占いworld♡エンタメ部

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占いに携わる立場からエンタメ作品について語っていきます。
ネタバレ全開ですので、ご注意ください。

金鱗台闘妍庁。金子軒の喪に服している江厭離を陰から伺う魏嬰。金子軒の母である金夫人に見つかり逃げ出しますが、怨念と強い闇の陰気に襲われます。その中で魏嬰は江厭離の幻影を見聞きするのでした。

 

 

不夜天の城門。温情と温寧につき従っていった温氏の人々の亡骸がさらされていました。四叔父さんと温おばあさんも。今更ですが、後半の乱葬崗(陳情令・第45話)で血の池シーンがないことを以前残念に思っていたのですが、不夜天城門にさらされていたからなのですね。殺害されたのが金鱗台か不夜天かは不明ですけれど、ここから乱葬崗へ遺体を運ぶことなどするはずもないですから。

 

不夜天城内では各世家により、窮奇道で亡くなった仙師たちの弔いと決起集会が行われていました。温情と温寧は既に殺され、金光善によって骨灰を空中に撒かれます。姑蘇藍氏の列の先頭には曦臣兄様がいますが、藍湛は不在。藍湛は遅れて不夜天城門に現れます。魏嬰の行方をおそらくひとりで捜していて決起集会に合流していなかった模様です。金光善が「明日散るのは残りの犬ども。そして夷陵老祖・魏無羨!」と檄を飛ばすと、魏嬰の笑い声か不夜天に響き渡ります。不夜天炎陽殿の頭頂部にいる魏嬰と仙師たちの不毛なやり取りの後、魏嬰は陳情笛を吹き、戦いが始まり、黒い霧が仙師たちを襲います。


 

藍湛が登場。炎陽殿棟木の上、魏嬰の前に立ちます。

 

 

魏嬰「藍湛。来たか。分かっているはずだ。俺に清心音は効かない。」

藍湛「(忘機琴をしまう)」

魏嬰「藍湛。分かっていた。いつか俺たちはこうやって刃を向けてやり合うと」

 

魏嬰は陳情笛を奏で黒い霧が藍湛を襲い、藍湛は剣で応戦。

 

 

藍湛「魏嬰、やめるんだ。魏嬰、すぐにやめろ!」

魏嬰「(笛を吹き止め)藍湛。今の俺に他の道があると思うか?」

藍湛「何かがおかしい」

魏嬰「何?」

藍湛「信じろ。これには裏がある」

魏嬰「何が言いたいんだ?」

江厭離の声「阿羨!」

魏嬰「姉さん?」

 

姿は見えない江厭離の「阿羨!どこにいるの?阿澄!」と呼ぶ声に魏嬰は彼女を探しに炎陽殿棟木の上から降り立ちます。

 

江厭離を探す魏嬰に襲いかかる仙師たち。藍湛が彼らの刃から魏嬰を守り「魏嬰。笛を吹け!」と言います。魏嬰が陳情笛で操っているのは黒い霧。霧は仙師たちを投げ飛ばしていきます。

 

陰で男が笛を吹き始めます。魏嬰の笛とは違う曲調。これまで脅威が及ばなかった江氏子弟たちにも黒い霧が襲い、子弟たちはなぎ倒されます。自分は笛を吹いていないのに笛の音が鳴り響いていることにとまどう魏嬰。そして、倒れた仙師たちが次々と傀儡に変貌し、不夜天は混乱を極めます。

 

魏嬰を探し続ける江厭離に傀儡となった江氏子弟が刃を振り下ろそうとしているのを離れた場所で目撃した魏嬰。

 

 

魏嬰「やめろ!姉さんに指一本触れるな!(笛を吹いて制御しようとするも間に合わない)姉さん!そこから早く逃げて!」

 

 

斬りつけられる江厭離。江澄が駆け寄り江厭離を抱き上げます。江厭離に駆け寄ろうとする魏嬰に「魏嬰。すぐに傀儡を止めろ。止めるんだ!」と藍湛は言いますが、魏嬰は藍湛の手を振り切って江厭離の元へ走り、彼女の手を取ろうとします。しかし江澄はそんな魏嬰を突き飛ばします。

 

江澄「制御できるって言ってたよな。問題ないはずじゃないのか!」

魏嬰「俺じゃない!殺せなんて俺は指示してない。なぜ制御できない。どうしてなんだ!」

江澄「(江厭離に)大丈夫だ。大丈夫。たいした傷じゃない」

魏嬰「なぜ制御できないのかわからない。なぜ制御できないんだ!」

 

 

江厭離「阿羨」

魏嬰「姉さん。ここだよ」

江厭離「羨羨。私の羨羨。あんなに早く走って行ったから、ちゃんと顔を見ることもできなかった。言葉もかけられない。あなたに伝えたかったの。(魏嬰を押しやりながら)あ、危ない」

 

 

胸を刺される江厭離。魏嬰の目の前で、江澄の腕の中息絶える江厭離。魏嬰は叫び、彼女を刺した男を絞め殺して放り投げます。この絶望的なシーンで第32話は終了です。

 

 

ここで、私が思う江厭離・観音菩薩説について少し書かせて頂きたいと思います。尚、菩薩の捉え方も色々ありますが、ここでは悟りの境地に至る仏、如来になれる段階にいながらも、衆生を救うためあえて我が身をすり減らす行動をする存在を想定しています。

 

普通に考えて、わざわざ不夜天に彼女が出てくるのは変だろうと思います。決起大会で魏嬰を擁護するために訪れたのか、魏嬰が不夜天に来たのを知って来たのだとしたら不夜天が混乱状態になるのは必至でそれが予想できないはずはない。剣も術も使えない彼女がこんなところに来たら死にに行くようなもの。ましてや子供が生まれたばかりの彼女であれば、本来我が子金凌を守ることを最優先にしそうなものです。でも、彼女は魏嬰を探しに危険極まりない不夜天に来た。それはもちろん魏嬰がこのストーリーの主役だからですが、それはいったん置いておきます。

 

また、古代中国では祖先信仰により父方家系を重視する傾向が強く、嫁いだ女性が頼りにするのは夫や子供より実家の男性家族。中国で王や皇帝の夫人が、夫や腹を痛めて生んだ子供を殺害することがままあるのはその影響とも言われます。結婚しても日本のように夫の姓に変わることなく夫婦別姓なのは父方血統を尊ぶなごりがあるのかもしれません。これを書いていて思いついたのですが、江厭離が「三人はずっと一緒よ」と語り、姉弟の絆を重視したのも若干は影響があるのかも。

 

少々脱線しましたが、江厭離は自分以外の他者への思いやりと愛に生きている人だと思います。とくに家族に対する愛情がとても深い。魏嬰は血がつながっていなくても江厭離の家族。状況的に金子軒を殺した原因が魏嬰だと誰もが考えている中で、江厭離は金子軒が死んだことも、魏嬰が意図したことではないと信じている。でも、魏嬰自身は金子軒の死に苦悩し、きっと自らを責めているに違いない。江厭離は魏嬰に何かを伝えようとして、伝える前に息絶えてしまいましたが、彼女は『羨羨を信じているから。あなた自身を責めないで』あるいは『あなたは私の大事な弟。味方がいることを忘れないで』と伝えたかったのではないかと私は妄想しています。それを伝えるために命の危険を省みず、不夜天の混乱の中に魏嬰を探そうとした。この行動は観音菩薩的行動ではないか、との考えです。私は観音菩薩に母性のイメージを持っているのですが、江厭離は究極の母性の体現者ではないかと思うのです。

 

ちなみに観音菩薩は仏教が原点かと思いますので、本来は女性ではなく男性らしいです。観音の女性化は中国で儒教倫理の男尊女卑に苦しむ女性たちの現世利益的信仰により起こったことのようです。西方から伝わった聖母崇拝の影響もあるのかもしれませんが、ちゃんと確認してないのでこれについては単なる推測に過ぎません。

 

実は陳情令原作の「魔道祖師」の作品そのものが中国に浸透する儒教文化の負の部分との戦いをエンタメとしている作品なんじゃないかと私は勝手に思ってたりもしています。儒教批判をしている訳でも、中国文化を否定している訳でもないですよ。単に男性性優位な世界の中での女性性を考えるのって大切ですよね?くらいの感じです。

 

男性性は陽で女性性は陰なので、魔道祖師や陳情令で言うなら陽の正道に対する陰の邪道。力による支配は陽。これに対する弱者への庇護などは陰。このように陰陽の対比にあてはめることが可能かと思います。陽が必ずしもよいとは限らない。そもそも陽と陰に良い悪いはなく、両方あってこそ成り立つもので、バランスが大事。男尊女卑は男性性優位の負の側面だと思うのですが、「魔道祖師」がBL小説に留まらず、メディア化され「陳情令」という作品となってこのように受け入れられているのは、女性性の時代と言われる今だからこそなのではないかと思ったりもしています。

 

だからこそ、陰気の鬼道を使う魏嬰が主人公で、陰を認めにくい認めない世界の中で彼の拠り所になるのが江厭離なのではないかと感じている訳なのです。藍湛は陽に満ちた男性性代表の人だと思います。BL的あるいはブロマンス的に藍湛が月属性で、性格的に魏嬰が陽だとしてもです。藍湛の内にある女性性を目覚めさせるのが魏嬰で、陰の要素を受け入れ魏嬰を愛し求めることで、無意識に封印していた己の陰を解放し統合していく。そのような陰と陽の織りなす物語りが「魔道祖師」と「陳情令」なのじゃないかなぁなどと考えています。もちろん私の主観に過ぎませんが(笑) いずれにしても、観るほどに色々な感情や気づきを得ることができる素晴らしい作品だなぁと改めて思っています。突っ込みどころはあるにしてもね(笑) と言うことで、最後に無理やり忘羨に持って行った感がある気もしないではないですが、第32話「絶望の叫び」の感想を終わります。最後まで読んで頂きありがとうございました。