映画『ウィキッド』2回目を観てきました! 2回目となると初見では気づかなかった細かな描写が見えてきて、感慨もひとしおです。
「ウィキッド」はミュージカル映画。劇中の歌の一つひとつに深い意味があり、とても考えさせられる内容です。今回は、印象的な歌詞を引用しながら感想を書いていきたいと思います。
表舞台の「幸せ」と裏側の「筋書き」
物語の冒頭、グリンダは「善き魔女」として民衆の称賛を浴びています。そこでフィエロとの婚約が発表されますが、この時のグリンダは現状に満足しているように見えました。西の悪い魔女として非難されているエルファバを思い「心が苦しい」とフィエロに語りつつも、どこか自分に言い聞かせているような危うさも感じます。
【Couldn't Be Happier】
私と魔法使い様は もう幸せでいっぱいなの、ね?
ここでの暮らしは最高だわ
見て、この絵に描いたような幸せな物語
私たちだけのハッピーエンディング
ねえ、本当に幸せよね?
ええ、とっても幸せだよ
だからこの幸せを、みんなにもおすそ分けしたいくらい
この「幸せの筋書き」を書いたのは、マダム・モリブルです。オズもグリンダも、彼女の設定した役割の中で動かされているに過ぎません。本来、モリブルは強大な魔力を持つエルファバを自分の駒(グリンダの立ち位置)に置きたかったはずですが、エルファバが反旗を翻したため、魔力のないグリンダを「象徴」として担ぎ上げ、エルファバを「西の悪い魔女」に仕立てあげました。
歪められる「真実」
グリンダは、エルファバを「恐ろしい魔女」に仕立て上げたプロパガンダに加担してしまいます。
「魂が汚れているから水に触れると溶けてしまう」
この魔女は「水で溶ける」という設定。「オズの魔法使い」の設定ですね。グリンダ自身は、この状況に微かな違和感を覚えながらも、引き返せずにいます。
【Couldn't Be Happier(後半)】
だから私は幸せなの
ええ、とっても幸せよ
まあ、正直、ほんの少しだけ
思っていたのとは違うけど
でも幸せなの
本当に、幸せのはずなのよ
まあ、本当に
単純にとは言えないけど
一方、敵認定されたエルファバは、言葉を奪われようとしている動物たちに「共に戦おう」と呼びかけますが、彼らは絶望し、オズを去ろうとしていました。
ここで歌われる「No Place Like Home」。 「オズの魔法使い」でドロシーが歌う「お家が一番」と同じタイトルですが、意味は対照的です。「私を愛してくれなかったこの場所だけど、それでもここが私の居場所だから」と歌うエルファバの姿は、とても切ない。
悲劇の連鎖
エルファバの妹ネッサローズは、亡き父の跡を継ぎ総督となっていました。彼女はボックを愛していますが、彼の心は自分にはない。彼を繋ぎ止めるために権力を行使し、移動の自由を奪うネッサ。
助けを求めて訪ねてきたエルファバに対し、ネッサは「私が助けてほしかった時に助けてくれなかった」と責め立てます。混乱の中、ボックが「グリンダへの愛」を告白して去ろうとした時、ネッサは禁断の魔導書「グリムリー」を無理矢理使い、誤った呪文でボックの心臓を蝕んでしまいます。
エルファバが命を救った結果、ボックは「ブリキの木こり」として生き永らえることになります。しかし、彼はその姿に変えたエルファバを激しく憎むようになる。善意が裏目に出る、残酷な展開の始まりでした。
対照的な二人の道
エメラルドシティへ向かったエルファバは、オズの魔法使いに動物たちの解放を訴えます。しかし、オズは彼女を懐柔しようと語りかけます。
【Wonderful】
真実ってのは、事実や理屈のことじゃない
真実とは、みんなが同意したことだけ
僕の出身地では
みんなが信じることの多くは、真実とは限らない
それを何て呼ぶか知ってる?
歴史だ
この歌の後のシーン。エルファバが隠された動物の檻(残酷な現実)を進む姿と、グリンダが華やかなバージンロード(作られた虚像)を歩く姿が交互に映し出されます。この対比が非常に象徴的でした。
フィエロは、最後にはグリンダではなくエルファバの手を取り、共に去る道を選びます。残されたグリンダの悲しみと、マダム・モリブルの冷酷な罠。モリブルは魔法で竜巻を起こし、ドロシーの家をネッサの上に落とすという惨劇を引き起こします。これが「オズの魔法使い」の物語へと繋がっていくのですね。
呪いのような「善い行いは報われない」
愛するフィエロが自分を逃がすために捕らえられ、絶望したエルファバは叫ぶように歌います。
【No Good Deed】
善い行いは、必ず裏目に出る
どんな親切も、恨まれる
善い行いは、必ず裏目に出る
これが、私の新しい信条
善意の道は、いつもこうなる運命
「もう二度と善いことはしない、私は徹底的に邪悪(ウィキッド)になってやる」と決意するこの歌は、作品の中でも最も魂を揺さぶる歌でした。
歴史上の魔女狩りについてはこちらの記事で触れています。よろしければご覧ください。
泡がはじける時
一方で、グリンダもついに現実と向き合います。自分が「ピンクの泡」の中に閉じこもり、美しい嘘を信じていただけだったことに気づくのです。
二人は再会し、永遠の別れを前にメインテーマを歌い上げます。
【For Good】
私が良い方向に変わったかどうかは誰にも分からない
でも、あなたに出会ったから
私は確かに変わった
「成長」という言葉では足りないほど、過酷な体験を通して二人の人生は変容しました。エルファバは姿を消し、グリンダは「善き魔女」という役割を、今度は自らの意志と責任で引き受けることになります。
最高のハッピーエンド
物語の最後、エルファバと、カカシの姿になったフィエロはオズを去ります。 (映画の冒頭、砂漠を進む二人の姿がチラッと映っていたのですが、このラストに繋がっていたのです!)
結末の捉え方は人それぞれだと思いますが、私はこれが「最高のハッピーエンド」だと感じました。 オズに執着していたエルファバが、愛する人と共に新天地へ向かう。 逆にふわふわとした夢の中にいたグリンダが、自分の足で立ち、オズに残って国を導く。
対照的な二人ですが、これこそがふたり各々の自立であり、救いなのだと思います。
舞台版はまだ未見なのですが、映画が本当に素晴らしかったので、いつか舞台も見に行きたいです。歌、最高です!
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