天文学の歴史「チ。地球の運動について」の理解のための備忘録・プトレマイオスまでの概略 | 占いworld♡エンタメ部

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この天文学の歴史の備忘録は、私個人が「チ。地球の運動について」の理解を助けるため、私なりに整理しておきたいと思って書き残すものです。私の理解と感想を書いていますので、違和感及び疑問点があります時はどうぞご自身でご確認頂ければと思います。

 

 

 

「チ。-地球の運動について」は天動説宇宙論のキリスト教世界で、地動説と言う既存概念と真逆で異質な発想に命を懸ける人々のお話です。天文学が中心のテーマでもあり、「チ。」の理解を助けるために天文学の歴史を確認しておきたいと思います。

 

天文学の起源は古代オリエントから始まります。古代オリエントの中でメソポタミアとエジプトの両方で天文の観測が行われました。ただ、メソポタミアとエジプトでは注目点が異なっていたようです。

 

メソポタミアでの天文の観測は、天界で起きた現象を記録し、その現象と地上界で起きている、あるいはこれから起きようとしている出来事とを関連付けて占うことが目的でした。つまり、占星術のために天文の観測が実施されていた訳です。


メソポタミアの歴史は長く、シュメール、アッカド、バビロニア、アッシリアなど様々な国が興亡を繰り広げました。天文学としての記録が残っているのは紀元前18世紀頃からのようですが、わからない部分も多いです。天文学として洗練されてきたのはバビロニアの頃と思われます。紀元前19世紀(諸説あり)~紀元前16世紀頃のバビロニア王国ではなく、紀元前7世紀~紀元前6世紀頃の新バビロニア王国(カルデア王国)の方です。

 

メソポタミアの天文学は初期段階から、皆既日食や皆既月食、掩蔽、彗星の出現、惑星の動きなどの観測記録が残されており、新バビロニア王国の頃にはサロス周期も知られていました。

 

※「食」ある天体が、別の天体の影に入り、照らされなくなる現象。「掩蔽」ある天体が別の天体の背後に隠される現象。「サロス周期」太陽と地球と月の位置関係が相対的にほぼ同じような配置になる周期。18年と11日、すなわち6585日に当たり、ほぼ同条件の日食が見られるのは3回目のサロス周期。

 

一方のエジプトの天文学は、皆既月食や彗星の出現などの記録が全く残されていませんでした。エジプト人は天空を36の「デカン」に分割して夜空を観測し、その結果、全天で最も明るい恒星であったシリウスの出現記録から、1年を365日とする暦を考案したとされています。ある星が日の出直前に東の空に登ることをヘリアカルライジングと言い、エジプト人はシリウスのヘリアカルライジングを1年の暦の区切りとした訳です。暦は太陽暦とされる「民衆暦」と太陰暦の2種類を使っていたそうです。さらに夜空を毎晩観測することで昼と夜とを12時間ずつに分割する1日24時間制も作り出しました。尚、メソポタミアの暦は太陰太陽暦とのことです。

 

バビロニア起源の固有の星座が「チ。」でしばしば登場する2世紀ギリシアのプトレマイオスによる「プトレマイオス(トレミー)48星座」を経て、現在に受け継がれているのに対し、エジプト起源の固有の星座は忘れられていったようです。

 

紀元前530年、新バビロニア王国はアケメネス朝ペルシア帝国に滅ぼされ、アケメネス朝ペルシア帝国は紀元前330年にマケドニアのアレクサンドロス大王に征服され、滅亡します。アレクサンドロス大王は東方遠征時にエジプトに入り、無血平定し、エジプト王国の都として都市建設を命じました。この都市はアレクサンドロス大王の名前にちなんで「アレクサンドリア」と名づけられ、その後エジプト最大の都市へと発展します。アレクサンドロス大王の死後、マケドニア王国の貴族ラゴスの子でアレクサンドロス大王の後継者のプトレマイオスがプトレマイオス朝の初代ファラオとなります。

 

ギリシア人がエジプトの支配者となったプトレマイオス朝で、エジプトの天文学はギリシアとバビロニアの影響を受け、変わったのではないかと思われます。

 

アレクサドロス大王の領土はプトレマイオス朝エジプトの他、セレウコス朝シリア、アンティゴノス朝マケドニアに分割され、そこから派生した諸国がヘレニズム諸国となり、これらの国が東地中海からオリエント地域を支配し、ギリシア風の「ヘレニズム文化」を維持・発展させました。アレクサンドリアには、当時の古代世界から数多くの科学者が集まりました。

 

このようなヘレニズム文化を背景に、ローマ帝国時代にエジプト・アレクサンドリアの天文学者クラウディオス・プトレマイオス(トレミー)が「アルマゲスト」をまとめるに至ります。

 

「アルマゲスト」は「アポテレスマティカ(星が及ぼす影響について)」の第一部にあたる天文学の書物。第二部は「テトラビブロス」と呼ばれる占星術の書物です。

 

ヘレニズム文化で無理やりプトレマイオスまで引っ張りました。プトレマイオスが大成した天動説にはアリストテレス、そしてプトレマイオスと同時代のヒッパルコスも外すことができないかと思うので、プトレマイオスとその仲間たちについては、日を改めて書いてみたいと思います。

 

【参考】

近藤二郎「星座神話の起源」誠文堂新光社

クリストファー・ウォーカー編、山本啓二・川和田晶子訳「望遠鏡以前の天文学」恒星社厚生閣

ジョルジュ・ミノワ、菅野賢治・平野隆文訳「未来の歴史」筑摩書房

縣秀彦著・岡村定矩監修「ビジュアル天文学史」緑書房