神の創造に抵触する話題だ。普通なら避けて当然。これを理由に裁くことも可能でしょう。慎重になるべきだ。しかし、しかしです。逆に慎重になりさえすれば、かならずしも禁止されるべきものではないのではないですか?そしてそれは、刺激的な娯楽の題材になりませんか?」
アントニ「君の考えでは、地動説が異端かどうかは、時の権力者の裁量によって、いくらでも変わるという訳か?」
ドゥラカ「えぇ、そうです」
アントニ「わかった。ただ、ひとつ理解しておけ。私は風向き次第ではいくらでも君を切る」
おお、ドゥラカの説得が通じたよ!儲け話に目がない司教アントニ。彼は父とは違い信仰者ではない。だから、利があると思えばそちらに乗る。風向きが変わればドゥラカを切ると宣言しているところは、彼にしては、むしろ親切なくらいじゃ?と私は思ってしまった。
儲けの配分についてドゥラカは5対5と希望を出しますが、アントニに8対2だと言われ、それを承諾。まぁ、ここは仕方がないでしょうね。
ドゥラカは発行に際し、手紙を一通出したいと申し出ます。アントニが自身の伝書鳩を貸してくれることに。
意識が戻ったノヴァク。足跡を追い、アントニとドゥラカのいる場所へやって来ます。門番から、女が来て教会の方へ向かったことを聞きつけたノヴァク。
教会へ赴いたノヴァクはそこにアントニがドゥラカといることに驚き、地動説にドゥラカが関わっていることを訴え、彼女から離れるよう言います。しかし微動だにしないアントニ。
驚愕するノヴァクにアントニは「ひとつだけ聞かせてくれ」と言います。
アントニ「君は地動説の何が問題だと思う?」
ノヴァク「は?」
明確な理由を言うことができないノヴァク。
アントニ「いいか、ノヴァク君。わかってないなら、はっきり言おう。人を異端と呼び、拷問し殺すなら、その理由に正統性があるのかくらいは自分で調べろ。行動に責任を持て」
お前がそれを言うのか、アントニ。と言いたい気もするけど、この台詞そのものは至極真っ当だよね。ノヴァクは思考停止で異端審問官をやっていた嫌いは確かにある。彼の価値観は異端は排除すべきものという信仰によるもの。信仰は思考とは対極にあるような気もする。この対立は対立で終わらせては不完全で、最終的に統合へ向かう必要があると思う。
ノヴァクは聖書にも!と抵抗を試みます。それに答えるアントニ。
アントニ「地は堅く捉えられ動かされることはない。あるいは、世界は堅く据えられ決して揺らぐことはない。今、ざっと思い当たるのはここら辺か?しかし、冷静に考えるとわかるが、これらは地動説を排する絶対的根拠にはならないぞ。というのも、地動説なんてものは単にひとつの仮説に過ぎないからだ。唯一の真理とするには危ういかもしれんが、単純に数学的仮定の発想だ。いったいそれに何の問題がある。まぁもし、万にひとつ大地が実際にい動いてるにしても、その前提で聖書を読み直し、再解釈に努めるのが我々の役目だがな。新しい意見や発見を拒絶するのではなく、検討してより聖書への理解を深める。そういう姿勢が今信仰に最も必要なんじゃないか。それにむしろ太陽が中心であるという地動説の考えは三位一体の自然学的な裏付けとも捉えられる。これは神学的にも神を讃える素晴らしい気づきかもしれんぞ」
まともなことを言っているアントニにちょっと感動すら覚える。自分の利に聡いということは、時流を読むことにも長けているということなのかも。次の時代の匂いを嗅ぎ取る嗅覚をアントニは持っているのだろうと思う。優れた経営者って皆その資質を持ってる。だから、必要とあればこれまでの見解も修正するし、あるいは捨てることも容易くできる。ドゥラカとアントニが共通に持っている性質だと思います。
アントニの父親のことを口にしたノヴァクに対しアントニは「彼(アントニの父)も昔、天文をやっていたらしいじゃないか。とすると、何か挫折を経験して、空への憧憬は劣等感へと変わってしまったのかもしれないな」そして彼はノヴァクにトドメの言葉を吐きます。
アントニ「この地動説の異端審問の騒動は教会や人々の信仰を守る聖戦などではなく、一部の人間が起こしたただの勘違いだったということになる」
ノヴァク「勘違い、勘違いで済まされるものか!フベルト!ラファウ!オグジー!バデーニ!地動説で処刑された者の名だ!私は確かに殺したんだ!そ、それに、私の娘も。」
記録を!と口走るノヴァクに、アントニは25年も前のことに加え、ノヴァクの宇宙論関係は非公開処刑が多すぎた。ついさっき、君の記録が残っているかを調べさせ、見つけ次第処分しろと私自身が指示している。明日の朝には何もかも消える。と返すのでした。抜かりないな、アントニ。
ノヴァク「本当に、本当に、私だけなのか?地動説と迫害を実行したのは?この世で私だけ?」
アントニ「あぁ、私の知る限り」
ノヴァク「今更、今更そんな・・・」
アントニ「他の場所に生まれていれば、他の時代に生まれていれば、様々な可能性があった。しかし、そうはならない。それが運命というものだ。気の毒だが受け入れるしかないだろう。君や君が担当した異端者たち。君らは歴史の登場人物じゃない」
地動説を命を賭けて継承した無名の人々。これに関わった人々。「歴史の登場人物じゃない」この言葉、「チ。」の中心テーマとも言えるこの言葉をアントニが言うのか!
かつてヨレンタを魔女として殺そうとし、彼女を庇ったシモンをヨレンタの身代わりとして処分させたアントニ。彼は指示だけで実際には部下にやらせたのでしょうけど、いけしゃぁしゃぁと、いかにも正論を述べるがごとく語るのが何ともアントニらしい気がする。ある意味とても客観的で知的な人だとも言えるのかもしれないけど、やはり個人的に、コイツは好きにはなれん!私は水エレメントが強い人間なので!
原作を読んでるはずなんですが、ドゥラカ編は忘れていることが大変多いです。アントニがこのような立ち回りしてるのもすっかり忘却の彼方でした。そして、アントニ父の司教が何故天文を敵視するようになったのか、その理由が知りたいです。ですが、原作の読み返しはアニメ放映後に行います。この先の顛末も放映後に確認するつもりです。
いずれにしても、地動説宇宙論を異端とするのは「チ。」の世界観であることをアントニが語ってくれました。この疑問については以前、別の記事で語っておりますので、よろしければご参照ください。
ということで第22話のあらすじと感想を終わります。